レオが食べにくそうにしていました
ちょっとぎくしゃく、というわけじゃないけどお互いを意識しすぎて、よく観察しているエッケンハルトさんに訝しがられてしまっているのは、どう誤魔化すべきか……。
クレアは慌てながらも、表面上は平静を保って「なんでもありませんから、気にしないで下さいお父様」なんて言っているけど、俺からも誤魔化しておいた方がいいのかな?
なんて思っていると、マリエッタさんからエッケンハルトさんが注意されていた。
「初々しい二人がよそよそしく、けどそれに険悪な雰囲気ではないなんて……答えは一つで進展があった以外に考えられないでしょうに。皆わかっているわよハルト」
と言っていた……俺達の雰囲気から、何かを察したのはエッケンハルトさんだけじゃないらしい。
うぅむ、よく見られているなぁ――。
「成る程、キーマカレーかぁ」
クレアとの事が、なんとなく皆に察せられてしまっているのは置いておいて……食卓に配膳される料理。
挽肉を使ったキーマカレーだった。
昨日に続いてのカレーだけど、二日くらいなら問題ないな。
「うん。カレー粉の残りが少なかったからね。昨日のは残らなかったし……僕としては、残って一日置いたカレーも好きなんだけど」
思っていた以上に、カレーを食べた多くの人に好評だった事に加え、フェンリル達も喜んで食べていたのもあってか、昨日作ったカレーは残っていないため、一日置いたカレーというのは食べられない。
それは俺もユートさんと同じく残念だ。
それはともかく、カレー粉は残りが少なくかろうじてあと一回分に足りないかも? というくらいだったので、ユートさんの助言でキーマカレーにしたという事だった。
キーマカレーだからって、カレー粉が少なくて済むわけではないと思うけど、そこはクズィーリさんがスパイスを追加してくれたらしい。
アレンジなのか、昨日のカレー粉とはまた別のスパイスも多少違う物が使われており、少し刺激的な香りを放つキーマカレー。
辛くなってそうだと予想して食べ始めてみると、意外にもちょうど良い辛さというか……少なくとも昨日のカレーの辛口より、辛味は感じなかった。
挽肉が多く使われているからだろうか?
ちなみに、昨日と同じくパンとご飯を両方用意されていて、好きな方を選んで食べられる形式だ……ご飯の方が、少し辛味が抑えられる気がするためか、甘口が好みだった人達は今日はキーマカレーライスにして食べる人が多いかな。
「うーん、でもちょっと失敗かなぁ? もうちょっとこう、濃厚なカレーの風味が欲しかったけど」
「やっぱり、カレー粉が少なかったからじゃないかな? でも、これでも十分キーマカレーとして美味しいし、カレーの一種としては受け止められていると思う」
ユートさんがマイスプーンでキーマカレーライスを食べつつも、少しだけ眉根を寄せている。
確かに、どちらかというと強めのカレー風味という方が近い物になっている気がするけど、許容範囲だろうとは思う。
挽肉とカレーの風味が絡んで、ご飯にもよく合うし、パンも同様だ。
まぁユートさんにとっては満足いくできではなかったみたいだけど、概ね皆は楽しそうに、そして美味しそうに食べてくれているからいいんじゃないだろうか。
ヘレーナさんも、カレーの別の食べ方というかバリエーションの一つであるキーマカレーを作れて、そちらの方でかなり満足そうだし。
そんな風に、皆で新たなカレーの側面や可能性を感じながら食べている中、ふとレオの様子に気付いた。
「……レオ、どうしたんだ? 昨日は喜んで食べていたのに」
「ワウゥ……ワッフワフ……」
「あー、まぁそれは仕方ないというか、避けようにも避けられないというか……」
レオはキーマカレーを前にしながら、何やらしょんぼりしながらほとんど口を付けていなかった。
理由を聞くとどうやら、食べる事で口周りが汚れてまたお風呂に入れられるのが嫌だった、という事らしい。
まぁ、レオやフェンリル達の食べ方で、毛で覆われた口の周りを汚さずに食べるなんて、ほぼ不可能だろう……というか、そんな事できるんだろうか?
フェンリル達の方は、レオ程お風呂が嫌いというのもいないためなのか、何も気にせず盛大に口周りを汚しながら食べているようだけど。
「うーん、それじゃあ仕方ないな。あまりレオのペースというか、口いっぱいに食べられないとは思うけど……すみません、ライラさん。えっと……」
「畏まりました。すぐにご用意いたします」
「ワフ?」
口を汚さない方法として、レオが満足できるかはわからないけど、ライラさんに頼んで新しいスプーンを用意してもらう。
首を傾げているレオの前に置いてあるキーマカレーを、そのスプーンでできるだけ多めに掬って……。
「ほらレオ、口を開けて。こうすれば、少しずつにはなるけど口の周りを汚さずに食べられるだろ?」
大きく口を開けたレオに、スプーンでキーマカレーを運んで舌の上に乗せる。
見ようによっては俺の手が食べられるような感じだが、逆にレオの口が大きくて気を付けなくてもスプーンが喉まで行ってしまう事はなさそうだ。
「アッフ! アーフ……ングング。ワフゥ」
俺が素早く手を引くのと同時に口を閉じ、咀嚼しつつキーマカレーを飲み込んだレオだけど、少し不満そうにも鳴いた。
「量が少ないのは我慢してくれ。これしかないから仕方ないだろう?」
「ワウゥ……」
スプーンは当然人が使う物だから、レオの大きさに合っておらず一度に運べる量が少ない。
口いっぱいに頬張りたいと、不満そうなレオには申し訳ないが、汚さずに食べるにはこれしかない……と思う。
毛にカレーが付いたら、濡れたタオルなどで拭いても簡単には取れなくなるしなぁ……。
「パパ、リーザがやってもいい?」
「お、もう食べ終わったのかリーザ。うん、いいよ」
「やったー! ママ、頑張ってリーザが食べさせるね!」
「ワ、ワフ……」
俺がやっていたのを見たリーザが楽しそうだと思ったのか、ねだられたので交代する事にした。
急いで食べたのか、口の周りが汚れていたのでジェーンさんに拭かれながらだけど。
リーザが担当してくれるなら、レオもあまり不満そうにできないだろうから、適任だな――。
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