体調不良のお婆さんの家に行きました
「お邪魔しまーす……」
訪ねる予定のお婆さんの家、村の中央から少し外れた場所にある建物だけど、特に他の家と変わったところもなく、一般的な家なんだろうそこに入る。
ちゃんと、声をかけて許可をもらってからだ。
ブレイユ村で一時的に過ごしていた家とは違って、平屋だな。
レオはさすがに入れないので、外で他の村の人達と一緒に待ってもらっている。
「おぉ、よく来て下さいました。タクミ様」
「あぁ、そのままでいいですよ。あまり無理をしないで下さいね?」
「申し訳ございません……このような不格好でお迎えしてしまって……」
玄関を入ってすぐ、ダイニングのようになっている部屋で椅子に座っていたお婆さんが迎えてくれるが、少しだけ顔色が悪いのは体調が悪いせいだろう。
足腰が弱くなっているのか、テーブルの端に手を置いて立ち上がろうとするのを止める。
ここに来たのは俺の思い付きでもあるので、無理をさせちゃいけないよな。
「早速ですけど、こちらが薬になります。個別に分けてあるので、一度に付き一包を飲むようにして下さい。あと、体調が改善されたら飲むのをやめても構いません。保存はあまりできないので、取っておいてまた使う、というのは止めて下さいね」
お婆さん……ラクトスの魔法具商店のイザベルさんよりも、さらに歳が行っていそうなお婆さんに、取り出した薬を渡す。
お腹を壊しているという事なので、若干の痛み止めと虫下し、あと整腸作用のある物を調合してある。
薬剤師や医者の真似事のような事を伝えているけど、実際に調合したのはミリナちゃんなんだが……メキメキと成長しているミリナちゃんは、もう俺が誤魔化すために使っている薬師という肩書を正式に使ってもいいんじゃないだろうかと思う。
「ありがとうございます、ありがとうございます。薬師様であるタクミ様が近くにおられて、本当に助かりました。これまでは、少々の事であればただ痛みが過ぎるのを我慢するだけでしたので……」
「いえ、助けになれたのならそれで。えーっと、ちょっと台所を使ってもいいですか?」
「はい、もちろんでございます」
「それじゃあ……」
「旦那様、ここは私にお任せ下さい」
「あ、はい。よろしくお願いします」
薬を飲んでもらうために、湯冷ましを用意しようと思ったらライラさんに奪われてしまった……というと人聞きが悪いか。
ともあれ、一瞬で手持無沙汰になってしまったので、竈に火を付けるのだけ魔法で手伝いをしておいてから、お婆さんと話す事にした。
聞きたい事、ではなくまずは薬の処方についてだな……大まかには最初に伝えたけど、細かい部分はまだだし。
「んと、とりあえずライラさんの方で準備ができたら、薬を飲んでもらうわけですけど……」
冷たい水より、一度沸かして冷ました湯冷ましの方が薬を飲むのに適している事。
今はとりあえずの対処として薬を飲んでもらうけど、基本的には食後など、できるだけ少しでも物を食べた後に一包を一回として一日三回飲む事などを伝える。
まぁ、基本的な薬の用法だな。
「今も痛みはあるようなので、食欲はないと思いますけど……薬を飲んでしばらくすれば改善されると思います。もしまだ痛んで食欲が出ないようでも、できれば柔らかく煮た物などを少しでも食べてから、薬を飲んで下さい」
薬の問題点というか副作用になるんだろうけど、結構胃に負担がかかってしまう物だからな。
まぁ胃が荒れるとかではなく、もたれると言った程度で強い薬でもないし、粉末なので湯冷ましで飲めば大きな問題にはならないだろうが。
それでも、お婆さんの年齢も年齢なので一応の注意として伝えた。
「畏まりました。タクミ様のお言葉、必ず守らせていただきます」
「そこまで大袈裟な事でもないんですけどね……」
時折痛むお腹に耐えながらも、深々と頭を下げるお婆さん。
なぜだろうか、ランジ村の人達は俺に対してエッケンハルトさんと大きく変わらないような接し方をする人が多い。
特に目の前にいるお婆さんなど、年齢が高い人ほどそうなんだけど……俺なんてありがたがるような存在でもないんだけどなぁ。
あれかな? 領主であるエッケンハルトさんやクレアなど、リーベルト家の人達と親しく接しているから、同じような扱いになっているとかかな?
もしかすると、以前オークが迫った時や病の素を発見したなどで、村を助けたからってのもあるのかもしれない。
「用意できました。どうぞ」
「ありがとうございます、ライラさん。――、ゆっくりでいいので薬を飲んでください」
「はい、ありがとうございます」
話している間に用意してくれた湯冷ましを、ライラさんからお婆さんに。
包みを開いて、中の粉末を湯冷ましと一緒にお婆さんが飲むのを見守る。
「……ちょっと、私のようなババァには苦くて飲みづらいですねぇ。あぁすみません、せっかく持ってきてもらった薬なのに」
「いえいえ。苦いうえに粉末だとどうしても飲みづらいですよね」
風邪薬とか、粉末の物は子供の頃俺も苦手だったから気持ちはよくわかる。
今は得意だとかそういう事もないけど。
場合によっては喉に粉が張り付いたりとか、最悪な時は咳き込んでしまって大惨事になったりもするからなぁ。
とはいえ、この世界には錠剤にする技術とかがないし当然カプセルもない。
どうしても薬は粉末か液体が多くなってしまうのは仕方ないだろう。
「どうしても飲みづらいと感じたら、少し効果は薄まるようですけど……湯冷ましに溶かして飲むと、多少飲みやすくなると思いますよ」
お婆さんに渡した薬は、それでも大きく効果が変わらないものだしな。
物によっては駄目なのもあるが。
「何から何まで、ありがとうございます。タクミ様」
「いえいえ、ランジ村の人にはお世話になっていますし……薬草や薬を作っているのに、近くにいて困っている人がいるのは見逃せないだけです」
外にばかり目を向けて、近くの人達が苦しんでいるのを見逃すなんて事はしたくないからな。
まぁ今回はお腹を壊した程度で、薬がなくてもしばらくすれば治る程度のものだから、そこまで大袈裟な事でもないが。
「クゥーン……」
「ん?」
「あらあら、出てきてしまったのね」
お婆さんが薬を飲み、少しだけ落ち着いた様子を見て安心していると、何やら可愛らしくもか細い鳴き声。
どこかで聞いたような、というか、レオがマルチーズだった頃によく聞いていた甘える鳴き声に近い気がする――。
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