ティルラちゃんが別の着眼点を示しました
「私はあまり詳しく知りませんけど、確かフェンリル達が、嫌な臭いのせいって言っていましたし、香りというのに関係していますよね?」
「うむ……まぁそうだな」
少し気まずそうに頷くエルケリッヒさん。
ティルラちゃんはまだ成人もしておらず、まだ幼いから直接カナンビスには関わらせないようにしていたけど、フェンリルからある程度の話を聞いていたようだ。
おそらく、少し前に発現したティルラちゃんのギフト、『疎通令言』を使ってフェンリル達から話を聞いたんだろう。
カナンビスに関して聞きたかったから、というわけではなく、時折ギフトを使ってお話しているようだから、その流れで知った可能性が高い。
一部のフェンリルは、カナンビスの薬のせいで酷い目に合ったからなぁ……完全に意思疎通できる人は限られているし、口止めなんてしていなかったからそちらから知られるのも不思議じゃない。
元々、カナンビスとは関わっていなくとも、禁止されている危険な植物がある事や、ラクトス周辺だけでなく公爵領全体で情報を集めているのは、ティルラちゃんも知っている事だったけど。
まぁラクトス周辺で集まった調査隊もランジ村に到着したし、ティルラちゃんなりに考える事があったのかもしれない。
「そしてクズィーリさんの扱っている商品は香料。香りに関する物です。もしかしたら、何か繋がっているのではないか、と思ったんです」
「成る程、香り繋がりってわけだね。言われてみれば、何か重なっている気がしなくもないか……」
カナンビスも含め、ここ最近香りに関する話が重なっているからな。
椿油……は本来香りのためじゃないけど、フェンリルが気に入ったりとかもあったし。
ここでクズィーリさんと出会ったのは完全な偶然だけど、他の事も考えると重なり過ぎている。
それこそ、運命とも言える程に……禁止されている植物と関わるのが運命とか、嫌すぎるけど。
「ラクトスや、ランジ村もそうですけど……近くの街や村でこれといった情報がないのは、遠かったからなのかなって。そう考えると、関係があるような気がして仕方がなくなったんです」
「遠ければ、必ずしも情報がないわけではないし、一つの考えだけに囚われてしまうのは注意が必要かもしれんが……確かにな」
「私達は、ランジ村の近くの森で起こったため、近くに情報があるかもしれないと思い込んでいたわ。それを考えると、ティルラをあまり注意できないけれどね……」
「そうですね、お婆様。ティルラだからこそ、そう考えられたのかもしれません。私も、近くに何かがある、ラクトスに情報がなくても、別の場所……それでも近くに何かの情報がと考えてしまっていました」
「俺もそうだよ、クレア。成る程、絶対に近くで準備されているばかりでもない可能性があるって、ティルラちゃんのおかげで考える事ができるようになったよ」
視界が開ける、という程じゃないかもしれないけど……ランジ村北の森での事だから、そこから近い場所を調べれば何かがわかる、と思い込んでいた。
まぁ、もし繋がっているとしたら、カッフェールの街にそのお店はもうないのだから、近くのどこかに移動して来ている可能性はあるけど。
もちろん、そのお店がカナンビスの薬と関係があると仮定してだけども。
「ティルラの着眼点は素晴らしいな。うむ、これは新しく情報を引き出すために使えそうだ。でかしたぞ、ティルラ」
「わ、私はただ、不思議に思っただけです……よ? えへへ……」
褒められたうえ、エルケリッヒさんに撫でられて、謙遜しつつも嬉しそうな様子が抑えられないティルラちゃん。
考え方や観点で、これは本当にティルラちゃんの手柄かもしれないし、存分に褒められていいと思う。
「クレア」
「はい、お爺様。――クズィーリさん、これはあまり大っぴらにできない事で、口に出す事も憚れられる可能性のある事です。強制はできませんが、ここでこれから聞く話を口外しない事を約束できますか?」
ティルラちゃんを撫でながらのエルケリッヒさんが、クレアを窺う……というより促す。
頷いたクレアが、真っ直ぐクズィーリさんを見据えて言った。
おそらく、カナンビスに関しての話をするって事だろう。
「あ、は、はい! 身命に誓い、ここでの事は絶対に口外いたしません!」
ショックを受けていたのもあるけど、ティルラちゃんの発言からよくわからずおろおろとしていたクズィーリさん。
クレアから言われ、再びガチガチに緊張しながら頷き、口外しない事を誓ってくれる。
ちなみに、宿の人達はマリエッタさんが視線を向ける事で、これから内密の話をするなどの事を察したのか、礼をして宿へと入って行った。
これで、周辺には俺達のみで話を聞いている人は他にいない。
誰かが潜んでいる可能性はたぶんないと思うけど、あったとしてもレオが察知できるからな。
周辺にはほかに誰もいない事は、レオが周囲を警戒していない様子からわかる。
「では……クズィーリさんは、カナンビスという植物の事を知っていますか?」
「は、はい……危険な物で、所持や使用も禁止されているとか。見た事がないので、どのような物かはわかりませんが……」
香料も同じく植物を扱う事から、クズィーリさんもカナンビスという物の事は一応知っていたみたいだ。
見た目や効果などは、知らないようではあるけど。
「そうですか。そのカナンビスですが、ここ最近誰かが所持、使用した可能性が高いのです。そして……」
詳細はある程度省いて大まかにではあるけど、クズィーリさんにカナンビスの話を聞かせるクレア。
そこから、一応念のためと各地を回って新たな香料の発見にも努めているクズィーリさんに、カナンビスの特徴なども教える。
販売されている物を見るだけでなく、自分でも珍しい植物の群生地を巡って、香料を探してもいるらしいから、知らないだけで実は見かけた事があるかもしれないからな。
「その特徴の植物は……見た事があります。自然に群生している場所を発見しました……」
カナンビスの特徴や見た目などの話を聞いたクズィーリさんは、愕然としながらそう呟いた――。
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