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1852/1996

ユートさんは待ち侘びていました



「もちろん、スプーンも用意してるよ! でもタクミ君の事だから、度肝を抜くようなカレーを用意しそうだし? ステーキカレーとか?」

「初めて食べる人ばかりなのに、そんな冒険はしないって……スプーンで十分食べられるはずだから」


 というか、ステーキカレーって……まぁ俺は見た事ないけど、探せばありそうではあるか。

 でもカレーだし、もしステーキをトッピングとして載せるにしても、食べやすい大きさに切ると思う。

 カツカレーとかでも、多くは一口か二口くらいのサイズに切ってある物が多いしな。


「というかそれ、もしかしなくてもカレースプーン? 二つあるけど……」


 ユートさんが懐から取り出した二つのスプーン、見た感じ銀製の物。

 片方は皿の部分のくぼみが浅く、先端が尖らず平たいカレースプーンだ。

 もう片方は、同じく皿部分は浅いけど先端が三又に割れていて、フォークとしても使える、先割れスプーンと呼ばれる物だった。

 こちらに来てから、銀製の食器はともかく、そんな形のスプーンを見た事がなかったからないと思っていたんだが。


「いつかカレーが食べられる事を願って、作っておいたんだよ! こうして食べられるわけだから、頑張ったのも無駄じゃなかったね!」


 テンションの高いユートさん。

 ようやくこの世界でカレーが食べられるのだから、気持ちはわからなくもないけど……そのために、前もって特殊なマイスプーンを作っていたとは。


「……いつから作っておいたかは、聞かない方が良さそうだなぁ」


 ユートさんの事だから、数年前からとかではなさそうだし。

 ようやく報われる時が来て、妙な感動が生まれそうだから追求するのはやめておこう。

 感動するのは今じゃなく、カレーを食べてからだ。

 というか、カレー用のスプーンを作っているのなら、さっき出してたナイフとフォークは本当に必要なかったな……多分、ノリでやっていたんだろうけど。


「タクミ殿、少し良いか?」


 ユートさんとやり取りをしていると、エルケリッヒさんがこちらに来た、何やら話があるらしい。


「エルケリッヒさん、はい、大丈夫です」

「タクミさん、私はクズィーリさんを案内しておきますね。フェンリル達を見て、固まってしまっていますし……」

「私もママの所に行くー! こっちだよー!」

「あ、あ、あ……」

「あぁごめん、よろしく!」


 クレアとリーザに庭に出て来てから目を見開いて、意味のある言葉を発せられなくなっているクズィーリさんを任せる。

 庭の奥、屋敷の出入り口から離れた場所で、レオだけでなく複数のフェンリル達が集まっている…… ラーレもいるから、多分そこにティルラちゃんもいるだろう。

 クズィーリさんはそこを見て、驚いてしまっているんだろう。


 そういえば、レオの事はともかくフェンリルが大量にいるって事は、話すのを忘れていたと思い出す。

 一般的には獰猛で危険な魔物という認識らしいから、こんな所でのんびりくつろいだり、楽しそうに遊んでいるなんて思わないよなぁ。

 まぁクレアとリーザに任せておけば、多分大丈夫だろうという事で、エルケリッヒさんと話す事にする。


「ハルトには大まかにクズィーリから聞いた話は伝えておいた。後でまた、ハルトの方から話はあると思うが、ハルトもさすがに調べないとわからないようだったな」

「ありがとうございます。そうですか……エッケンハルトさんでもわかりませんか」

「まぁ、領主貴族とはいえ、全ての街や村にある店を、完全に把握しているわけではないからな。ただまぁ、カッフェールの街にあった店の一つが、突然なくなったという事は知っていたようだ」

「そうなんですか?」

「うむ。そう言った事がこれまでもなかったわけではないので、特に怪しいとまでは考えていなかったようだが、商売もしている以上多少はそういった情報も知っているのだろう。私は引退した身だから、細かい情報を仕入れたりはしていないが」


 突然なくなった店というのは目立つから、そういう意味で知っていたというくらいか。

 理由や詳細まではエッケンハルトさんでもわからないと……。


「すぐに調査の者を送るよう、セバスチャンと話し合っているようだが……」


 だから、ユートさんはいてもエッケンハルトさんがまだ庭にいなかったのか。


「もしかすると、タクミ殿にも話が行くかもしれん」

「俺にですか?」

「あぁ。場所が場所だけに、フェンリルを借りたいと言っていてな。馬を走らせるよりも、移動日数が少なく済むだろう?」

「まぁそうですね。でも、大丈夫ですか? フェンリルは、ラクトスとこのランジ村だとある程度、慣れた人もいますけど、そのほかの場所はまだ……」


 森に棲む事の多いフェンリルが、街道とか街や村の傍を爆走していたら、見た人が驚いてしまいそうだ。

 駅馬が作られている場所などは、周知作業という事でフェンリルの情報をある程度流しているようだけど、それ以外は……。

 もちろん、ランジ村にいるとか俺やレオに関してなど、個人情報的な情報は流さないようにしているらしいけど。


「なに、いずれはレオ様もフェンリル達も、自由に領内を行き来できるのを目指しているのだ。今のうちに見せても構わんだろう。多少驚きはするだろうが……人を乗せている、もしくは馬車を曳いているのを見れば、そう恐怖に陥ったりはせん」

「そういうものですかね?」


 今回は調査との事だから、馬車は使わないだろうけど……人が背中に乗っていたら、ある意味安心なのか?

 人が攫われている、なんて勘違いが起きなきゃいいけど。


「いたずらに民を騒がせるのは本意ではないから、対処は考えている。具体的には、今セバスチャンとハルトがだがな」

「そ、そうですか……」


 それ、完全にセバスチャンさん達任せだから、エルケリッヒさんが自信満々に言っていいのかな? と思ったけど、口に出せなかった。

 が、俺の表情から読み取ったのか、口角を上げたエルケリッヒさんが言う。


「私は既に当主を退いた身だからな。領内の事は全てハルト達に任せている。考える事も、当主の仕事だからな」


 なんて言っているけど、目は面倒だから丸投げしたと言っているように見えた。

 リーベルト家の例に漏れず、行動力がある人なのは間違いないけど、意外と面倒くさがりなのかもしれない。

 俺だって、色々とアルフレットさんやキースさんに丸投げして、ようやくレオのお散歩に行く余裕ができているんだしな。

 おかげでクズィーリさんと出会えてカレーが作れたし、有力な情報になりそうなきっかけももらえたからな――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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完結しました!
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