お店と貴族の両方を調べる事になりました
「ライラさん、すみませんが……」
「はい、心得ております」
「お願いします。それと――リーザ、ティルラちゃん!」
「何、パパ?」
「タクミさん、どうしました?」
「フェンリル達の顔を洗ってくれるかな? あと、レオをお風呂に入れてやって欲しいんだ」
「ワウゥ……キゥーン、クゥーン……」
「わかりました! リーザちゃん、協力してやりましょう!」
「うん、わかった!」
というわけで、ライラさんを筆頭にチタさんなどの使用人さん達と、リーザにティルラちゃんにお風呂のお願い。
何度か経験があるし、もうそろそろ任せてもいいだろう。
児童館や村の子供達がいたら、遊びになってしまうだろうけど時間が時間なので、もうそれぞれの家に帰っている。
指令を受けたリーザとティルラちゃんが、意気揚々とレオを連れてお風呂場へと向かって行った……シェリーも抱いて。
シェリーはお風呂嫌いじゃないみたいだし、同じく口が汚れたからちょうどいいんだろう。
フェンリル達は、交代でお風呂に行って顔というか口周りを洗うくらいになるだろうけど。
体は明日だな……今日はもう遅いから、全身を洗うのは時間がかかり過ぎるし。
「さて、レオ様達は行ってしまったが……クズィーリと言ったな。もう一度そなたの口から話を聞かせてもらっても良いか?」
「は、はい! えぇと、私は香料を扱う行商人でして……」
レオ達が去って解散となった食事会の後、改めてクズィーリさんからカッフェールの街にあったお店との関わりなどをエッケンハルトさんに話してもらう。
この場に残ったのは 俺とクレア、エッケンハルトさんとエルケリッヒさん、マリエッタさんとユートさんにルグレッタさん達近衛護衛さんの一部。
それから、ラクトスからの調査隊隊長のプレルスさん、商人のカレスさん、使用人さんの中からセバスチャンさん、アルフレットさん、クレア側のメイド長のエルミーネさん、執事長のヴァレットさんだ。
結構な人数がいるなぁ、仕方ないけど。
まぁ基本的には、エッケンハルトさんがクズィーリさんと話す場で、内容を知っておくべき人が残ったという感じではあるから、ほとんど黙って聞くくらいなんだろうけど。
「うむ、クズィーリの話はわかった。やはり、他の者から聞くのと本人から聞くのでは印象が多少は変わるな。――タクミ殿は今回の話、どう思う?」
「俺ですか?」
黙って聞くだけ……と思っていたら、俺に話が振られてしまった。
カナンビスの群生地について、クズィーリさんに詳細を求めたハンボルト……だったっけ。
その人のお店が、どうして知りたがったのかという事なんだろうけど、さて……。
「目的はわかりませんが、もしかしたら繋がっているのかもとは思います。それと、クライツ男爵との繋がりもあるのなら、そちらも何か関係しているんだろうなとも」
「そうだな……クライツ男爵か。また面倒なところと繋がっているものだ」
確か、クライツ男爵は北西に領地を持つ貴族で、南側にある公爵領との関わりは薄いんだったか。
単純に距離も離れているし、それもあって調べるなり連絡するなりするにしても、エッケンハルトさんの言う通り面倒ではあるんだろう。
エッケンハルトさんが言っているニュアンス的には、それだけじゃないようにも聞こえるけど。
「クライツ男爵は、隣国と接している領地のためか……ここで言うのもなんだが、多少そちらの影響を受けている人物だ。繋がりがあるかどうかはわからないが、それは隠しているのか本当にないからなのかはわからん」
「成る程、クライツ男爵ね……僕が乗り込んだらいいかな?」
ニヤリとしつつ、表情には合わない不穏な気配を醸し出すユートさん。
そういえば、カナンビスに関する話し合いで相手が王家だろうと、全ての貴族に対して調べるみたいな事を言っていたっけ。
しかも結構怒っているような感じだった。
「いえ……ユート閣下、さすがにそれは……」
さすがにいきなり乗り込むのは、と止めるエッケンハルトさん。
まだ関わりなどがどうなのかわからないのだから、ユートさんが乗り込んで暴れたら、もっと面倒な事になるとでも言っているようだ。
実際に面倒な事になるような気は、俺もしていたりするけど。
「仕方ないなぁ。じゃあとりあえず、そっちは僕が調べるくらいにしておくよ。ふっふっふ、確定したらレオちゃんと一緒にカチコミだね」
「レオをそんな事に使わないで欲しい」
証拠を掴んで、禁止されているはずのカナンビスを扱っているとわかれば、真っ黒だから乗り込む事自体は止めないけど、さすがにレオは使わせない。
フェンリル達の事を心配していたレオなら、本当にユートさんと乗り込んでさっさとクライツ男爵を吹っ飛ばしそうではあるけど。
……今ここにレオがいなくて良かった。
「ま、まぁ、まずは穏便に……あくまで調査をするだけでお願いします」
「じっくり……は面倒だから、向こうにはバレないように隅々まで調べてみせるよ。けど、他にも色々やらせてもらうけどね」
「……クライツ男爵だけが関与しているとは限りませんので、それも仕方ないのでしょう。止めても無駄でしょうし」
「それはもちろんだよ!」
クライツ男爵だけが怪しいからと言って、他の貴族が絶対に関わっていないとまでは言えないからな。
クズィーリさんの前ではさすがに全貴族とか、王家とかもとは言えないので、色々と誤魔化しているけど……ユートさんはやる気満々のようだ。
それだけ、ここにいるのを楽しんでくれているという事でもあると思っておくだけにしておこう。
「とにかく、私ができるのは自領、公爵領内での起こった事の詳細を調べる事だな。セバスチャンとも話したのだが、迅速に調べるためにフェンリルを数体、貸してもらえないかタクミ殿?」
夕食前、エルケリッヒさんから聞いた話だけど、もう相談は終わったのか。
あの時はまだ決まっていなかったけど、できるならフェンリルに協力してもらって、調査をしたいらしい。
「まだフェンリル達に聞いていませんので、今すぐ頷く事はできませんけど……そのつもりでフェリーに話してみたいと思います」
「うむ、頼んだ。場所が場所だけに、森の調査と並行して進めるためには、フェンリルの協力は欠かせないからな」
そう言って、目礼するエッケンハルトさん。
今はフェリー達もレオとお風呂に並んでいるような状態だから、また後で聞いてみよう。
美味しい食事という報酬があれば、簡単に引き受けてくれそうではあるが――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。