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1873/1996

やはり切り花が枯れるのは寂しいようでした



「ふふ、切り花よりも甘い香りが濃い気がしますが、香り自体は強くはないんですね」

「そうだね。乾燥させているからだと思うけど、強い香りはなくて、でも香り自体は花に付いているから楽しむ事もできるんだ」


 俺が学んだ知識というよりも、教えられたというか聞かされて覚えた知識だけど……ドライフラワーは乾燥しているため、イメージとしては香りがないように思うけど、実際は結構香りその物が残っている。

 もちろん、ドライフラワーにする際のあれこれで違ったりするみたいだけど、プレゼント用のは上手くいった。

 まぁ多くの花をドライフラワーにして、成功した物だけを束ねているんだけど。

 ちなみに、色や香りから成功と言えたのは二割程度で、クレアに渡した束は十本だから駄目になってしまった数は結構あったりするけど。


 その後は、嬉しそうなクレアと共にレオとライラさんから、俺が勝手に生温く感じる視線を受けつつ、リーザとシェリーがじゃれ合うのを眺めつつ、ドライフラワーについて話す。

 保管方法とか観賞する際の注意点だけど。

 基本は切り花と変わらず、直射日光に当てないようにして、できるだけ高温で湿っている場所にはおかない事などだな。

 あと、手入れとしては埃をこまめに取り除いたりするくらいで、水を与えたり替える必要はないので手間としては切り花よりは楽だとも伝えた。


「そのまま、何かの入れ物に入れて飾るのもいいし、壁に掛けてもいい。観賞するならだけど、楽しみたい方法で置く場所などを考えればいいと思うよ」

「はい。切り花の方もそうでしたけど、いつもこの部屋か寝室で楽しませてもらっていました。これも、同じようにしたいと思います」


 この部屋と寝室って事は、切り花を生けていた花瓶は執務室で仕事をする時だけでなく、寝室に移動したときなど持ち運んでいたのか……。

 それでいて、俺が予想していたよりも長持ちしていたのは、本当に大事にされていたんだなぁ。


「もう少ししたら、枯れてしまうと思うし……残念ではあるけど。切り花の代わりに花瓶を使ってもいいかもね。もちろん、水はいらないから入れ物みたいになっちゃうけど」

「そうですね……でもやっぱり、なんとなくこれはこの花だからこそ、だと思うんです」


 そう言って、寂しそうな目を萎れかけている方の切り花に向けるクレア。

 しまった……いいアイデアだと思ったけど、思い出させちゃったか。

 せっかく、ドライフラワーをプレゼントしてクレアを元気づけようと思っていたのに、振出しに戻った感じだ。


「うーん……」


 大事にしていた花が枯れて、別の物をというのは確かに寂しさとかを感じるものかもしれない。

 さすがにこれ以上花瓶を使うように言う事はできないし、思い出として大事にしてくれるようだから、別の方法などでフォローできないか考えたけど、何も出て来ない。

 こういう時、なんて言ったらいいんだろう……? なんて考えていたら、ふいっとレオが立ち上がってこちらに来た。


「ワフ」

「どうしたんだ、レオ?」

「私、ですか?」


 何やらレオは、クレアへと鼻先を近づけた。


「ワッフワフワフ」

「クレアの、ネックレス……? それって」

「これ、ですか? あの時、花と一緒にタクミさんから頂いたもので、ずっと付けていますけど……」


 レオが示したのは、ほのかな光を放ち続けているクレアのネックレス。

 もちろん光っているのは宝石部分だけど……そう言えばあれって、レオがフェンリル達と一緒に俺やクレアの事を祝ってくれた際に、光を放つようになったんだったっけ。

 ユートさんも、そうなっている理由とかよくわからないようだったけど。


「ワウー、ワッフワフ」


 今度は俺に顔を向けて何やら伝えるように鳴いたレオ。

 えっと……。


「そのネックレス、というか光っている宝石を花に近付けてって言っているみたいだ」

「これを、ですか……?」

「ワウー」


 よくわからないけど、レオが言うならという事でクレアがそれに従い、ネックレスを外して宝石部分を萎れかけている花に近付ける。


「……何も起こらないぞ、レオ?」

「ワフー、ワウワフワッフー」

「えーっと、この花が元気になるように、強く願って。って言ってる」

「元気に、ですか……えっと」


 宝石と萎れかけた花が、ほとんど触れるくらいの距離のまま、レオの言葉に従ってクレアが願うように目を強く閉じる。

 なんとなく、俺もそうした方がいいような気がして、クレアの手に自分の手を重ねながら心の中で願った。

 できる事ならば、クレアを悲しませないよう、寂しがらせないように、無理かもしれないけど元気な花の姿をもう一度……と。

 ライラさんやリーザ、シェリーが何事かとこちらを見ている中、しばらく無音の時間が続く。


「わぁ!」

「キャゥー?」

「こ、これは……!?」

「ん……」

「どうしたんだ……って」


 俺達を見守っていたリーザとシェリー、そしてライラさんの声に、クレアと共に目を開けると……。


「花が、前のように元気になっています!」

「そ、そうみたいだね……一体どうして……」


 俺達の目に映ったのは、萎れかけではなく輝く程の美しい色合いで、誇るように咲いている花だった。

 先程までの様子は見る影もなく、またしばらく咲き続けてくれるのがはっきりわかる程だ。


「ワフーン」


 すぐ横で、レオが誇らしげな鳴き声を上げているけど……一体何があったんだ?


「えっとね、パパとクレアお姉ちゃんが静かになってから、少しずつお花さんが元気になって上を向いて行ったよー」

「キャゥ。キャゥキャゥキュウ!」

「リーザお嬢様の言う通りで、旦那様方が目を閉じた後、少しして花が段々と以前の様子を取り戻していくようでした」


 目を閉じていた俺達に代わり、どうなったのかをリーザ達に聞いてみたらそんな感想だった。

 シェリーが何を言っているのか俺にはわからないが、きっと似たようなものだと思う。


「一体、どういう事なのでしょう……レオ様?」

「ワッフ、ワフガウ。ワフーガウワフン」


 クレアの問いに、レオが得意げになって前足などで身振りも加えながら説明。

 とはいえ、そのままではクレアに伝わらないので、俺やリーザ、シェリーを介しての通訳をした――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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