部屋で少しだけ恥ずかしい遊びをしました
「ワッフ、ワウワフ」
「気持ちはわか……らないけど、あまりやり過ぎるなよー?」
「ワウー!」
クレア達との話を終え、就寝前のハグをして別れ、部屋に戻って風呂に入っていたレオ達を待ってから交代で俺が風呂に入り、戻って来た部屋の中でレオが部屋の床に体を擦り付けるようにしながらゴロゴロと転がっていた。
若干不満そうな鳴き声を漏らしているから、石鹸の匂いが気に入らないのかもしれない。
多分、部屋に染みついている匂いか何かを、体に付けているんだろう……せっかく風呂に入ったばかりなのに、毛がぐちゃぐちゃになりそうだ。
カレーがべっとりと付いていた口周りは綺麗に洗い流されていて、土に擦りつけていた背中も綺麗になっているのはいいけども。
汚れる心配はあまりないんだけどな……外じゃないし、毎日ライラさんを始めとした使用人さん達が、完璧に掃除をしてくれているから。
「ゴロゴロー、ゴロゴロー」
「リーザも真似して……」
レオを見てだろう、同じようにベッドの上で体を転がすリーザ。
リーザの場合は石鹸の匂いが気に入らないとかではなく、単純に真似をしているだけのようだ。
「パパも一緒にやろー? 楽しいよ?」
「そ、そうかな……?」
誘われて、リーザにぶつからないよう注意しながら俺もベッドの上でゴロゴロ……。
ふかふかのベッドと、綺麗に洗濯されて干された後のシーツの感触や匂いが心地いい。
……確かに楽しいかも。
「ゴロゴロー、ゴロゴロー……」
「ゴ、ゴロゴロ……」
「ワフワウー、ワウワフー」
それぞれ、ベッドの上をリーザと俺が、床をレオがゴロゴロと文字通り転がる。
リーザに誘われてついやってしまったし、ちょっと楽しい気もするけど……なんだろう、このシュールな状況は。
絶対、誰にも見られたくない。
と考えれば、タイミングよく誰かが訪ねて来て見られるというのが定石なのかもしれないが、今は就寝前の深い時間。
何か事件があるわけでもないので本当に誰かが訪ねてくる事もなく、しばらくそのよくわからない状況が続いた。
これが昼間とかなら、誰かが訪ねて来たんだろうな――。
「ん……と。こんな感じです、クズィーリさん」
「ほ、本当に何もない場所から植物が……しかもこれ、カンゾウですよね……?」
「はい。これが俺の能力で、『雑草栽培』というギフトです。まぁ、雑草とか役に立ちそうにない名前ですけど、実際は薬草も含めて色んな植物を栽培させる事ができます。作れない植物もありますけどね」
翌日、ヘレーナさんとの議論? が白熱したらしく目の下にうっすらと隈のあるけど、どこか満足そうだったクズィーリさんに、『雑草栽培』について説明。
話をした後は実際に見た方が早いだろうと、カンゾウの栽培を実践して見せてみた。
「そんなわけで、カンゾウもそうですけど香料になる一部の植物は、俺がここで作る事ができると思います。ですので、引き続きカレー粉……昨日購入した香料の取り引きをしたいと……」
クズィーリさんには少し申し訳なく感じるけど、驚いている間に畳みかけるように交渉というか、取り引きの継続を持ちかける。
もちろん、多くの人にはあまり広めて欲しくない事なども含めてだ。
あと、ここで作っているのは薬草で、薬草畑で『雑草栽培』の特性を生かして増やしている、などの事は話していない。
あくまで香料の供給を手助けできる程度だ、というくらいだな。
「タ、タクミさんと取り引きすれば、これまで遠くから仕入れなければいけなかった香料も、入手できると言うわけですね……」
「はい。まぁ薬草の方を主にやっていますので、香料ばかりを大量に、というのはさすがに難しいですけど。でも、遠くから仕入れるとなると費用も掛かります。ですので、香料その物の値段も下げられるんじゃないかと」
ラクトスで拠点みたいな取り引きする商店ができれば、そこを起点にクズィーリさんが商売できる。
ランジ村との距離を考えると、輸送の費用も抑えられるしな……場合によってはフェンリルに頼むこともできる。
それに、群生している場所に採取に行く人を雇う費用なども掛からないわけで、全体的に香料が安くできるんじゃないかとも考えている。
さらに言うなら、量を作って供給を増やす事での値下げもできそうだ……まぁこれは、需要があってこそできる事ではあるけど。
もちろん、俺の『雑草栽培』で作れない物もあるため、高価なままにするしかない香料もあるんだろうけど。
「これは、どちらかというと私の方が利点が多すぎますね……タクミさんに私が知っている香料の作り方、その全てを明かしたとしても、釣り合わないと思いますが」
「さすがに、全てを教えて欲しいとは思っていません。ここで作る物のみ、またはさらにその一部でもと考えています」
香料の作り方などは、商人であるクズィーリさんにとっては商売のタネでもあるからな。
その全てを教えて欲しいとまでは考えていない。
というか、教えてもらったとしても生かせるわけじゃないし……輸送するのに、香料にしてからの方がいい物くらいでいいと思っている。
「なんというか、商売をしている私がこういう事を言うのはどうなのかなと自分でも思いますが……私とタクミさんが出会ったのは奇跡的な運命なのではないかとすら思い始めています」
「ははは、さすがにそれは大袈裟ですよ」
クズィーリさんの物言いに、少し笑ってしまう。
香料と薬草、両方扱っているのは植物だから親和性というか、似ている部分はあるんだろうけどさすがに運命というのはなぁ。
信じていないわけでも、それを妄信しているわけでもない中途半端な考えだけど……。
まぁクズィーリさんとの出会いそのものが、レオが駅馬の建物に気付いたとか、お散歩に行きたいとねだられたという、レオを起点にしている部分に関しては何も感じないわけじゃないが。
ただレオがそれを、確信的にやっているわけではないと思うしな。
そのレオは今、リーザとティルラちゃんや他の子供達と一緒に、フェンリル数体を連れてフェヤリネッテと追いかけっこしている。
そんな様子を見ていると、先の事がわかって動いているなんて様子は微塵も感じないしな。
まぁ単なる偶然だろう。
偶然を運命と言い換えるのなら、クズィーリさんの言う通りかもしれないが――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。