香料を使った飲み物で一息入れました
「お待たせいたしました、タクミ様」
「あ、ありがとうございます、ライラさん」
アレント子爵の話を聞いていると、大きめのお盆に人数分かける二のカップを載せたお盆を持つライラさんが、宿から出て来た。
お茶が淹れ終わったらしい。
「とりあえず、話は一息ついてからにしましょう。クレアやリーザがクズィーリさんから買った香料、その面白い使い方をお見せしますよ」
「ほう、面白い使い方とな?」
「香料……料理などで味や香りを変える、または整えるための物、だったわね? たべものではないようだけど……」
「ふふふ、タクミさんの事です、きっと驚くような物になるのでしょうね」
「どうなるんだろー?」
「飲み物にと言っていましたが……どうなるのか、私も楽しみになってきました。ちょうど、喉が渇いていましたし……」
皆の前に、それぞれ二つずつカップを置いてくれるライラさんと、俺の言葉に期待感を募らせる皆。
クズィーリさんだけは、エルケリッヒさん達を見てぎこちない笑顔になっていたけど……まぁそれはエルケリッヒさん達が来てからずっとか。
公爵家のご令嬢とシルバーフェンリルがいると思ったら、さらに先代公爵様やその奥様まで出て来るんだから、行商人としては緊張続きで休まる時間がないってところだろう。
少しでも、香料を使った飲み物で癒されてくれるといいけど……。
レオにはお茶とは別に、ミルクが用意されていた。
一度には運べないので、大きな桶に数回に分けて宿の人達が注いでくれている。
「ワッフワフ!」
尻尾を振ってレオがお礼を言うように鳴くけど、宿の人達は少しビクッとしていた。
初めて会った時のゲルダさんと似たような反応だなぁ……まぁ仕方ないか。
お礼を言えたレオは、後でちゃんと褒めておこうと思う。
と、レオの方を見ていた俺にカップを置き終えたライラさんが近付き、報告をしてくれる。
「タクミ様、お湯の方には柑橘系の果物がありましたので、そちらを絞って少量足しておきました。足りなければ追加いたしますが……」
「ありがとうございます。うん、十分だと思いますよ」
「はい」
置かれたカップの内、片方はお願いしていた通り果物の果汁を入れてくれたようだ。
少し匂いを嗅ぐと、香料以外に柑橘系……レモンっぽい爽やかな香りが混じっていた。
入れすぎると酸っぱくなりすぎてしまうし、酸味を感じるくらいならおそらく十分だろう。
「それじゃあ、えっと……こちらがクレアの買った香料、ジンジャーを入れたものになります。ジンジャーティーですね」
またの名を、生姜湯とも言う。
レモン系の果汁で味付けされているので、香りだけでなく味も楽しめるはずだ。
「それとこっちは、リーザが買った香料。一般的なお茶にシナモンを入れた、シナモンティーです」
いつも飲んでいるお茶は、ダンデリーオン茶などの例外を除いて基本的に紅茶だ。
そこにシナモンを入れて簡単お手軽に、シナモンティーが完成する。
まぁ、ほんのり苦いストレートの紅茶に、砂糖代わりのシナモンを入れるというだけなんだけどな。
こちらも香りを楽しむだけでなく、砂糖を入れるより複雑で刺激的な味になっているはずだ。
ちなみに、こちらでは砂糖が高価なため、基本的にお茶に砂糖を入れる習慣はない。
「どちらも味だけでなく香りも楽しみながらお飲みください」
「はい。それじゃあまず私はこちらから……」
「リーザはこっちー!」
「ふむ、なら私は……」
大まかな説明をして、冷めないうちに飲むよう皆に促す。
それぞれ、まずはこっちと二種類あるカップを手に取り口へと持っていく。
クレアとマリエッタさん、クズィーリさんはジンジャーから……クレアは自分が買った香料がどんなものか、真っ先に知りたかったんだろうな。
エルケリッヒさん、リーザ、それとライラさんと俺は、シナモンティーを飲む。
ライラさんは俺が用意してもらう前に伝えていたんだけど、ライラさん自身にも楽しんでもらうため、用意するように言っておいた。
そのため、クレア達の手前一緒に座るまでにはなっていないが、別に用意されたテーブルで宿の人達と一緒に飲む事にしたみたいだ。
ちなみに、他の人達が最初に手に取ったのはシナモンティーが多かった。
奥に刺激を感じるようではあるけど、甘い香りもするからかもしれない。
「香りの通りと言えばそれまでだが、いつも飲んでいるはずの物がこうまで変わるか。確かに面白いな」
「ん……甘味も感じますが、少し辛いような刺激を感じますね」
「ん、ん……美味しい! ちょっとピリピリして面白いよ!」
まずはシナモンティーを飲んだ、エルケリッヒさん、ライラさん、リーザの感想。
お気に召したのか、コクコクと飲むリーザは甘いだけでなく辛く感じる刺激を好んでいるようだ。
やっぱり辛党なのかな?
エルケリッヒさんやライラさんも、予想以上に気に入ってくれた様子だ。
「こちらは、酸味と辛味が絶妙で……慣れると癖になりそうです」
「酸っぱいですけど、辛味だけでは飲み辛く感じそうですね。成る程、こんな使い方が……」
「私は、こちらのジンジャーティーだったかしら? この方が好みね」
今度はクレア、クズィーリさん、マリエッタさんそれぞれの感想。
酸味はライラさんが絞ってくれたレモン果汁のおかげだろう。
一口ではそこまで美味しいと感じなかったのか、クレアは少しだけ難しい表情をしていたが、すぐに続きを飲み始めたから、自分で言っていて癖になってきているのかもしれない。
クズィーリさんは、面白い物を見る目でジンジャーティーの入ったカップを見つめている……香料を扱って、販売する商人として参考にするつもりなんだろう、何やら感心している様子だし。
マリエッタさんは、ジンジャーティーを飲んだ後すぐにシナモンティーも一口飲んで、飲み比べての感想のようだ。
酸味のおかげだろうか、マリエッタさんはジンジャーティーが気に入ったみたいだな。
「うん、大体思っていた通りの味と香りですね。あとは効果の方ですけど……あ、そうそう。これ以外にも、シナモンティーはミルクを混ぜたり、ジンジャーティーの方は混ぜる果物の果汁を変えたり量を変えたりとか、色んなアレンジをして楽しむ事もできるはずですよ」
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