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1869/1996

屋号決めの相談をしました



「キャゥ、キャゥ!」

「こらシェリー、あまりはしゃがないのよ? どうぞ」

「失礼します」


 ライラさんのノックと声掛けに答えるように、クレアの執務室の中からシェリーの楽しそうな鳴き声と共に、注意しながら入室を許可するクレアの声。

 それを聞き、ライラさんが扉を開けてくれてレオ達と一緒に中へと入る。

 声を駆けながら入ったクレアの執務室……第一印象はやっぱり俺の執務室とほぼ変わらない、という事だったけど、ふんわりといい匂いがする気がするのは、クレアが使っているからだろうか?

 花のような石鹸の香りが、執務室を満たしている気がする……。


「タクミさん、どうされたんですか?」

「え、あーいや……ちょっと相談したい事があってね。深刻な事では一切ないんだけど……」


 部屋の香りに気を取られていた俺に、クレアから声がかけられ意識をそちらに戻す。

 いけないいけない、よく起きてすぐと寝る前にハグをする時、クレアからほんのり漂ういい香りに気を捕らわれ過ぎていた。

 ここまで強く感じたのは初めてだったからか、好きな人の香りだから特に意識してしまったのか……両方か。

 レオやリーザも、この香りは嫌いではないようで鼻をヒクつかせながら尻尾を楽しそうに揺らしていた。


「エルミーネさんとヴァレットさんもいますし、ちょうど良かった」


 部屋には執務机についているクレアの外に、クレア側のメイド長であるエルミーネさんと、執事長のヴァレットさんもいた。

 三人で俺と同じように書類仕事に追われていたらしい。

 俺は薬草畑についてだけでいいけど、クレアは公爵家のご令嬢としてのあれこれもあるらしく、毎日俺より多くの書類確認や承認などをしているみたいだ。

 机に積まれている書類の束も、分厚い。


 ちなみに執事長のヴァレットさんと似た名前で、クレアが雇った従業員さんの中にヴァレールさんとヴァレリアーナさんという姉妹がいるけど、これは単なる偶然でヴァレットさんとは親戚だとか何か関係があるとかではないらしい。

 ……今はどうでもいい事だけど。

 とりあえず話を切り出そうとすると、シェリーがこちらへと駆けてきた。


「キャウー!」

「ははは、相変わらず元気だなぁシェリーは」


 シェリーを受け止め、笑いながら撫でる。

 もしかすると、執務室でクレアと一緒にいたのはいいけど、特に遊ぶ事もできず退屈していたのかもしれない。

 リーザを連れて来て正解だったかな?


「キャゥ~? スン、スンスン」

「お?」


 そう思っていたら、何やらシェリーが俺の手や服を嗅ぎ始めた。

 何か気になる匂いでもあるのだろうか……? と考えてすぐ思い当たった。


「もしかして……」

「キャゥキャゥ」

「ランジ村でちょっとな。っと、とりあえずクレアと話があるから、リーザやレオと遊んでてくれな?」

「キャゥー」


 ジョシュアちゃんを抱いて撫でていた時に、匂いが移ったんだろう。

 他の犬や猫を構った後、移った匂いが気になって嗅がれる事はよくあるし。


「シェリー、こっちこっちー」

「ワッフ」

「キャウ」

「ごめん、クレア。騒がしくしちゃって」

「いえ、シェリーも退屈してたようですし、今はちょうど休憩していたところですから」


 とりあえずシェリーをレオやリーザの所へ送り出し……とはいってもすぐ横だけど……クレアに謝る。

 クレアの方も休憩というのは本当のようで、机に置かれたカップから湯気が立っているのが見える。

 一息入れるためにお茶を淹れたばかりなんだろう。


「それでタクミさん、わざわざこちらに来たという事は何かあったんですか?」

「何か、という程ではないんだけど……えっと、薬草畑の屋号とか、ランジ村に出す薬屋の店名を、早く決めろとアルフレットさんにせっつかれてしまって……その相談に……」


 シェリーによって中断されていた本題に戻し、エルミーネさんやヴァレットさんにも視線を送りつつ、そう切り出す。

 言葉は多少柔らかかった……ような気がしなくもないが、アルフレットさんからは早く決めろという圧のようなものを感じたからな。

 せっつかれたであっていると思う。


「屋号の相談ですか。タクミさんが自由に決めてもいいと思いますけど……」

「それはそうかもしれないけど、いい案が浮かばなくて。自分の名前を付けるのは、何か違うかなぁって」


 こじんまりとした商店ってだけならともかく、多くの人を雇って、しかも公爵家とも繋がっている。

 さらに言えば、これから公爵領に広げて場合によってはそれ以外にもとなると、自分の名前を付けてそれが呼ばれるのは、なんとなく恥ずかしいというか……。


「そうですね……共同とはいえ、タクミさんが主導ですし私の名前というのも、何かおかしな気もしますし……であれば、何かそれらしい名を考えなければいけませんね」

「うん」


 人の名前を使うのに何も問題はないけど、せっかくだからちゃんとした名を、という気持ちもあるしな。


「薬草や薬を扱うから、それに関係するわかりやすい言葉とかないかなぁとは考えてるけど……何も思いつかないんだ」


 薬だからドラッグって最初に浮かんだけど、あれって日本で使われている以外は、あまり良くない意味の言葉として聞こえたりもするらしいし。

 まぁ地球とは違うからもしかしたらそれでいいのかもだけど……公爵家の初代当主様、ジョセフィーヌさんとかはヨーロッパのどこかかららしいし、同じように日本以外からこの世界に来た人が聞いたら、悪い想像をしそうだしな。

 そんな人がいるかどうかもわからないので、いらぬ心配かもしれないけど。


「薬草や薬に関係する言葉、ですか。そうですね……元々、詳しい分野ではありませんので、パッとは思いつきません……」

「まぁ、そうだよね……」


 クレアは公爵家のご令嬢で、貴族としての教育はされているようだけどさすがに医学というか、薬学かな、その方面に詳しいわけじゃない。

 セバスチャンさんなら本からある程度の知識は得ているだろうけど……。


「エルミーネさんや、ヴァレットさんはどうですか?」

「私もクレアお嬢様と同じくその方面には詳しくなく、一般的な知識程度で、あまり……」

「……お二人が何も思いつかないのでしたら、という前提ですが」

「ヴァレットさんは何か?」


 エルミーネさんも同じく、何も思いつかない様子で顔を伏せる。

 けどヴァレットさんの方は、眉根を寄せて考えながらだけど何か案がありそうな様子だ――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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