ネックレスには力が宿っていました
「……つまり、このネックレスにはクレアの願いを叶える力が備わっている、って事か?」
「ワッフ。ワウ~……ワフ」
「確実ではないけどってところか」
「私の願い……」
レオによると、ほのかに光を放っていたネックレスの宝石。
それはクレアが身に着けていたのもあってだろう、今ではクレアの小さな願いを叶える力があるのだとレオは言う。
あくまでも、推測というかレオから見てそう感じるというだけで、絶対そうとは限らないみたいだけど。
ただ、その効果というか叶えられる願いは、クレアが強く願う事と力が蓄えられている事、さらに萎れかけの花が一本でまだ完全に枯れていなかったから、というくらいに条件が厳しく、本当に小さな事しかできないだろうとの事だ。
ネックレスの宝石が光を放ち始めたのは、レオやフェンリルから祝福されてからだけど、その時にそういった力が備わったんだろう。
なぜそうなったかはわからないが、シルバーフェンリルとしてのレオの力、フェンリルの力、それからクレアや近くにいた俺……と言うか多分ギフトの力が、絡み合った結果なのかもしれない。
レオも色んな力が混ざっているって言っていたから。
その他、レオの話と推論を混ぜたりして考えると、願いというのもあってかクレアの感情に反応すると思われる。
レオが見て気付いたのも、クレアが花瓶の花を寂しそうに見ていた時に宝石の事が、なんとなくわかったかららしいしな。
クレアの感情に反応してレオにもわかるようになったんだと思う。
以前は、何故光っているのかレオにすらわからなかったみたいだし。
「でも、力が蓄えられるってどうやるのでしょう? ずっとほのかに光っていただけですけど……」
「ワフ~? ワッフワフワフ」
「光っている時は、力が蓄えられていた状態らしくて……」
宝石が光っていた状態が、力の蓄えられている証であり、それが光となって表れていたという事らしい。
そして今、その宝石は役目を終えたのか光を放つ事はなくなっていた。
よく磨かれた宝石である事には変わらないので、今も窓から入る光を反射して綺麗に輝いてはいるけど。
「ワッフワウワフ」
「え、そうなの? そうなのかぁ……」
役目を終えた、ように見えた宝石だけど……クレアが身に着けていれば、そのうちまた力を蓄えて光だすだろう、との事らしい。
どういう力が蓄えられているのか、魔法やギフトなど不思議な力のあるこの世界だから、そういう事があるくらいには思えるけど、それがクレアの生命力とかだったらやだなぁ。
ほら、願いを叶える代わりにって、よくある話じゃない?
「クレアの体の方には、何か悪い事が起きたりはしないのか?」
「ワッフ。ワウーワフ」
「そうか、大丈夫なのか……良かった。ならこれからもクレアが身に着けていて問題なさそうだ」
レオの保証付きで、問題ないらしいのでほっと一安心。
ただまぁ、そのレオでも蓄えられている力がなんなのかはっきりしないらしく、どれくらいでまた光を放つかなどはわからないようだ。
それこそ、明日かもしれないし数年後かもしれないと。
「ありがとうございます、レオ様。レオ様、それにタクミさんもですけど……おかげでまたこの綺麗な花を楽しむ事ができます」
嬉しそうに微笑むクレアは、大事そうにネックレスを持っている。
ほんの小さな願いをまた叶える事ができるようになるのは、いつになるかわからないけど……プレゼントした身としてはそれがクレアの役に立ち、さらに大事にされているというのは、花に続いてやっぱり嬉しいもんだなぁ。
「なんにせよ、これで何も残念な事も諦める事もなくなって良かったって事だね」
よくわからない事が多いし、解明できるのかすらわからないけど……とりあえず良かったで締めておくしか今はないだろうなぁ。
悪い事が起きたわけじゃないし。
「はい。ですけど……」
「どうかした、クレア?」
「ワフゥ?」
「キュゥ?」
俯くクレアに、俺だけでなくレオやシェリー……声は出さないけどリーザやライラさんも窺うように見る。
「私だけ、タクミさんとレオ様にもらってばかりで……何もお返しができていないのが心苦しいです。物だけでなく、気持ちも……」
「なんだ、そんな事かぁ」
「そんな事だなんて……もらうだけというのも、どうしたらいいかわからなくなるものなのですよ?」
「それもそうだね、ごめん」
そんな事、と言うのは確かにちょっと失言だった。
口を尖らせたクレアに、苦笑しながら謝る。
俺としては、ただクレアが喜んでくれたらという一心でプレゼントしているだけなんだが、もらう一方というのも確かに色々考えてしまう物なのかもしれない。
それがどんな関係でも、だ。
……もらう事が当然と考えて、深く考えたり形だけの感謝しかしない人もいるだろうけど、クレアはそんな考えの人じゃないからな。
「俺はただクレアが喜んでくれたら。笑顔を見せてくれたらって思っていただけだし、あまり気にしなくてもいいんだけどなぁ。そうだね、だったらいつも笑っていてくれたらいいかな? あ、いやでも……」
ちょっとクサいセリフになってしまいそうでき恥ずかしかったし、受け取り方によっては傲慢にも聞こえてしまいそうな事だったので、鼻を指先でかきつつ言い直す。
「もちろんクレアが辛い時や苦しい時とかは一緒に悩んであげられれば、と思うし無理に笑う必要はないよ。だからその……なんて言うのかな、心のままに、笑いたい時に笑って微笑みかけてくれれば、俺はそれで十分かな」
なんでだろう、言えばいう程どんどんキザなセリフになって行ってしまっている気がするのは、俺の気のせいだろうか?
「タクミさん……」
「……ワウフ」
「ママ?」
「キャゥー?」
「リーザお嬢様、しばし離れておいた方が良いかと」
「んう~?」
俺を見上げるクレアの潤んだ瞳から、目が離せなくなる。
あれ? こんな雰囲気にするつもりじゃなかったんだけどな? なんて考える、俺の頭の冷静な部分が疑問を浮かべるとともに、レオがリーザやシェリーを連れて離れるのを感じる。
そのまま、ライラさんの言葉と共にリーザの不思議そうな声を残して、静かに部屋の扉が閉まる音が聞こえた。
そっと外へ出て行ったんだろう……気を遣ってくれた、のかな――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。