ランジ村で薬局を作る構想を話しました
「もし薬を飲んでも痛みが続くようなら、もしくはひどくなったり薬が足りないようら、また言って下さい」
「はい。本当にありがとうございます。これまでは、薬もなく……多少知識のある村の誰かが、薬草などを持っていれば、それを。というだけでほとんどが痛みに耐えて、過ぎ去るのを待つばかりでした。タクミ様が近くにいる事で、こんなに安心できるものなのですね」
「ははは、できるだけ村の人達が病で苦しまないように、とは思っていますよ」
ランジ村の皆をラモギの薬で助けた事、それに襲ってきたオークと戦った事など、その後に凄く感謝されたのもあるけど、この世界で色々と俺自身の事が定まったきっかけとも言えるからな。
むしろこちらが、ランジ村の人達に感謝したいと思うくらいだ。
もしランジ村での事がなければ、俺はただ薬草を『雑草栽培』で作って提供するだけで、自分から誰かを助けるために量産するなんて、しようとは思わなかったかもしれないし。
「それにしても、村には薬を扱うお店がある事はあまりないんですよね」
ブレイユ村でもそうだったけど、ちょっとした雑貨屋みたいな物や、カフェとか飲食店とかは一応ある。
ランジ村でもそれは同じなんだけど……薬局というか薬などを売っているお店がない。
確か、もう少し人口も規模も大きい村であれば、売っているお店などもあるらしいけど、品ぞろえは千差万別というか、あまり良くないみたいだ。
まぁそれらを解消するための薬草畑でもあるんだが……。
「すぐに、というわけではありませんけど。いずれこの村にも気軽に利用できる薬を売るお店ができると思います」
「それはありがたい事です。今までは、知識のある誰かに相談するしかできませんでしたから。相談しても、解決策……薬や薬草があるとは限りませんでしたし」
「そうですよね。もちろん、薬を売るお店も完全な知識があるというわけではないでしょうけど……」
病院はさすがに無理だが、薬局なら作れるし、その計画もアルフレットさんと詰めていたりするからな。
ただまぁ、薬局にいるのは薬剤師のようにちゃんとした知識を得て、資格を持った人というのは難しいため、全てに対応できる知識があるというわけではない。
そもそも薬剤師免許というものが存在しないしな。
「まぁまだ後々の話なので……今のうちは、何かあれば屋敷の方に来てもらうなり伝えてもらえばと思いますが……」
「タクミ様のお屋敷にですか。少々畏れ多い気もしますが、いいのでしょうか?」
今はエッケンハルトさんなど、公爵家の一族が勢ぞろいしているからなぁ。
リーベルト家の人達は領民に対して広く門戸を開いているつもりでも、貴族である以上畏れ多いとお婆さんみたいに考えてしまう人だっているのも仕方ないか。
「気持ちはわかりますけど、俺はランジ村の人には健やかに過ごして欲しいですから、気にせず来て下さって問題ありませんよ。ちょっとした相談でもいいですし。まぁそれでも難しいなら、村にいる使用人さんや兵士さんに言ってもらえれば、伝わると思いますけど」
お婆さんの場合は、村にいる使用人さんから俺に伝わってきたわけだけども。
使用人さんだけでなく、今は調査隊の兵士さんが村にはいるし、従業員さん達だって村で過ごす事もある。
要は屋敷に直接来なくても、俺に伝わるようにって事だ。
直接屋敷を訪ねるよりは、多分敷居は低いと思う。
薬酒も含め、お世話になっている村でもあるし色々協力もしてくれているから、近くにいる村の人達くらいはできるだけ助けてあげたい。
と思って、そうしている。
まぁシステムみたいな感じで構築されているわけじゃないから、時折使用人さん達から村でこういう事があった、というような報告の形で受け取るだけになってはいるけど。
……もっとちゃんと、考えておいた方がいいかな? いやでも、薬局のようなものができればあまり必要なくなるかもしれないし。
これは、アルフレットさん達と相談しておくかな。
「ワン、ワン!」
「おっと、ごめんごめん。おざなりになっていたね」
「これジョシュア。タクミ様に我が儘を言うんじゃありませんよ?」
「ははは、これくらいいいんですよ。ちょっと昔を思い出して楽しいですし。甘えられるのも嬉しいですからね」
お婆さんとの話に集中していたため、ジョシュアちゃんを撫でる手が止まっていて、それに抗議するように鳴かれてしまった。
謝って再び撫で始めると、目を細めて気持ち良さそうにしている。
いつもお婆さんに抱かれて撫でられているんだろうなぁ、というのがよくわかるくらい、撫でられるのが好きみたいだ。
「ワッフ!」
外から、レオの抗議するような鳴き声が聞こえる。
もしかしたら、ジョシュアちゃんの鳴き声がレオにも聞こえたのかもしれない。
「おっと、外で待たしているレオが、退屈しているみたいですね」
「これは気付かなくて申し訳ありません! レオ様をお待たせしているとは思わず……」
「まぁ連れて来たのは俺ですし、色々と話を聞けたので」
お婆さん一人だけだから絶対とは言えないけど、基本的にフェンリル達も含めてランジ村に受け入れられているという話も聞けた。
ジョシュアちゃんも、可愛がられているのがわかる甘えっぷりなのが見れたのも良かったかな。
薬を届けるだけで、俺が直接赴くのは……という考えの人もいたけど、やっぱりここに来て良かったと思う。
ランジ村の人達にも顔を見せられたしな。
「キューン?」
「お、外に興味があるのかな? えーっと、ジョシュアちゃんを外に出すのは、大丈夫ですか?」
「はい。そういえば、そろそろ日課の散歩に行く時間でした。いつも、私に催促するんですよ」
「ははは。外に出るのが楽しいと、催促されて連れて行かないと拗ねたりもしますよね」
レオにもそういう事があった。
俺に時間がなくて、どうしても散歩に連れていけない事もあったけど、そういう時は決まって拗ねてふて寝して呼びかけても反応しなかったりとか、イタズラされたりとかしたっけなぁ。
っと、いけないいけない、外でレオが退屈しているようだから、ちょうどいいしジョシュアちゃんを連れて出てみるか。
一応痛みはなくなっているらしいけど、あまり無理はしないようライラさんにお婆さんを支えてもらって、ジョシュアちゃんを連れてレオの待つ外へ向かった――。
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