さらに新たな香料が登場しました
「これは?」
「カンゾウという香料です。どちらかというと、薬草として使われていたのですが……その根が凄く甘く、また、料理などに混ぜても甘味を発揮し、体に悪影響がない事を発見した物です」
「カンゾウ……ですか」
クズィーリさんが取りだしたのは、茶色いウッドチップみたいな物だった。
薬草として使われていたという事は、むしろ体に良い物なのだろうと思うけど……。
とりあえず簡単にだけど、クズィーリさんにカンゾウについて聞く。
「多分、甘草の事っぽいな……」
あくまで、クズィーリさんから聞いた植物としての見た目などからの推測だけど……甘草、その名の通り甘い草だ。
確か、リコリスという呼び方もあったように思う。
……リコリスと言えばヒガンバナを思い浮かべる人もいるかもしれないが、甘草、カンゾウも別物だがリコリスと同じ呼び方だったりする。
「香りは、確かに甘い香りがしますね……」
クズィーリさんに許可を取り、カンゾウの匂いを嗅ぐとふんわり香って鼻孔をくすぐる甘さ。
そして、勧められたのでひと欠片だけ味見として口に入れてみると……。
「あ……最初は少し舐める程度の方が……!」
「~~っ!」
クズィーリさんの忠告は遅く、とんでもない甘さが口内を襲った。
水分がなくなるんじゃないかというくらい、砂糖を突っ込んだ砂糖水みたいな甘さだろうか。
一瞬だけ、意識が遠くなってしまうくらいの恐ろしい甘さだった。
リコリス……いやカンゾウか、これってこんなに甘い物だったか!? 確かに、砂糖の数十倍は甘いと言われていたけど、それ以上な気がするぞ!?
「ク、クズィーリさん! これをどこで!?」
「え、あ、えっと……」
俺と同じく、いやさすがにヘレーナさんは口の中に入れず、ペロッと舐めた程度だったけど……味見をしたヘレーナさんがカッ! と目を見開き、クズィーリさんに詰め寄った。
急にヘレーナさんに詰め寄られて、戸惑いながらもカンゾウを発見した場所などを話すクズィーリさん。
ここがクレアさん達公爵家のいる屋敷だから、大丈夫だと思っているのかもしれないけど……香料を販売するクズィーリさんにとっては、商売のタネとも言える仕入れ場所をそんなに簡単に口にしていいのだろうか?
それだけ、ヘレーナさんの迫力に押されたのかもしれないけど。
「カンゾウでしたか、これがあればおそらく高価な砂糖を使わなくても、あらゆる料理が作れるようになります!」
「本当、ヘレーナ!」
「はい! あれもこれも……甘いお菓子や料理、高価な砂糖を使わなければならず、断念したり作る機会が得られなかった物も作る事ができるんです!」
感動に打ち震えている? ように見えるヘレーナさんに、大きく反応したのがクレアだ。
甘い物、砂糖が高くていくら公爵家とは言っても、贅沢品だったからこれまであまり作って来れなかったようだし、仕方ないか。
それに、こちらの世界はわからないけど……甘味料として使われている事の多い甘草は、確か砂糖よりカロリーも低かったはずだ。
甘党にも嬉しい物ってわけだな。
「甘草……いや、カンゾウか。これは色々考えないとな……っと、それよりもでした。カンゾウの事はありますが、まずはカレーですよヘレーナさん」
「はっ! そうでした……私とした事が、一度作り始めた料理の事を忘れてしまいそうに……」
声をかけると、ハッとなって戻って来たヘレーナさんが少し落ち込む……カンゾウの衝撃で、カレーの事を忘れていたらしい。
カレーも、一度食べれば忘れられないものになるはずだから、忘れられるのは今の内ですよ? ふふふ……というのはさておき。
「えーっと、俺が考えるよりヘレーナさん達の方が得意でしょうから、分量は任せますが……とりあえず、カンゾウを混ぜた物と混ぜない物。甘口と辛口を作る準備をお願いします。好みや得意不得意に合わせた味調整です」
「はい、畏まりました!」
カンゾウが使えるからか、楽しそうなヘレーナさんが勢いよく頷く。
「クズィーリさんすみません。カンゾウの購入代金はまた後で必ず。とりあえず使わせてもらいます」
「私も、魔法の香料の使い方を教えてもらっていますし、カンゾウは差し上げます……量は多く取れる物ですので……」
「いえ、クズィーリさんも商売でやっているのですから、ここは払わせてください。っと……クレアさん、俺はちょっとレオの所に行ってきます。カレーを食べるかどうか聞いておかないと……」
「はい、わかりました」
クズィーリさんは、カレーを教えてもらうだけでカンゾウの代金はいらないと考えているようだけど、そこは商売。
ちゃんと購入代金は後になってしまっても、払うつもりだ。
それはともかく、とりあえずクレアに断って、レオ達がいる庭へ向かう。
厨房を出る前に、一応野菜や肉を炒めておくようお願いしながらだけど。
「まさか、ヘレーナさんがカンゾウにあれだけ大きく反応するとは……カレー粉に大きく反応した俺が言える事じゃないけど」
廊下を急ぎ足で歩きながら、一人呟く。
カンゾウ、甘草か……クズィーリさんには今回使う分を買うとは言ったけど、今後買うかどうかは実は別の話。
ヘレーナさんは買うよう動くだろうけど、そうしなくてもいい理由がある。
「クズィーリさんが薬草としてって言っていたからなぁ」
あの言葉で思い出したけど、実は『雑草栽培』で一度だけお試しで作った事があったのだ。
薬草が載っている本に書かれていて、その時は必要のある薬草ではなかったため、作れる事を確認して満足した。
なんとなく、甘草に似ているなぁとはその時に思ったけど、甘味料としては一応知っていても使い方などは知らなかったし、『雑草栽培』の状態変化でも甘味ではなく薬効がある変化しかしなかった。
それに、ラモギやロエなどの例もあり、この世界では似ている別物なのかもとそれっきりだったんだけど……。
「まさか、あれが砂糖の代わりになるとはなぁ。甘味料が高く、一般の人はほぼ買えないし、公爵家でも多くは扱えない状況が、一気に変わる可能性がありそうだ……」
甘い物が作れると聞いたクレアが、大きく反応して嬉しそうだった厨房での様子を思い出しながら、独り言を続けて裏庭に出た――。
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