クズィーリさんに話をするか決めました
「もちろん、クレアは頼りにしているよ。それに、アルフレットさんやセバスチャンさんも。俺一人だったら、多分何もできないだろうからなぁ」
なんとか、クレアを見て跳ねた鼓動を抑えつつ、悟られないように話を続ける。
俺だけだったら、どうしよう、どうしたら……で考えすぎて、中々行動できないからな。
リーベルト家の行動力と、使用人さん達の助けや知識には本当に助けられている。
おかげで、何かを考えた時に行動に移すためにはを考えられるし、相談して前に進めるんだから。
「そのような事はないと思いますが、旦那様のお力になれるよう、これからも微力を尽くさせて頂きます」
「ほっほっほ、いつでもこの老いぼれの知識が役に立つ事があるのなら、お申し付け下さいませ」
セバスチャンさんの場合は、説明したいだけのような気がするけど……まぁこれからも頼りにさせてもらおう。
「ありがとうございます。それじゃあ、皆の意見を参考にして……クズィーリさんには、ギフトの事を打ち明けてみようと思います」
俺の言葉に、クレアだけでなくセバスチャンさんやアルフレットさんも、笑顔で頷いてくれた。
アルフレットさんだけが消極的反対というだけで、クレアもセバスチャンさんも賛成だったわけだし、話しても大きな問題には発展しないだろうという判断だ。
リーザやレオ、フェンリル達もクズィーリさんに対して悪い印象は受けていないようだし……主に、匂いの観点から。
さらに言えば、クレアも同じく悪い印象がなく信頼できると感じているのも大きいかな。
匂いだけなら、香料を扱うからそれに紛れてわかりづらいなんて事もあるかもしれない……リーザだけならともかく、レオやフェンリル達複数が気にしていないから、心配する必要はないだろうけど。
そのうえ、クレアの目で見て確かめているわけだから、匂いとかは関係なくクズィーリさんは大丈夫だと思えた。
俺自身も、クズィーリさんを見ていて信用できると感じているしな。
「ただまぁ、『雑草栽培』の全てを伝えるまではしなくてもいいかなって思っています」
「ほぉ?」
そう言った俺に、セバスチャンさんが興味深そうな目を向けて来る。
クレアは不思議そうだ。
「話す意味も、あまりないかなって。薬草もそうですけど、『雑草栽培』での状態変化は必ずしもこちらが求める物になるわけでもありませんからね。そこは話さなくても大丈夫でしょう」
「成る程、そういう事ですか。確かに、植物を全てではないにしても何もない場所から作り出す事だができる。それだけでも衝撃的な能力です。十分に、驚かせる事ができるかと」
「驚かせる事が目的じゃありませんけどね……」
驚くのはまぁ当然だとは思うけど、それが目的じゃないと苦笑する。
『雑草栽培』の状態変化は、その植物が一番効果を発揮する状態にするものだ。
ただそれは、俺達が求めている効果だとは限らないわけで……カンゾウで言うと、薬効がある状態にはなるけど、甘味料にはならない。
他にも、一部の薬草はどういう効果なのかはわからないけど、求めている薬効を持った状態にならない物などもあるしな。
だから、香料を作るうえで必ずしも話さないといけない事ではなく、栽培する事ができる、という部分だけで十分なはずだ。
「ありがとうございます、タクミ様」
「お礼を言われる程の事ではありませんし、これでいいのかな? と思う部分はありますけど……」
頭を下げるアルフレットさん。
一応、クズィーリさんに『雑草栽培』の事を話すのに対して、消極的反対としたアルフレットさんの意見を参考にした形だ。
結局打ち明ける事には変わりないから、採用とまでは言えないけど……考え自体はアルフレットさんに伝わったらしい。
「では、これからすぐにでも?」
「んー、明日にします。今日はクズィーリさんも色々とあって、疲れているでしょうし……ヘレーナさんと話し込んでいるでしょうから」
「ヘレーナも、楽しそうにしていましたからね。今頃白熱していそうです。ふふ」
「無理はして欲しくないけど、明日は二人共寝不足かな? ははは」
この場にいない二人の様子を想像して、クレアと笑い合う。
クズィーリさんはエッケンハルトさん達との話の後、楽しそうに香料を持ってヘレーナさんの待つ厨房へと向かって行った。
公爵様を前にするという、極度の緊張から解放された事と、香料の話がたっぷりできる期待感からだろうけど……ヘレーナさんも料理には並々ならぬ熱量を持っているから、夜が明けるまで話し込むなんて勢いすら感じたくらいだしな。
今頃、あれこれと香料とそれを使った料理についてあれこれ話しているんだろう。
幾人かの料理人さんも巻き込まれているだろうけど。
「これからも、何かあればクレア達にも相談させてもらうよ」
「はい。わたしで良ければいくらでも。タクミさんにはいつも頼ってばかりですから、考えの助けになれるのなら喜んで」
「お任せ下さい」
「ほっほっほ、私は常にここにいるわけではありませんが、求められれば答えましょう」
「あれ、そういえばティルラちゃんと別邸に戻るのはそうですけど……そろそろですかね?」
セバスチャンさんの言葉で思い出し、聞いてみる。
森の調査やらカナンビスの事で忘れていたけど、ティルラちゃんはセバスチャンさんやラーレ、コッカー達と共に別邸に行き、ラクトスの問題を解決する事になっているはずだ。
問題と言っても、スラムに住み着いている人達の社会復帰的な施策だけど。
「当初の推測よりも事が大きくなっていますからな。今は落ち着くまでこの屋敷に滞在する方がいいかと、旦那様や大旦那様方と話しております」
「そうですか。もちろん俺もですけど、ティルラちゃんがいてくれるとリーザも楽しいでしょうし、いくらでも滞在してくれて構いません。距離的に難しくなるでしょうが、ずっといてもいいくらいですし」
「ほっほっほ、フェンリルやラーレの助けがあれば、大きな問題にはならないとはいえ、ラクトスとの距離がありますからなぁ……」
何かあった時に対処しやすい別邸に、というのはやっぱり変わらないらしい。
まぁティルラちゃんもやる気だし、あっちにも使用人さん達を残しているし……そういえば、フェンリルの森にいる、他のフェンリル達との中継地点としての役割もあるんだった。
妹のようなティルラちゃんと離れるのは寂しいけど、そこは仕方ないか。
とりあえず今は、カナンビスの問題が落ち着くまではいてくれるみたいだし、色々とティルラちゃんなりの意見も聞けたし、そちらに集中しよう――。
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