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1841/1996

怒りの仁王像が待ち構えていました



 片や公爵家の当主様、片や表向きは大公爵様で実際は建国者で現国王様や王家の祖先。

 その二人がヘの字口で腕を組み、仁王像のように立ちはだかって戻って来た俺達を睥睨していれば、そりゃルグレッタさんやセバスチャンさんじゃなくても溜め息を吐きたくなるよなぁ……忘れて置いて行ったのは俺達だけど。

 なんにせよ二人は、よっぽど置いて行かれた事がショックで怒っていると主張したいらしい。

 状況が状況なら、立ちふさがる絶大な権力者二人! みたいでもあるが、その二人が主張したいのはレオのお散歩に置いて行かれた事に対してだ。


 ゴゴゴゴゴ……という文字が背後に見えそうな迫力はあれど、なんとなく悩ましいという気持ちが先立ってしまう。

 クレアやマリエッタさんが怒っている時の方が、迫力がある気がするのは、口に出さない方がいいんだろうけど。


「「……」」


 何があっても喋らないぞという意思すら感じる強固さで、への字口のまま動かない二人。

 怒っているのはわかるけど……どうするべきか。

 せっかく連れて来たクズィーリさんも、何がなんだかわからない様子で戸惑っているし……。


「ワゥフ?」


 状況を把握しているのか、二人の気持ちが伝わっているのかはわからないが、レオが一歩前に出て大きく口を開けた。

 威嚇というか、やっちまおうか? 的な感じである。

 本当に何かするわけじゃないだろうけど。


「「……っ!?」」


 さすがにレオが相手だと分が悪いんだろう、ずっと腕を組んだまま動かない二人だけど、体をビクッ! と大きく反応させていた。


「それは、最終手段にしようかレオ」

「ワウゥ」

「「……ふぅ」」


 実力行使は最後に、という事でレオを撫でて下がらせると、二人からホッと息が漏れた。

 すぐにまたヘの字口になって、表情を引き締めて俺達を睥睨する。

 ……実はあんまり怒っていないんじゃないかな? とすら思えて来たけど、だからと言って無視はできないしなぁ。

 入り口は塞がれている。


「あのー、エッケンハルトさん? ユートさん?」

「「……」」


 俺が話しかけても、二人は特に反応を示さず。

 目線をこちらに向けるだけだった。

 ちなみにクレアが声をかけても同じ結果だ……うーむ。


「ここは、エッケンハルトさんかマリエッタさんが……?」


 置いて行かれた事を怒っているのなら、謝ればなんとなかるかな? と思いつつ別の解決策として、エルケリッヒさんとマリエッタさんに頼んでみる。

 けど……。


「ハルト一人だけならともかく、ユート閣下もいらっしゃるからな……」

「私達では何もできないわね……」


 との答えだ。

 それを証明するように、エルケリッヒさん達が声をかけても俺やクレアと同じ結果……半分だけ同じ結果だった。

 半分というのは、エッケンハルトさんが少し反応していたからだ。


 両親が相手となると弱いらしいが……やはりユートさんが大きな壁になっている、手強い。

 なんて対処法を考えていると、ユートさんの後ろからふよふよと一つの毛玉、もといフェヤリネッテが出て来る。


「面白そうな事を、私達抜きでやるのが悪いのよう! 連れて行って欲しかったのよう!」


 と、二人の気持ちを代弁するように主張し、エッケンハルトさんやユートさんと同じように腕組みをしてこちらを睥睨する……ようなポーズになる。

 人の顔より小さいから、なんとなくそれっぽいくらいしかわからないが。


「皆で集まって、どうしたんですか?」

「キィ?」


 さらに今度は、空からラーレが降りて来てティルラちゃんも加わる。

 あちらも無事に戻ってきたようだけど、玄関前で繰り広げられている状況がよくわからないようだ。

 茶番、というと真面目に怒っていると示す二人……フェヤリネッテを入れて三人か、その三人に失礼かもしれないが、ともかくこの茶番を終わらせないとな。

 仕方ない、謝るしかないか……最初からそうしろとも思うが、何も喋らず口を引き結んでヘの字口にしているので、謝る事が正しいのかわからないが。


 とりあえずで謝ると、相手を悪い意味で刺激する可能性があったりもするからなぁ。

 フェヤリネッテも声を張って主張していたし、忘れてレオのお散歩に行ったのを怒っているので間違いないんだろう。

 そう思い、三人を窺いながら近くに行って頭を下げようと……した直前、ユートさんの鼻が何やら動いたように見えた。

 ……気のせいか?


「……この匂いって?」


 いや、気のせいじゃなかった。

 くんくんと、目を閉じて鼻を鳴らすユートさんは、何かの匂いを嗅いでいるようだ。

 感じる匂いを辿るように、徐々に俺へと近づいて来て……俺の胸辺りのすぐ近くまで顔を寄せ、ぴたっと動きを止めた。


「んー、スンスン……やっぱりこれ、カレーの匂いだ!! タクミ君、もしかしてカレー食べた!?」

「いやぁ、カレーは食べていないけど……」


 さすがにお散歩に行ってカレーを食べて帰って来るなんて、日本ですら厳しいと思う。

 飲食店に犬を連れて入るのは難しいからな。

 ともあれ、食べたわけじゃないけどその匂いの元は……。


「ユートさんが気にしているのは、これの事だと思う」


 そう言って、自分の懐から探りクズィーリさんに売ってもらった、カレー粉っぽい物の入った革袋を取り出す。

 よく見たら、口が少し緩んでいてそこから匂いが漏れていたんだろう。

 中身が飛び出る程じゃないけど、瓶などとは違って完全密閉されていないから匂いも漏れやすいだろうしな。


「それって……」


 ワナワナ……という表現が一番合う程に、手を震わせて俺が取り出した革袋を示すユートさん。


「本当にそうなるかはわからないけど、多分カレーが作れる素? って言っていいのかな。とにかく香辛料……こちらでは香料だね」

「おぉ、おぉぉ……おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ユ、ユート閣下? 我々は、置いて行かれた事を反省するまで、絶対に動かないと決めていたはずですが……」


 これがまさに感動に打ち震える、という事なのか、目を見開いて叫びつつも全身を震わせているユートさん。

 それに対し、エッケンハルトさんはようやく引き結んでいた口を開く。

 さすがにユートさんの様子が変わったから、声をかけずにはいられなかったんだろう。

 やっぱりというかなんというか、レオのお散歩に連れて行ってほしかっただけなんだなぁ――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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