帰るまでがお散歩でした
「クレアの気質であれば、こういう時は私達と同じように迫ると思っていたのだが、これも成長という事か」
「そうね。ハルトも似たような気質だけれど、私達がそうだから……」
「お父様を見て慣れていますし、それに、タクミさんを見て反省したんです」
「え、俺!?」
急に俺へと飛んできた。
油断していたから、体を大きくビクッとさせてしまった……リーザを驚かせてしまったな、ごめん。
それはともかく、公爵家の人達は熱くなると割と強引にする気質がある……というのはまぁ、何度も経験してわかっていた事ではあるし、だからこその戒め的な習わしなのかもしれないが。
それがよく俺を驚かせる行動力にも繋がっているんだろうけど。
「タクミさんは、決して相手に強制する事はありません。説得をするなどはあるでしょうけど、それでも根気強く相手が動くのを待ちます。絶対に、今のお婆様のように表情や雰囲気で圧倒するなんて事はしないんです」
「いや……それは……」
なんの力も持たない俺が、誰かに強制できる事なんてない……と思って暮らして来たからだし、そもそも押し付けとかは駄目だしなぁ。
それに弁論が得意というわけでもないから、動いてくれなければ諦める、というだけの事だと思う。
あと、マリエッタさんのような相手を圧倒する、つまり圧を出すような事はできないからなぁ。
レオならかなり迫力あるけど、俺が何か相手に圧をかけようとしても涼しい顔で受け流されるか、それともそもそもに圧をかけようとしている事すら気付かれないってオチだろう。
「私自身、失敗しました事がありますが、タクミさんを見ていて反省したんです。――だからクズィーリ、私達の事は気にせず、同行するかを選んで下さい。断っても悪く思ったりはしないし、何か不利益があったりはしません。急に移動するとなっても、準備ができていないでしょうから」
「は、はい……」
クレアに笑いかけられて、蛇に睨まれた蛙状態だったクズィーリさんが、ようやく緊張を解く。
とはいっても、相変わらず多少の緊張はしているみたいだけど……ガチガチではなくなった、という程度だ。
まぁクズィーリさんの事はいいとして、何故か急にクレアに褒められ始めて顔が熱い。
リーザからはどうしたの? と見上げられ、レオは俺を見てちょっと可笑しそうな雰囲気を醸し出しているし……。
「孫娘の成長は、喜ばしいな……もちろん、ティルラもだが。タクミ殿のおかげという部分が大きいのだろうな」
「そうですね……タクミさん、末永くクレアをよろしくお願いしますね?」
「え、あ、は、はい」
照れて顔が熱いのを自覚する俺に、何故か微笑ましい限りと言わんばかりの表情になった、エルケリッヒさんとマリエッタさん。
戸惑いながらも頷いたけど、末永くとか……いつの間にか将来的な事が決められていないかな?
いや、俺自身何も考えていないわけじゃないけど、それをクレアの祖父母の二人から言われるのはなんというか、言葉にし難い妙な気恥ずかしさがある。
ちなみにクレアは、後になって私はなんであんな事を自信満々に……と、皆の前で胸を張って誇らしげに俺を褒めていた事に照れていた。
うん、ほんとになんであのタイミングだったのか……。
と思う俺に、でも言ったように考えていたのは間違いなく、タクミさんの事は尊敬していますから、とフォローのつもりなんだろうけど、クレアから言われてまた気恥ずかしく、そして照れる事になったんだけど。
その様子を、老夫婦ことエルケリッヒさん達が、再び微笑ましい物を見る表情になり、しみじみとかみしめた後に俺を見て、二人で頷くのはどうなんだろう? と思ったりした。
まぁ、クレアをよろしく的な意味なんだろうけど……。
ともあれ、さもあれ、そんな事はとにかく置いておいて、クズィーリさんは結局俺達に同行する事になった。
急な移動についても、行商人であるからなのか旅慣れていて、いつでも出発できるようにはしていたらしい。
ただ、俺達が来る前に香料を使った料理を作っている途中……まだ、調理の仕込みを始める前準備程度だったらしいけど、それが無駄になったのはちょっと申し訳なかったな。
その準備中の物は、クズィーリさんの計らいで駅馬で働く人、つまり今現在いる人員の人達で食べていいとの事だったけど。
しかも費用などは、公爵家持ちという事で駅馬従業員さん達が、大きく湧いてもいた。
食費が浮いたというのもあるのかもしれないが、喜びの中にはクズィーリさんの香料を使った料理が食べられる事に対しての喜びも多く入っていたと思う。
香料、クズィーリさんから買った物だけでなく、他にも色々あるようだから、俺としてはそこが楽しみだ……もちろん重要な話もあるけど。
屋敷に戻ったら、ヘレーナさんと引き合わせてみよう。
なんて事を考えて勝手に計画しつつ、急いでレオにハーネスを付けたり、クズィーリさんの荷物を馬車に乗せたりとの準備を終わらせ、屋敷へと出発。
話ばかりで退屈していたからか、張り切ったレオが最初から速めに走るけど、ちゃんと新馬車や乗る人の事を気遣って、速すぎない程度に抑えていた。
あとで、ちゃんと褒めないとな……ご褒美に、ソーセージやハンバーグもあげたいところだ。
かなりの運動量をこなした後なので、今日のレオはいっぱい食べそうだなぁ。
「ごめんな、リーザ。退屈だっただろう?」
屋敷へ向かう途中、御者台に乗っている俺の膝に座るリーザに声をかける。
クズィーリさんと話している最中、退屈だったろうからなぁ。
多分リーザには難しくて、話の内容もよくわからないことが多かったと思うし、わかったとしても面白い話じゃなかっただろう。
そのクズィーリさんは、キャビンの中でエルケリッヒさん達と一緒の空間に収まり、再び緊張の渦に飲み込まれたようだけど、そちらは同乗しているライラさんに任せておこう。
「んー……ちょっと、かな? 難しい話でよくわかんない時は、少しつまらなかったけど……でも、パパやクレアお姉ちゃんに、ティルラお姉ちゃんのお顔が、色々と変わっていたから面白かった!」
「あー、ははは……難しいのはともかく、話していた内容としては色々あったからなぁ」
半分くらい俺のせいだけど、カレー粉っぽい香料を見て興奮していたりとか、それを見ていたクレアが期待したりキョトンとしたりと、表情を変えていたっけ。
真面目な話、というかカナンビスの件になってからは、真剣な表情が多かったけど――。
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