ヘレーナさんにクズィーリさんを紹介しました
「俺に様付けは必要ないですよ、クズィーリさん。多少は慣れましたけど、様を付けられる程でもないですしね」
使用人さんとかから様を付けて呼ばれるのは慣れたし、雇っている側でもあるから仕方ないと諦めている部分もある。
……実は一度、ライラさんやアルフレットさんに話したんだけど、その時には仕えている方をぞんざいに扱っていると見られる可能性があるなど、懇々(こんこん)と説教をされたため、諦めた。
特にライラさんは、絶対に譲らないという意気込みが見え隠れしていたからなぁ。
けど、クズィーリさんは取引になるわけだし、俺は貴族でもなんでもないからな、もっと気楽に呼んで欲しいと思う。
「そ、そうですか……? でも、公爵様やクレア様と親しくされている方ですし、こんな立派なお屋敷を建てられるくらい、凄い薬師様なのですから……」
「まぁまぁ、あまり気にしないで。クズィーリさんとは、対等な取引相手としておきたいんです。ですから、ね?」
「は、はぁ……ではタクミさん、とお呼びする事に致します」
「はい」
戸惑うクズィーリさんに、少し強引なとは思ったけど様ではなくさん付けで呼ばれる事に成功した。
その横で、リーザが自分もと主張するように手を挙げているのと、クレアが笑顔で何やら考えている……。
「私も、時には様ではない呼び方をされてみたいですね。どうですか、クズィーリさん?」
「リーザもね、様とかいらないよー?」
「え、えーっと……」
半分くらい冗談なんだろう、クレアの笑顔はエッケンハルトさんに似ていた。
クズィーリさんを少しからかっているのかも? 使用人さんや護衛さん達以外で、近い年頃の女性だからちょっと遊んでいるとかかもな。
とりあえずクズィーリさんからは、クレアの事は今のまま様付けで、リーザは他の人達と同じようにちゃん付けで呼ぶ事が決まる。
クレアは少し残念そうだけど。
そこでふと、クズィーリさんが獣人のリーザの耳や尻尾に注目、どう見ても人間の俺の事をパパと呼んでいるのに疑問を感じたらしい。
ずっと目の前にいたし、何度もパパって呼んでいたのに今気付くとは……。
まぁそれだけ、クレア達公爵家の人と次々と対面したり、レオを見たりした衝撃が大きかったって事だろうけど。
クズィーリさんは割と、目の前の事でいっぱいいっぱいになる人みたいだな。
ともあれリーザの事を説明しようとしたところで、奥からヘレーナさんがこちらに来ているのが見えた。
「タクミ様、クレアお嬢様。お呼びとの事ですが……?」
「あぁ、ヘレーナさん。こちら、クズィーリさんです。香料を扱う行商人をされています」
「え、えっと……クズィーリです。よろしくお願いします」
「ヘレーナです。ここで、料理長を任せられています。それで香料、ですか?」
簡単にクズィーリさんをヘレーナさんに紹介。
お互い、頭を下げて名乗る……ヘレーナさんはコック帽を取ってだな。
そういえば、ヘレーナさんがコック帽を取っているところって初めて見たかも、時折庭での食事に参加する事もあるけど、そこでもコック帽は付けたままだったし。
というか、食事中でもコック帽を付けておくのは料理人としていいのだろうか? と思うけど、何かこだわりがあるのかもしれない。
っと、それよりもクズィーリさんの事だな。
「ヘレーナさんは、香料の事を?」
「聞いた事はあります、調味料の一種とか」
さすがヘレーナさん、香料自体は聞いた事があり知識として一応知ってはいるみたいだ。
「それで間違いありません。香料その物が調味料になる事もあれば、調味料の一部が香料という事もあります」
補足するクズィーリさん。
大体、俺が知っている香辛料とほぼ変わらない考え方かな。
ちなみにコショウとかはこの厨房にもあるけど、そちらは香料というより調味料という認識みたいだ。
香料、つまり香辛料は明確にこれだと定義されているわけではないらしい。
「成る程……香草とは違うのですか?」
香草は臭み消しなど、この屋敷で出る料理にも頻繁に使われている。
独特な匂いが出る物もあるためか、フェンリルやレオには不評なのもあったりはするが……。
ちなみに香草は農作物という扱いではないけど、自家栽培しやすい物が多いためなのか『雑草栽培』で作れない物が多い。
ミントは繁殖力が怖くて試していないけど、俺が知っている香草、つまりハーブを作ってみようと試したらほとんど作れなかった。
その時作った物と、料理でよく使う物は料理人さん達が厨房から外に出てすぐの所で、栽培していたりもする。
「基本的には似ています。料理などの食べ物に使い、香りや味に深みを持たせるための物ですね。ただ大きく違うのは、香料は植物の使う部分が違うのと、基本的に熱して使います」
詳しくないけど、なんとなく知っている俺の香辛料に対する知識とも合致するな。
やっぱり、香料は香辛料という事で間違いないんだろう。
まぁシナモンティーやジンジャーティーを試して、わかっていた事ではあるけども。
「成る程、そのような違いが……それでタクミ様。タクミ様がここに来たという事は、その香料を使って料理を、という事でしょうか?」
へレーナさんがクズィーリさんに頷き、話しを俺に振る
さすがヘレーナさん、話が早い。
まぁ俺が厨房でヘレーナさんを呼ぶ時は、大体何かを作って欲しい時だからな。
「はい。まぁ使い慣れないと、色々試して失敗してしまうかもしれませんが。クズィーリさん曰く、魔法の香料がありまして。それを使えば、おそらく失敗はしないと思います。使い方、料理の仕方はある程度知っていますし」
「魔法の香料?」
「そうなんです。味付けに失敗した料理でも、その香料を使えば簡単に美味しくできるんです! 癖になると、魔法の香料がないと耐えられないくらい、凄い物なんです!」
魔法の香料という言葉に反応し、クズィーリさんが興奮気味に話すが……その言い方だと、カレー粉が危ない物に聞こえなくもない。
確かに、カレーが食べられないと思うと耐えられないというか、渇望してしまうようになるかもしれないけど。
別に危ない成分や、依存性なんかはないはずだ。
むしろ体にいい成分が多いくらいだと思う……美味しくて、また食べたいと思えるのは間違いじゃないけど――。
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