表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1875/1997

小さな願いは叶えられました



「クレア、だからその……俺は、どんなクレアの表情だって、見ていたいんだ。一緒に悩んで落ち込んで、一緒に何かをやって上手く行ったら喜んで。でもその中でも、特に可愛いクレアの笑顔が一番好きで……」


 頭の冷静な部分は、俺自身に対して何を言っているんだ! と叫んでいる気がするが、本心でもあるので止まらない。

 いつの間にか俺自身も、クレアの潤んだ瞳に捉まって、熱くなっている部分が暴走しているのかもしれない……なんて、急に自分でも驚く程に口説いてしまっていて、混乱が大混乱だ。


「タクミさんと一緒に……はい、私もそう思います。できればタクミさんと一緒に、どんな事でも。タクミさん……ん……」

「クレア……」


 引き込まれる程の、美しく潤んだクレアの瞳が閉じられ、顎が少しだけ上がる。

 そんなクレアに吸い込まれるように、俺もゆっくりと目を閉じながら顔を近づけて行く。

 窓から差し込む光が映し出す、俺とクレアの影が重なる……それは、お互いを柔らかく受け止める誓いのくちづけ――。


 ――数秒だろうか、数時間だろうか……長いとも短いとも思える時間が過ぎ、火傷したのかと思うくらい顔が熱くなった俺は、クレアと背を向け合ってソファーに座っている。


「え、えーっと……その……なんと言いますか……」

「は、はい……タクミさん……その……私こそなんと言えばいいのか……」


 以前にも一度あったけど、あの時以上にはっきりとそしてしっかりと、重なり合った二人の唇。

 色んな感想がフル回転している脳内で浮かんでは消えるけど、そのどれも今は相応しくない気がして、どんな事を言えばいいのか、わからなくなる。

 ただひたすらクレアと背中合わせに「その、えっと」や「あのその……」などと言い合うだけだ。


「あ……タ、タクミさん!」

「え!?」


 そんな中、クレアが突然大きな声で叫ぶように俺の名を呼んだ。

 驚いて体をクレアの方へ向けると、そのクレアは目を見開いてネックレスの宝石を見ていた。


「光が、消えていきます……」

「ほんとだ……」


 宝石の内側に、まだほんの微かに残っていたらしい光。

 さっきは完全に光らなくなったと思っていたけど、まだ残っていたのか。

 日が落ちて窓からの光が弱まったため、目に見えるようになったんだろう。

 その光は段々と弱まり、数秒程度で消えていった……今度こそ、陽の光に邪魔されてとかではなく、完全に光は消えてしまったようだ。


「その宝石って、確かクレアの小さな願いを叶える……んだよね?」

「レオ様の考え通りなら、ですけど、はい……」

「って事はもしかして、さっきのは……」

「はっ!! ~~っっ!!」


 ガバッと顔を上げて俺を見、瞬間湯沸かし器みたいに首まで熟れたリンゴのように真っ赤になったクレアが、すぐさま体ごと俺から背けた。


「あ、あ、あれが私の願いだなんて……でも確かに、あんな、リーザちゃんやライラが見ている前で……」

「も、もしかしたら、だけどね? お、俺もちょっと不思議な事があったし……」


 まぁ俺とクレアが二人の世界に入るのは、誰が見ているとか関係なくあるんだけど……さっきのあれは唐突過ぎた。

 しかも俺は、クレアにかける言葉を冷静な頭の部分で止めようとしていたのに、止まらず口にしていた。

 それこそ、何かに操られるように……いや、本心ではあるけど。


「タ、タクミさんの不思議な事っていうのは?」

「あーいやえっと……」


 クレアの方に向き直り、視線を戻すと上目遣いで聞かれてしまった。

 さっきの事……感触などが蘇って、まだ冷めていない顔の熱が上昇するのが感じられるけど……これは話しておかないといけないかな。

 あれがクレアの持っているネックレス、その宝石の力かもしれないのだから。


「その、さっきの言葉なんだけど……まぁ色々言ったと思うけどね? それは間違いなく本心で、考えてもいないのにってわけじゃないのは信じて欲しんだけど……でも、止めようとしても止まらなかったんだ。えっと、恥ずかしいというか……ね? やっぱりあぁいうのは俺っぽくないというか……」


 まごう事なき本心であっても、あんな気障っぽい臭いセリフを、リーザやレオ、それにライラさんがいる前で気にせず言えるようなタイプじゃないのは、俺自身がよく知っている。


「なんと言えばいいのか……クレアに言葉をかける自分を、上から? いや後ろから……まぁどっちでもいいんだけど、とにかく離れて見ているような感覚も少しあったんだ。それこそ、何かに操られているとか、突き動かされているというか……だから、ちょっと不思議だったなって」


 多分だけど、操られているというよりは背中を押されて、本来なら自制するなりで二の足を踏むところを進むようやんわりと促された、という事なのかもしれない。


「そう、なのですか……確かに、タクミさんに言われると私も思う事があります。先程も、タクミさんの言葉が嬉しかったのは本当ですけど、あんな……自分から求めているような素振りをするなんて……いえその、以前にも一度あったのでまた、というのは考えていたのですが」


 クレアって意外と、という言葉が当てはまるかわからないけど、結構一人で悶々と考える事が多いよなぁ……あんまり人の事は言えないけど。


「考えて、くれていたんだ……」

「ハッ!? そ、それはその……はい……」


 今度は宝石の力とは関係なしなんだろうけど、落ち着かない様子で恥ずかしそうに言った自分の言葉に気付き、ハッとなったクレアが縮こまりながらも小さく頷いて肯定してくれたのは、なんというか可愛い。

 そんなクレアを見ていると体の奥底から、愛おしさというか……クレアを抱きしめたいという衝動が湧き上がるけど、今はとりあえず我慢だ。


「え、えーっと……とにかく、二人共本心で何かに操作された……のかもしれないけど、悪い事じゃなかったってわけで……」

「そ、そうですね。宝石の力だとしたら、ちょっと悔しい思いもありはしますけど、それでも嫌ではなかったですから……す、すみません!」

「う、うん……お、俺もそうだから」


 そっと指先で自分の唇に触れるクレアが、俺の視線に気付いて謝るけど……まぁ色々思い出したりしているのは俺も同じだから、あまり突っ込めない。

 というか振り払っても振り払っても、湧き上がるようにさっきの事が浮かんで来るから、半分くらい諦めている――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

また、ブックマークも是非お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍版 第7巻 8月29日発売】

■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


詳細ページはこちらから↓
GCノベルズ書籍紹介ページ


【コミカライズ好評連載中!】
コミックライド

【コミックス6巻8月28日発売!】
詳細ページはこちらから↓
コミックス6巻情報



作者X(旧Twitter)ページはこちら


連載作品も引き続き更新していきますのでよろしくお願いします。
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
エンダァァアアアーー!! はー、やっとかい!w
[良い点] 願いが叶えられて良かったですね。 [一言] それにしても1000話以上書いているなんて凄いです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ