クレア達に相談を持ちかけました
「さて、クズィーリにも現在の状況を教えておこう……と思ったのだが、もう時間も遅い。タクミ殿たちに連れて来られて、疲れも溜まっているだろう。今日はゆっくり休め」
「は、はい! あ、ありがとうございます公爵様!」
声を掛けられ、ガチガチに緊張したまま頭を下げるクズィーリさん。
さっき事情を話していた時もそうだったけど、改まった場で公爵家の面々を前にするとやっぱり緊張してしまうものなのだろう。
怖くないですよー、なんて言っても多分ほとんど効果はなさそうだ。
この後ヘレーナさんと香料談義をするみたいだし、緊張し過ぎなのもあって、あまりゆっくり休めそうにないから安眠薬草を処方しておこう。
『雑草栽培』で作った物を、『雑草栽培』で状態変化させた物だから、処方と言っていいのかわからないが……俺は医者じゃないから、言っちゃ駄目な方かもしれない。
「クレア、セバスチャンさん。それとアルフレットさん。ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「何かありましたかな?」
「どうされました、旦那様?」
クズィーリさんを、ヘレーナさんの待っている厨房へ送り出し、エッケンハルトさん達も屋敷へ戻るのを見送って、クレア達に声をかける。
相談したい事があったからだ。
「クレアはさっき厨房で見たけど、カンゾウの事でちょっと。というより、香料全般に関して、かな?」
「というと?」
「香料はクズィーリさんも言っていたように、全部植物由来の物なんだけど……実は、カンゾウって薬草でもあって。他の香料もそうだけど、『雑草栽培』でいくつかは作れる物があると思うんだ」
「成る程、クズィーリさんの香料をタクミ様が『雑草栽培』で作ってしまおうというわけですな。そうする事で、不足しがちな香料も販売できますし、こちらでも使えます」
「カンゾウが作れるんですか!?」
セバスチャンさんが理解して頷くのに対し、クレアが大きな反応。
厨房で、甘いお菓子が作れるという話をしていたからな、この反応は当然とも言えるか。
「……つまり、旦那様はクズィーリさんに『雑草栽培』の事を話しても良いものか、と悩んでいるわけですね?」
俺の様子を見て察したんだろう、先回りして言ってくれるアルフレットさん。
さすが執事長。
「アルフレットさんの言う通りです。信用できない人ってわけではないんですけど、一応皆の意見も聞いておきたくて」
誰に話すかなど、俺に任せられているとはいってももし何かあれば、迷惑をこうむるのは俺だけでなく、ここにいるクレア達もだからな。
一緒にいる以上、ギフトの関連で何かがあれば影響が出るのは仕方ないし、だから念のため意見を聞くのも含めて相談をというわけだ。
「やはりタクミ様は律儀な方ですなぁ。黙っていても、悪い事ではないはずですが……タクミ様らしいですな」
「そこがタクミさんの良い所でもありますね」
「ははは、良い所かはともかく……クズィーリさんのおかげで、カレーが作れてカンゾウが砂糖の代わりになるってわかったから。それなのに、クズィーリさんに黙って香料を作って売るなんて、卑怯かなって……」
だからこそ、カレスさんにクズィーリさんを紹介したりもしたんだけど。
カレスさん本人か、もしくはラクトスにあるどこかの商店でクズィーリさんが契約したら、お互いの利便性も良くなるし……。
まぁこれは、俺が一部とはいえ香料を作る事になれば、の話だけど。
「しかしタクミ様、薬草畑の予定はすでに決まっております。さらに別の植物、しかも複数を追加するのは、すぐには無理かと……」
「そこは、クズィーリさんとの話し合いや、契約した商店があるならそことの話し合いになるでしょうけど……」
あまりちゃんとまとまっていないけど、とりあえず今考えている範囲での事を、アルフレットさん達に伝える。
「香料って、一部を除くとやっぱり高価な部類の物が多いみたいですから。少しずつでも俺が作れば、価格も下げられるんじゃないかなぁと。まぁ、好評で需要が増えたらまた色々考えないといけない事や、高騰したりするのかもしれませんけど」
「成る程……旦那様の考えはよくわかりました。確かに、高価になってしまうと購入できる者は限られます」
「はい。それに……」
香料は食品だから、一部の余裕がある人がちょっとした贅沢のために買う、というよりは価格を抑えて広く多くの人に使ってもらった方がいいと思う。
それは、多くの人が楽しむためというだけでなく、新しい料理や味が発見されることにも繋がると思うから。
カレーはある程度香料からの作り方を知っていたからなんとかなったけど、俺が思いつかないまたは知らないだけで、他にも色々と使い道はあるはずだしな。
なんて事をこの場にいるクレア達に話す。
「それに、カンゾウがあれば甘いお菓子もいっぱい作って食べられますし……俺が知っている通りなら、カンゾウの甘味料って、砂糖よりも太りにくいんですよね」
「それは本当ですかタクミさん!?」
「まぁ、完全に同じ物かはわからないから、使うとしても少し調べないといけないけど。でも、お菓子のために使えるのはヘレーナさんも言っていたし、味見したらものすごい甘さだったからね。美味しいお菓子ができるんじゃないかな」
砂糖よりカンゾウ……というより甘草だな。
それから作られる甘味料はカロリーが低い、という話を聞いた事がある。
こちらの世界でもそれが同様なのかはわからないが、最低でも砂糖の代用にできるはずだ。
って、これじゃ俺がクズィーリさんに話したいから、皆を説得しているみたいだな。
いやまぁ、俺は甘いお菓子も大好きなので、クレアだけでなく俺も食べたいというのはあるんだけど。
そのためには、カンゾウを作らないといけないわけで、そこでクズィーリさんに話さず進めたら卑怯かも、という自分の性質みたいなものと引っかかるからな。
要は、クズィーリさんに話しても問題ない、というお墨付きみたいなものが欲しいってわけだ。
自分で決められないのは、情けないけど。
「太りにくい砂糖代わりになる物……大奥様の耳に入ったら、大変興味を持ちそうな話ですな」
「マリエッタさん、ニャックにも並々ならぬ興味を示して、購入の交渉までしていましたからね……」
突然ニャックを購入するための交渉を、カナートさんを相手に始めたのは記憶に新しい。
ダイエットとはちょっと違うけど、太りにくい甘味料と聞けば絶対に作るべきだと言われそうだからなぁ――。
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