香料の販売量に違和感がありました
「確かにこれは、タクミさんが面白い使い方と言っていた意味がよくわかりますね。いつも飲んでいるはずのお茶なのに、こんなに味や香りが広がる物なんですね」
「うん。まぁ俺も、自分で色々試してきたわけじゃないから、そういうのもあるって聞いただけなんだけどね」
お世話になった人から、お茶の飲み方……作法とかではなく、ハーブティーも含めてちょっと変わった味や香りを楽しめる方法を教わった事がある。
まぁ随分前の事で、ほとんど覚えていなくて教わった相手には申し訳なかったりはするんだけど。
むしろ、その時聞いた植物関連の知識の方が、面白く感じて興味を持ち、多く覚えていたりする。
それが俺の植物に対する知識の基礎だな……専門家みたいに詳しかったりは全然しないんだけど。
「パパ、なんだか体がポカポカしてきたよ!」
「ははは、それはきっと今飲んだジンジャーティーの効果だろうね」
「そうなの?」
「多分ね。ジンジャーティー、というかジンジャーには体を温めるって効果があるんだと思う。まぁシナモンティーにも近い効果はあるけど……ジンジャーの方が強いんじゃないかな」
「確かに、ジンジャーの香料は体を温めてくれるので、外で食事をする時などに使います」
「へぇ~。不思議だけど、面白いね!」
体が小さいからっていうのもあるかもしれないが、一番早く香料入りの飲み物の効果を実感したのはリーザだった。
期待した通り、ジンジャーティーには俺の思っていた効果があるようで、俺の膝の上に乗っているリーザからも言葉だけじゃなく、温かくなっている気がする。
自分が選んで決めたジンジャーという香料に対して、美味しくて興奮しているせいかもしれないけど。
他にも、シナモンティーの効果なども含めて皆に説明する。
さすがに、シナモンティーに期待している血糖値の正常化とか消化促進とかは、すぐに実感できる事ではないため、はっきりとはしなかった。
けどクズィーリさんがジンジャーの体を温める効果以外も含めて、香料にある効果も補足してくれる。
その内容から、ジンジャーとシナモンは俺が知っている物とほぼ同じ効果と見て良さそうだ。
ただ、特に動いていないのに俺も含めて汗ばむくらいになっていたから、もしかすると高い効果があるのかもしれない。
……発汗作用は確かほとんどなかったとは思うけど……まぁ、害になる程ではなさそうだし、クズィーリさんも香料の効果だろうと言っていたから、大丈夫だろう。
これからも飲むのなら、少し混ぜる量を調整して効果を薄めた方がいいかもしれないが。
「さて、タクミ殿のおかげで予想外に楽しめたが……」
話の腰を折った、という程ではないけど完全に逸らしてしまった事に少し申し訳なさを感じるけど、ともあれエルケリッヒさんがカッフェールの街、そこでいつの間にかなくなっていた店の話に戻す。
喉を潤して一息吐けたからか、それともシナモンティーのリラクゼーション効果なのか、さっきよりもスムーズに話が進んだ。
その中で、アレント子爵との事はともかくとして、クズィーリさんとお店の関係の中で本当にそのお店が、クズィーリさんの発見した、または調合した香料を販売していたのかなどが話の焦点になる。
特にマリエッタさんの。
「クズィーリさんの話が本当であれば、その販売量を考えると公爵領にもっと多くの香料が広まっていたと思うわ。最低でも、近い場所にある公爵家本邸やその膝元とも言える街でも、話題になっていなければおかしいわ」
との言葉が発端になった。
というのも、クズィーリさんが任せていた香料の仕入れや、クズィーリさん自身が調合した香料の販売も担当していたそのお店の販売量がかなり多かったからだ。
もちろん、お店からクズィーリさんに販売しただけの利益分は送られており、実際に販売している所は見ていないながらも、どれだけ販売してその利益になっているかなどは把握しているそうだ。
そして、その利益とお店からの報告からの販売量は、数十人程度が買う量ではなく、お店一つを運営して行く事も可能になるくらい量であり、少なく見ても千人以上に売っている計算になる程だった。
ラクトスのように人が行き交う街でそれだけの香料を売っていたら、子爵領に向かう人だけでなく公爵領に入って来る人も購入しているはずなんだ。
だけど、マリエッタさんやエルケリッヒさんは、引退して別の場所に住んでいたとはいえ、ある程度は入って来る情報に、香料に関する物はないのはおかしいとの事だ。
公爵家の本邸やエッケンハルトさん、それに本邸近くの街でも話題になっていないというのは、確かにおかしい。
インターネットなどはないわけで、基本的に商品の評判は口コミのみ。
だからこそ、売れれる量が多い程噂程度でも話す人が多くなるはずなのに、だ。
「クズィーリが販売量を間違えている、という可能性はあるか?」
「いえ、それはありません。私自身が調合した香料もありますし、お互いに分配する利益は契約でしっかりと。店側が仕入れる香料の数なども報告で把握していました。こちらに送られる香料も利益も合っていましたし、何度も計算して確認をしています。これでも商人の端くれですから、そういった間違いはしないようにしています。だからこそ、多く売れて香料が広まる気配を感じていたのですが……」
本気で疑っているわけじゃなさそうだけど、一応の確認としてエルケリッヒさんがクズィーリさんに問いかける。
それに対し、クズィーリさんは先程までのエルケリッヒさん達に対しての緊張はどこへやら、毅然と答える。
香料を使った飲み物を用意したのが良かったのか、大きく気後れしない程度には、クズィーリさんも公爵家の面々に慣れたようだ。
「そういえばさっき、クズィーリさんはお店があった場所の周辺で聞いて回った、と言っていましたよね? お店がなくなった事を」
「はい」
「その時、周辺にいた人達……カッフェールの住人やお店の人だとは思うんですけど、香料に関しては触れられなかったんですか?」
「取引をしていたお店自体、香料以外にも多くの商品を扱っていましたから……」
俺に言われてか、クズィーリさんはおかしな点に気付いたようだった――。
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