本当に渡したかったプレゼントを渡しました
「えーっと、一応その花が枯れた時のために代わり……と言うのもどうかと思うけど、別の物も用意していたんだよ」
「別の物、ですか?」
「うん、ちょっと待ってて……と、リーザ。レオもだけど不甲斐ない俺に代わって、クレアを元気づけておいてくれるかな?」
執務室を出ようとして、クレアに聞こえないようにレオとリーザに小さな声で頼んでおく。
あれでどうにかなるとは決まったわけじゃないけど、とりあえずレオとリーザ、それにシェリーが一緒になれば少しはクレアも気分が変わってくれるはずだからな。
「ワフゥ? ワウ」
「わかったー!」
仕方なさそうなレオと、いい子のリーザの返事を聞きつつ、足早に執務室を後にした。
「えぇっと……どこにしまったかな……」
「旦那様のお探しの物はこちらでしょうか?」
「あ、それです! って、ライラさん!?」
一旦自室に戻り、部屋の中を漁って探し物をしていると、棚から取り出されて俺の前に差し出される目的の物。
それはライラさんが取り出してくれた物だった。
ライラさん、さっきまで執務室に一緒にいたのに……ここまでついて来てくれていたのか。
「以前、旦那さまから話は聞いておりましたので。おそらく旦那様であれば、今思い出すのはこれかと」
「そうです、ありがとうございます。ほんと、こういうところ情けないですけど……ライラさんには凄く助けてもらっていますね」
「いえ……」
ついっと、俺から顔を逸らすライラさん……どうしたんだろう?
まぁ何はともあれ、ライラさんが見つけてくれたそれを受け取って、絶対に『雑草栽培』を発動させないように気を付けながら、黄色の花を咲かせているそれを持ってクレアの執務室に戻る。
「ふふふ、リーザちゃんタクミさん……パパのそういうとこが好きなのね?」
「うん! だってパパ、すっごく優しいし。クレアお姉ちゃんは違うの?」
「ううん、私もタクミさんのそういうところがとっても好きよ。レオ様やシェリーもだし、この屋敷にいる皆もそうなのよ」
「やっぱりパパって、皆も好きなんだね」
「ワッフワフ」
「キャウ~」
執務室に戻ると、和気藹々と話すクレア達の姿があった。
俺が離れている間に、クレアは執務机から移動してソファーとテーブルへと移動し、リーザと一緒にシェリーを抱きながら座っている。
レオはそのすぐ横だな。
薔薇の切り花が入った花瓶は、
「……えーっと。何かものすごく恥ずかしい話をされていた気がするんだけど……?」
「タクミさん、お帰りなさい」
「パパお帰りー!」
「ワッフ」
「キャゥキャゥ~」
話を全て聞いていたわけじゃないけど、俺に関しての話だったのはなんとなくわかる程度に聞こえた。
レオは多分、俺が戻ってくるのがわかっていても止めなかったんだろうからいいとして、悪い事を言われていたわけじゃないのは、クレアやリーザの雰囲気でわかる。
かなり恥ずかしい気がするんだけど……それはともかくだ。
気を取り直して、迎えてくれるクレア達に返しつつソファーへと近づいた。
「タクミさん、お帰りなさい。どうされたんですか?」
俺へと顔を向け、首を傾げるクレア。
少しだけ、先程花が枯れてしまうのは避けられない……とわかった時より雰囲気が明るい気がするのは、リーザやレオ、それにシェリーのおかげだろう。
「あー、えっと……」
そんなクレアの前で、後ろ手に持った物を意識しつつも、深く呼吸する。
最初は、クレアとティルラちゃんの両方にだったけど、どうしても改まってプレゼントとなると緊張してしまう小心者なのは相変わらずだな、俺。
多分気のせいだと思うけど、後ろからライラさんが視線で背中を押してくれる……いや、さっさと渡せと言われているような気がする。
いや、ライラさんはそんな事言わないだろうし、俺の妄想というか緊張で勝手にそう考えているだけだけど……なんにせよ、思い切ってクレアに持った物を差し出した。
「……これは、同じ花……ですか? 少し色が違いますけど」
プレゼントは、ドライフラワーにして束ねた薔薇の花束だ。
生花である切り花とは違って、花弁の色は黄色が強くなっており少し印象が変わる。
けど、その方がクレアの髪の色と近くて俺がイメージしていた通りな気がするな。
「う、うん。その、最初はこっちをクレアに渡そうと思ってたんだよ。これはドライフラワーと言って、乾燥させる事で長持ちするようにしたものなんだ。ただ、用意するのと決意するのが遅くて……まぁ言い訳になるけど、間に合わなかったんだよ。だから、実際にクレアに渡したのはその切り花だったんだ」
「そう、なのですか……?」
クレアオースチンという薔薇の事を思い出し、プレゼントすると決めたのは、告白する少し前だからな。
そこから『雑草栽培』で作って、ドライフラワーにして……まぁ俺が決意というか、意思を定めたのが遅かったせいもあるんだけど、どうしてもこの屋敷に引っ越す前にはっきり言っておきたかったのもあって、間に合わなかった。
ドライフラワーは数日程度でできる物じゃないからなぁ。
結局、こちらに来てからの諸々で完成はしていたんだけど、いずれ渡そうと考えてそのままになってしまっていた。
「……ふぅ。駄目だなぁ、俺。本当はもっと早く渡そうと思っていたんだけど……他の事にかかりきりで。それに、クレアと一緒にいられる事で満足しちゃってたんだと思う」
「それは、私も同じですタクミさん。自分をあまり責めないで下さい」
「うん、ありがとう」
プレゼントを渡しつつ、遅くなった事で勝手に自己嫌悪して、それをクレアに慰められるなんてさらに情けないけど……今はネガティブループに入っている時じゃないな。
「ありがとうございます、タクミさん」
「こちらこそ。大事にしてくれると嬉しい」
「もちろんです。タクミさんからもらった物は、どんな物でも大切です。もちろん、私のこの気持ちも」
そう言って、顔を綻ばせたクレアに真っ直ぐ見つめられる。
喜んでくれたのは何よりだけど、いつもとは違って今回は俺がものすごく照れくさいというか恥ずかしいというか……。
顔が熱いから、多分真っ赤になっているんだろうな――。
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