皆で屋号を決めました
「いえ、私もあまりそちらの知識があるとは言えませんが、以前読んだ書物で薬に関しての記述で、ファーマスーティカルと書かれていたのを思い出したのです」
「ファーマスーティカル……ですか?」
どことなく、メディカルという言葉に響きが似ている……ような気がしないでもない。
「確かその書物では薬品……つまり、薬の事を示しているようでした」
「薬が、ファーマスーティカルと……」
もしかするとどこか別の国の言葉とかだろうか?
俺やユートさんのように、地球から来た人が知っている言葉を使った、という可能性もなくはないが……。
いや、今はそれよりも屋号に良さそうな名前を決めないとな。
「ただ、他では見ない言葉ではありますので……聞いただけで何を示すのか、よくわからない人が多いかと。申し訳ありません」
「いえ、案というか参考になる言葉を聞けただけでも、助かります。ありがとうございます」
申し訳なさそうにしているヴァレットさんに、お礼を伝える。
何も案が出ないよりは、結果的に駄目だったとしても言ってくれた方が刺激にもなって助かる。
「それで思い出しましたが、以前メディスンという言葉を聞いた事があります。多く使われているわけではありませんが、病などを治療する時に使われていたかと」
「メディスン……成る程」
確か医薬品って意味だったかな? メディシンとも言うとかなんとか。
薬だけど、医療とはまたちょっと違うような違わないようなだし……こちらもヴァレットさんの案と同じく、広く使われている言葉ではないので、聞いた人がピンとこない可能性もありそうだ。
「うーん……クレアの案とヴァレットさんの案を足して、ファーマディスンとか? いやでも、もう意味がよくわからないし……」
「無理に私の案を足さなくてもいいとは思いますが……」
「両方が薬の意味なら、薬草の方が忘れられている気がしますね。病や怪我を治すのは、薬草でもありますし。私としては、タクミ様の功績がわかるような名がよろしいかと思うのですが」
「エルミーネさんの言うように、私も旦那様が作られている薬草の方を、重視して考えるのもいいのかと」
「それには私も同意するわ。タクミさんが全ての元となる薬草を作るのだから、そこは外せないわね」
等々、シェリーとじゃれ合っているレオやリーザはともかくとして、俺だけでなくヴァレットさんやエルミーネさん、それにライラさんとクレアで頭を悩ませながら考えるも、すぐにいい案は出ない。
俺としては、最初は『雑草栽培』頼りだからともかくとして、量を増やす畑などは従業員さんが関わっているため、そこまでこだわる必要はないと考えているんだけど……。
クレア達は薬を前面に出すよりも、薬草をメインに考えた方がいいらしい。
うーむ……薬草か、安易に考えればそのままハーブとか……メディカルハーブだっけ? とかで良さそうだけど、そのまま屋号にするのはちょっと違うだろうし。
そうして、しばらくの間あーでもないこーでもない、と案を出し合って屋号について考える。
俺も含めてだけど、全員がこうしたい! という強い思いがなかったおかげもあるのか、喧々諤々な会議ではなかったのは良かったか。
意見を出し合うという意味では悪くない事なんだろうけど、俺はそういう雰囲気が苦手だからなぁ。
ともあれ、知恵熱が出そうな程頭を悩ませる中、今すぐに決めないといけないわけでもないので、課題としてじっくり考えるようにした方がいいのかな? と思い始めた頃にようやく……。
「では『クラウトフェルト』で、賛成多数のようですね?」
「そう、みたいだね。うん、俺もそれでいいと思うよ」
クレアが挙手をしている俺達を見て、まとめてくれる。
いくつかの案ごとに、賛成票……まぁ手を挙げるだけのものだけど、それがクラウトフェルトという言葉に集まった結果だ。
ちなみにクラウトとは、こちらの世界で薬草に近い意味を持っているらしく、それに畑や野原の意味もあるフェルトを足した。
まぁ結局のところ、薬草畑の言い方を変えただけという……頭を悩ませた割には、単純な答えになってしまった形だ。
……凝り過ぎてもわかりにくくなってしまうので、名前を聞いて理解できるのが一番か、と納得する事にした。
とはいえ、ここにいる俺達だけでの意見になっているので、一応他の使用人さんや従業員さんにも聞いてみるよう、ライラさんとエルミーネさんにお願いしておく。
トップダウンというか、俺やクレアがそれでいいと決めたら特に反対意見は出ないだろう、とは言われたけど一応な。
エルミーネさんやヴァレットさん、それにライラさんにも意見を求めて、案の中から票を入れてもらったりもしたし、他の人達には一切聞かないというのも、俺としてはあまりやりたくなかった、我が儘みたいなものだ。
まぁ皆に聞いて、結局反対意見や別の案などがないならそれでいいしな。
言い難いとかはあるだろうけど、姿勢としては皆に意見を聞いているという事くらいにはしておきたいから。
だからこそ、俺やクレアからではなくライラさん達から、なんだけど。
「じゃあ次は……」
とりあえずではあるけど、屋号を決めたら次は店名。
他の街や村でも、直営に近い薬屋ができる可能性はあるし、その全てで同じ店名にするかはまた考える他、とりあえずランジ村で作ろうとしている薬屋の店名決めだ。
こちらは、あまり薬や薬草に関連した言葉にこだわらず、意見を求めてみる。
シェリーとじゃれ合っていたレオが積極的に参加してくれたりもした……レオ、意外と名を考える事に興味があるのかな?
いや、特に深い意味などなくてもいい、という店名決めだからかもしれないが。
屋号の時はあまり興味を示さなかったからな。
そして……。
「それじゃあ、ランジ村で作る薬屋は『レミリクタ』で」
「はい。私とタクミさんの名前が入っているのは、少し恥ずかしい気もしますが……」
「とはいっても、一つだけだしあまり気にしなくてもいいと思うよ。俺もこれくらいならって思うし」
「そうですね」
クレアの執務室にいる全員、レオやシェリーも含めて頷くのを見て、仮ではあるが薬屋の店名が決まった。
まぁ、浸透してくれるかはこれから次第だが――。
クラウトフェルトはドイツ語のハイルクラウター(薬草)とフェルト(畑、耕地、野原)を組み合わせた造語です。
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