カレスさんとニックを見送りました
「カレスさんもいてくれるからあまり心配はしていないけど、無駄遣いはするなよ?」
なんとなく、定型文的な事ではあるが一応言っておきたかった。
最近はニックもある程度しっかりしてきているようで、あればあるだけ使うなんて事もないみたいだが。
「もちろんですぜ、アニキ! アニキから頂いたお金は大切に保管して、いざという時に使わせてもらいやす!」
「まぁ、無駄遣いしなければ別に生活のためとかに使ってもいいんだけど……」
大事そうに懐にしまうニックを見ていると、使わずにずっととっておきそうだ。
生活だけなら、カレスさんのお店で働いているため、そちらからの給金である程度なんとかなっているみたいだしな。
とはいえ、生活を切り詰めてまで大事にされても困るから、あまり気にせず使って欲しい所だ。
「ではクズィーリさん。ラクトスに到着しましたら私の店を訪ねて下さい。お待ちしておりますよ?」
「は、はい! その際にはよろしくお願いいたします!」
ニックとやり取りしている俺の横では、カレスさんとクズィーリさんが話していた。
カレスさんの店の位置なども、大まかに教えてもいるようだ。
ラクトスにはクズィーリさんも行った事があるようなので、迷う事はないだろうな……もし迷っても、衛兵さんとかに聞けばすぐわかるだろうし。
宿の手配なども、クズィーリさんが来た際にカレスさんが準備するとも話しているようで、至れり尽くせりだなぁ。
カレスさんとしては、香料が確かな商品になると見込んでの事なんだろう。
クズィーリさんと俺の契約の事も話したから、香料の仕入れの一部も問題なく信頼できると思ってくれているからかもしれないが。
あと、カレーをかなり気に入っているようだった、というのも大きいかな?
「ワッフ」
「うん、ありがとうレオ」
フェンリル達の出立準備を見ていてくれたレオがひと鳴きして、準備が終わった事を教えてくれる。
レオにお礼を言って撫で、カレスさんやニックにフェンリルへと乗ってもらう。
「……馬より、少し視点が低い気がしますな。少々不安定ですか」
「馬のように、こちらが手綱で指示をする必要はないので、もし危ないと感じたらしがみ付いていれば大丈夫ですよ」
フェンリルに乗ったカレスさんが、少しだけ不安げだったのでフォローしておく。
鞍や鐙がないからな……乗っている時に感じる安定感は馬の方があるかもしれない。
実際には、揺れも少なくやわらかなフェンリルの背中の毛のおかげでお尻が痛くもならず、大きく力を入れる必要もないので、乗っている方は馬よりも楽だし疲れたりはしないんだけど。
そこは、一度乗って走ってみないとわからない事か。
「しっかりと、ラクトスまで頼んだぞ?」
「ワッフ」
「ガウ!」
「ガァフ!」
カレスさん達を乗せるフェンリルの体を撫でつつ、レオと一緒に声をかける。
二体のフェンリルは意気込むように、頷いて鳴いた……全力ではなくとも、長距離を走れるのは楽しみらしく、尻尾がブンブンと振られているし、大丈夫そうだな。
「ではカレスさん、ニック」
「はい。タクミ様、お世話になりました。またいずれ」
「アニキ、お元気で! って、またすぐこちらに戻って来るんですけどね、ははは」
お互いに挨拶をし、フェンリル達が走り始める。
今日中にラクトスへ到着するとして、一晩フェンリルはカレスさんの方でお世話になるけど、明日には戻って来る予定だ。
ニックは、また数日後には薬草を取りにランジ村に来るけど……その時は馬だから一週間くらいってところか。
ちなみに、カレスさん達がこちらに来る際に乗っていた馬はランジ村で預かっており、輸送隊が戻ってきたらそちらと一緒に、ラクトスへ届ける手筈になっている。
今回は、走りたがったフェンリルと、滞在日数を延長したカレスさんを早くラクトスに届けるための措置でもあるからな。
……続けば、ランジ村からどこかへ行く時には、フェンリルに乗るという通例みたいなものができそうだけど。
ともあれ、出発して体感で一分も経たないうちにほとんど見えなくなったフェンリル達の見送りを終え、ランジ村へと体を向ける。
「さて……と。次は……」
「ランジ村で、体調不良を訴える方の家へ訪問です」
「そうでしたね、ありがとうございます」
まるで秘書のように、ライラさんがそっと次の予定を教えてくれる。
体調不良というのはランジ村に住んでいるお婆さんで、重病とかではなく単純にお腹の調子が悪いという事だ。
既に村の人や使用人さんが様子を窺っていて、食べた物が悪くなっていてお腹を下しているだけというものだな。
ただ、村の様子なりを聞くのもあって、薬を届けるついでに俺が行ってみようとちょっと思いついただけだ。
時折、村の人の一部……特に村長のハンネスさんだけど、屋敷を訪ねてきたりはするんだけど、ここのところあまり触れ合いがなかったからな。
カナンビスの調査もあって、外に出る事はあっても屋敷で色々とやっている事が多かったし。
子供達はレオだけでなくフェンリルに懐いていて、村の人達も微笑ましく遊ぶ姿を眺めているのは何度も見たが、一応俺達が来てからの変化を聞いてみたいというのもあった。
ハンネスさんから村の様子とか、歓迎してくれているというのは聞いてはいるけども。
「よし。レオ、行くぞー!」
「ワッフワフ!」
もう見えなくなったカレスさん達を乗せたフェンリルの、走って行った方を眺めていたレオを呼び、お婆さんのいる家へと向かう。
途中、新しく大きな宿屋になった建物から、ライ君が出て来たのに挨拶をしたり、すれ違う村の人達とたわいもない会話を少しだけしたりと、寄り道とは言わずともちょっとだけ時間をかけながらだけど。
調査隊の人達が、あちこちにいるため少しだけ物々しい雰囲気があるけど、それでも長閑な様子で、それだけで癒されるような感覚がある。
直面している問題、大事になるかもしれない事はあるけど、レオを連れてのんびり挨拶をしながら長閑な村の中を歩いているのは、これぞスローライフと言うべきか。
……実際には、スローライフとはちょっと違って日々忙しく動き回ってしまっているけど。
お婆さんの家に行った後も、屋敷に戻ったらやらなきゃいけない事があるし。
差し当って、クズィーリさんの契約書をアルフレットさんが作ってくれているだろうから、その確認とかな。
ちなみにそのクズィーリさんは、一足先に屋敷に戻った……なんでも、まだヘレーナさんと話したりないんだとか。
昨日はかなり遅くまで話し込んでいたみたいなのに、よくそれだけ話すネタがあるなぁと少し感心だな――。
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