クズィーリさんから重要な話を聞きました
「これは、本腰を入れてそのお店……ハンボルトでしたか。そこを調べる必要がありますね。元々調べるつもりではありましたが……」
「そうだね……」
クズィーリさんから聞いた、カナンビスに関連する話。
それを聞いて、深刻な表情になったのは俺やクレアだけでなく、エルケリッヒさんやマリエッタさん、ティルラちゃんもだ。
リーザは足をぶらぶらさせながら、ジンジャーティーとシナモンティーを楽しんでいるけど……ライラさんも、表情は変わらずいつものように見えるが、少しだけ深刻な雰囲気を出している。
クズィーリさんの話、それはカナンビスを見つけた事で重要度が増した。
発見したそれがカナンビスだという事は、クズィーリさん自身わからなかったらしいが、それをカッフェールの街にあるお店にも伝えていたという。
元々、香料を仕入れる関係から、珍しい植物の群生地などはその地域でのみ販売されていたり、使用されている香料の情報と共に伝えていたらしい。
その中で、クズィーリさんはカナンビスだとわからず群生地を伝え、どういう植物かを調べて欲しいと依頼したようなのだ。
お店、店主名そのままの店名で、ハンボルトというお店らしいが、そこからの返答は香料にならない取るに足らない植物であるという事だった。
ちなみに、情報を求める際に特徴や見た目などを描いた物を送るのが第一段階で、向こうから求められたら現物を採取して送るという第二段階に分けて、やり取りをしていたみたいだ。
第二段階まで行ってないため、偶然とはいえカナンビスを発見したクズィーリさんは、特に罪には問われないだろうとの事を、エルケリッヒさんが保証してくれる。
まぁ、日本などとは違って知識も十分に広まっているわけではないため、単純に興味などから採取、所持しているだけでは重い罰は与えられないそうだけど。
使用まですると、偶然だったとしても色々と面倒な事になるとかなんとか。
それはともかく、ハンボルト側からの返答には何か含む事があるような気がする、とカナンビスを知っている側からすると考えられる。
何せ、他の植物を発見した時とは違い、事細かにその群生地について聞いてきたらしいからな。
取るに足らない植物、とクズィーリさんに伝えておきながら、細かく情報を聞きたがるというのは不自然だし、それがなんであるかをわかっているからとも思える。
「幸いと言えるかは、どう考えるか次第ですが……群生地が公爵領ではなかった事は、少し安心しました」
「公爵領で群生していたら、処分するにしても面倒な事になっていただろうからなぁ。今回の件で既に、フェンリルに被害が及んでいる事もあるしな」
どこで群生していたとしても問題ではあるけど、自分達の治める領地ではなかった事にクレアやエルケリッヒさん達は、小さく息を漏らしていた。
他領だから良かったとまではならなくとも、フェンリルに被害をもたらし、現在問題になっている原因が自領になかった、という安心感なんだろう。
ただその群生地は、先程も話に上がっていたアレント子爵領だという。
「逆に、アレント子爵は疑いから外れるかもしれんな。あの真面目で実直一辺倒な子爵が、自領にカナンビスの群生地がある事を、良しとするわけがない」
「まぁ、だからこそハンボルトがクズィーリさんから詳細を聞き出した、と考える事もできますから、絶対ではありませんけど……」
アレント子爵は、俺は話に聞くだけなので想像するしかないけど、随分とエルケリッヒさん達からは信用されているようだ。
騎士を多く輩出し、真面目な性格が多い一族という話の通りなら、信用が厚いのは頷けるけども。
「少なくとも、アレント子爵と連絡を取る必要はありますね。ユート様が、全貴族を調べるというような事を言っていましたけど……」
「あの方なら、間違いなくアレント子爵も調べるよう手配しているだろうな……痛くない腹を探られるのは、アレント子爵にとって苦しいだろうが、仕方あるまい」
という事で、クレア達……多分屋敷に帰ってから話をして、当主であるエッケンハルトさんの仕事になるとは思うけど、そのアレント子爵と連絡を取る事が決まる。
その後も、クズィーリさんがわかる範囲で何かの情報がないか話していたんだけど、さらに別の貴族の名が出て来た。
「一度だけ、貴族との関わりをほのめかすような事を言っていたのを覚えています。商品の一部を、その貴族から仕入れているというような内容でしたが」
そう言ったクズィーリさんの言葉に、クレア達が大きく反応。
やはり貴族が関わっていた、と思ったからだろう。
カナンビスの薬など、他に知られないように取り扱う手段など、ユートさんが特にだけど貴族の関与を疑っていたからな。
だからと言って、そのハンボルトのお店と関わりのある貴族が黒だとまでは断定できないが……。
「その貴族は、どなたかわかりますか? 領地も近いので、アレント子爵でしょうか?」
「いえ、違います。あまり私は聞き覚えがなかったのですが……確か、クライツ男爵と」
クズィーリさんは主に国の南側、リーベルト公爵領やバースラー伯爵領……は現在子爵領になったんだったか。
それからアレント子爵領などなど、他にもいくつかの領地を行ったり来たりしているらしく、王都にも行った事があるらしい。
けど、水源が豊富で植物の群生地が多い南側ばかりで、北側にはほとんど行っていないとか。
まぁいずれ新たな香料を探して行くつもりではあったらしいけど、行き来するにも多くの日数がかかるから、まだ行っていないのは仕方ないと言ったところだろう。
ともかく、そのクズィーリさんも聞き覚えがない貴族、クライツ男爵というのは国全体で見ると、北西端に領地を持つ人物らしい。
北側にほとんど行っていないのだから、北西でさらに端の方に領地があるらしい貴族に対して、聞く機会がなくても当然か。
「クライツ男爵……あやつか……これは予想していたよりさらに大事になりそうだぞ……」
その名前を聞いて、苦虫を噛み潰したような表情になるエルケリッヒさん。
オルトリンド・クライツという名で、何か不味い人物なのかと思ったが、表面上は特に問題がある貴族ではないらしい。
ただ、公爵領など国の南側と物理的に距離が離れているため、交流自体はあまりなく、それもあってあまり仲がいいとは言えないのだとか。
そのうえ、隣国と接している領地である以上、多くの人が国を出入りするわけで、そのためか隣国からの影響を受けている可能性が高いとの事だ――。
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