クズィーリさんをカレスさんに紹介しました
その他、シェリーも辛口を喜んで食べていたのは少し驚いたし、ニックが少し申し訳なさそうにしながら、辛口と甘口を混ぜて食べていたりもした。
辛口と甘口、混ぜたら中辛になるのか? まぁ辛味と甘味のどちらも薄まるのは間違いないと思うけど。
多少行儀が悪いが、とりあえず今日は気にしないでおいた方がいいかな、初めての事だし。
まぁニックの周囲では、影響されたのか同じように混ぜて食べて見る人が何人か……混ぜた方がちょうどいい辛さと甘さになるのかもしれないな。
そんな中……。
「これは、匂いといい味といい、素晴らしく刺激的と言えましょう! 滞在を伸ばして正解でした、まさかこのような料理が食べられるとは……!」
ユートさん程じゃないけど、大きな反応をしていたのはカレスさんだ。
そういえば、本当ならカレスさんはニックと一緒に、今日ラクトスへ向かう予定だったような?
急いでいないという事は、一日や二日滞在が伸びても大丈夫なんだろうけど。
「クズィーリさんでしたか。確かこのカレー? を作るための香料はあなたが作ったのですよね?」
「は、はい。香料を作った、と言いますか調合をしたのは私になります」
すぐ近くで、味見をした時と同じく何度も頷きながら、辛口と甘口、パンとライス、それぞれの組み合わせを味わっていたクズィーリさんが、カレスさんに答える。
そのまま、カレーに感動したらしいカレスさんがクズィーリさんに、香料についてのあれこれを聞き始めた。
カレーとカレスさん……カレーライスとカレスさん、名前も似ているし、強く惹かれる何かがあったんだろう……というのはこじつけか。
「あぁ、でもそうか。カレスさんは商人だし、一応お店の商品とかの仕入れる裁量なども任されているから……」
「タクミさん?」
そんなカレスさんを見て、ふと思う事があった。
呟く俺に、カレーのおかわりをしながら不思議そうにこちらを見るクレア。
カレーって、いつも以上に食べてしまうよなぁ……一杯目はライスだったから、今度はパンか。
お腹いっぱいになるまで色々試したいんだろう、なんて思いつつ、クレアに思いついた事を話し、それからカレスさんに話しかける。
「カレスさん、クズィーリさんは諸事情があって、取り引きしてくれるお店を探しているみたいなんです。俺達と会って、ここに来なかったら、ラクトスでそういったお店を探す予定でした」
「ほぉほぉ、それは香料とやらを取り引きするお店を、という事ですな?」
「はい。ですよね、クズィーリさん?」
「あ、はい。その……」
クズィーリさんに話を振ると、俺達にも話していた香料の仕入れや販売なども含めて、取り引きしているお店に関する話をカレスさんにしてくれた。
「ふむ、成る程。以前まで取り引きしていたお店が突然なくなったと……大変でしたなぁ」
話を聞いて、クズィーリさんの置かれている状況を理解した様子のカレスさん。
ちなみにだけど、行商人がどこかの街にあるお店と契約して継続的に取り引きをする、という事はよくあるようで、販売店という拠点を持たない代わりに、拠点を持っている人に任せるというのは珍しくないらしい。
カレスさんのお店でも、公爵家が運営しているというブランドとか箔が欲しくて、品物が持ち込まれて取り引きしてくれないか、という交渉はこれまでも何度かあったとか。
その代わり行商人は、ある程度の取り引き先の商品を扱ったり、旅先で見つけた商品やお店の方が難しい仕入れなどを担当したりなどの関係になるみたいだ。
「そういうわけで、ラクトスをよく知る商人であるカレスさんなら、クズィーリさんと取り引きしてくれそうなお店も知っているかなと。もしくは探すのに協力してもらえるかもと思って話してみましたが……」
もちろん、可能かどうかはさておきカレスさんが直接クズィーリさんと契約を、というのも見込んでの話だったりする。
それはカレスさんの方もわかっているみたいで、一通りの話を聞いたカレスさんは悩みつつも香料が売れる見込みなどを計算している様子だ。
ちなみにカレスさんのお店は、言ってみればラクトスにあるハルトンさんの雑貨屋に近い業態で、俺が関わった事で薬草や薬が商品に加わったけど、他にも色々と商品がある。
雑貨屋よりは品質が確かで、ちょっとお高い部類の商品が売られているけど。
いや、ハルトンさんの雑貨屋が品質の悪い物を売っている、という事ではないぞ。
単純に一般にお求めやすい物で幅広い質の物を取り扱っているハルトンさんに対して、カレスさんの方は基準を設けて一定以上の質を保っている物を取り扱っている、と言えばいいだろうか?
あまり変わっていないかもしれないが。
「ラクトスはニックがここと行き来しますし、こちらとも香料のやり取りがしやすいですから。まぁ、率直に言うと香料が手に入りやすくなって、これからもカレーを食べられるなって打算があるんですけどね、ははは……」
「タクミ様は正直ですなぁ」
まぁ言わなくても、俺がこういう話をしている時点で大体察しているとは思うけど……でも、実際に口に出して言ってしまうのは性分みたいなものかもな。
交渉事には向いていないし、多分商人としてお店を持ったりなどにも向いていないと、自分で思う。
だから薬草畑で薬草や薬を作る側に回るのと、共同運営としてクレアが外でのやり取りを担当してくれるのは、実のところ凄く助かると思っているんだけども。
……実際にはまだ、交渉事なんてのはまだやっていなくて、これからだが。
「クズィーリさんは、ラクトスで取り引きされるお店ができる事で考えてよろしいですかな?」
確認のためか、クズィーリさんに問いかけるカレスさん。
その視線と言葉を受け止め、クズィーリさんが深く頷く。
「はい。正直なところ、どこか取り引きして下さるお店があればと思っていますけど、ラクトスであれば特に喜ばしいと考えています。そのため、タクミさんと出会うまではラクトスで絶対に取り引きできるお店を見つける、と意気込んで準備をしていましたから」
だから、種類や量を用意するために、駅馬の建物でしばらく滞在していたんだろう。
今日発見して見学させてもらった駅馬から、ラクトスまでの間には数日の移動を要するけど、落ちついて準備ができる場所はないからな。
駅馬の建物を見つけたのは、偶然だったんだろうけど……まだ準備中で周知もしていないし。
利便性から、当然街道沿いにあるため、道を逸れなければ見つけられるけども――。
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