クズィーリさんと話しました
「それで、クズィーリさんにはカンゾウを始めとした、俺が作れる植物を提供できると思うんですけど……どうでしょうか?」
改めて、クズィーリさんに問いかける。
少しだけ考えたクズィーリさんは、真っ直ぐに俺を見つめた後深く頭を下げて了承してくれた。
良かった、これで一部の香料は継続的に屋敷で使える……商売的な利益とかよりも、まず屋敷で俺を含めた皆が美味しい物を食べられるように、というのが一番の動機だからな。
甘いお菓子とかなくはないけどもっと食べたいし、カレーも定期的に食べたい。
特にカレーはユートさんがだけど、俺も似たようなものだし。
「それじゃあ、今日明日中には契約書なども作れると思いますので……」
契約書関係は、昨日アルフレットさん達に相談した後で既に作成するよう頼んである。
とはいっても、最終確認は俺がしないといけないのはともかくだ。
アルフレットさん達的には、『雑草栽培』を目の当たりにして、損得勘定ができる商人であるなら契約をするのは確実だとの事だから。
まぁ実際、ほとんど迷う事なくクズィーリさんは了承してくれたわけだから、アルフレットさん達の読み通りなんだろう。
「は、はい。わかりました。ここまで、とんとん拍子に私に多くの利点がある契約ができるのは、初めてです……カッフェールの街にあったお店との契約も、利点は多かったのですが……」
「あんまり、こちらのせ……じゃなかった、他の契約をしていないのでよくわかりませんが……そこまでですかね?」
油断して危うくこちらの世界と言いそうになったけど、言いなおした俺にクズィーリさんは、特に気にする様子はなかったようだ、良かった。
「もちろんです! 一つの場所で採取できる香料の素になる植物は、大体一つです。良くても二つあるかどうか程度で。なのに、タクミさんと契約できれば、多くの香料がここから仕入れる事ができると……それだけでも、私にとってはとてつもない利点と言えますから!」
「な、成る程……」
興奮した様子で言い募るクズィーリさんに圧倒されながらも、なんとか頷く。
各地から手間暇かけて仕入れている、それを一部だけでも一本化できるのなら、クズィーリさんとしても拠点となるお店ができたとしても、楽になるってところか。
流通が不安定な場所だからこそ、確実に仕入れられる場所を得られるのはかなり喜ばしい事みたいだな。
「一応確認しますけど、植物だからって全てを作れるわけじゃなくて、一部ですからね?」
「それでも、カンゾウは今目の前で作られましたし、少量しか入手できず広めるのは難しいと思っていた物が、定期的に仕入れられるとわかったのはそれだけで凄い事ですよ」
「ま、まぁそうかもしれないですね……」
とりあえず、興奮状態のクズィーリさんの圧みたいなものに押されながら、香料になる植物の確認と、『雑草栽培』でできる物を調べて行く。
カレー粉には複数の香料が必要だけど、そのうち半分以上の物を作る事ができたり、その他一部の樹木からの物以外で希少な香料程『雑草栽培』が活躍できそうだったのを、クズィーリさんは特に喜んでいた。
希少な香料が作れるのは、良く考えれば当然なんだろうな。
希少という事は、この国に限らずこの世界で誰かが手を加えて、農作物に近い状態で栽培されていないという事でもあるから。
逆に、複数の場所で多く群生しているような植物は、家庭なりなんなりで栽培されている可能性があるためなのか、『雑草栽培』で作る事ができないものもあった。
まぁこの辺りはある程度予想できた事だな。
ともあれ、クズィーリさんが現在把握している香料のうち、半分くらいは『雑草栽培』で作る事ができたのは俺にとっても喜ぶべき事だ。
その中でも驚いたのは、カンゾウだけでなくいくつかの香料になる植物は、薬の材料になる物もあった事だな。
意外と薬草と香料の素というのは、近いのかもしれない。
一部、香料としてちゃんと処置すればいいけど、そのままだと毒草になってしまう物もあったので、取り扱いには注意が必要だけど。
薬も毒から作られる事もあるから、やはり親和性は高いんだなと再認識した――。
――クズィーリさんに『雑草栽培』の話をした後、しばらく薬草畑の様子を見たり、作る予定の物を作ったりとしてから少し。
昼前にランジ村入り口にクズィーリさんやライラさんなど使用人さんを連れて、カレスさんとニックのお見送り。
「フェンリルがいるので大丈夫でしょうけど、お気をつけて」
「ありがとうございます。わざわざフェンリルまで付けて下さるとは……」
「まぁ、フェンリル達も外を走りたそうでしたから」
恐縮している様子のカレスさんに苦笑して、ラクトスへ持っていく薬草などが入った荷物を取り付けているフェンリル二体に目を向ける。
ニックとカレスさんが別々に乗るために二体だけど、現状ではカナンビスへの警戒のため、単独ではなく二体以上をセットとして行動させる事になった。
まぁ荷物もあるから、一体にニックとカレスさんが一緒に乗るのは窮屈だろうからというのもあったしな。
ちなみに、輸送隊としてラクトスに行ってもらっているフェンリル達がいるが、それを羨ましがったのもいて、そのため急遽カレスさん達を送るためにフェンリルを選んだ、という経緯があったりもする。
「そういえば、そろそろラクトスからの輸送隊がこちらに向かっていると思うので、途中ですれ違うかもしれませんね」
「兵とフェンリルの部隊……輸送隊という非戦闘の集団なはずなのでしょうが、戦力としては申し分ない上にこれ以上ない程の護衛ですな」
「ははは、そこまでは考えていませんけどね……」
確かに戦力としてはかなり高いんだろうけど、一応護衛の役割もあるとはいえ、ラクトスとの往復する時間を短縮させるのが一番の目的だからな。
「それとニック、これが給金や諸々の費用だ」
「ありがとうございます、アニキ!」
懐から取り出したお金の入った革袋を、ニックに渡す。
費用も含めて、キースさんが用意してくれたものだけど、銀行がないので直接手渡しが基本だ。
まぁ、人によっては手渡しの方が実感やらありがたみがあるという人もいるみたいだし、手間を考えなければこのままでいいんだろう、防犯的な部分は心配だが、ラクトスまではフェンリルがいるし、カレスさんもついているからな――。
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