材料集めが難しい理由があるみたいでした
今回クズィーリさんの持っていたカレー粉のような香料、その材料のほとんどはどんな植物なのか知らない。
種子などがそうなっているとなんとなく知っているだけで、植物としての形などは全然知らないので、『雑草栽培』ではおそらく作れないんだろう。
意外と、なんでもできそうだけど欲しい物が作れないという事もあって、『雑草栽培』が万能ではない事を思い知らされてたりしている。
「も、申し訳ありません。以前までであれば、一か月に一度……頑張ればもう少し早く、さらに量を増やして作れてはいたはずなのですが……」
俺が考えていたのを、不満に思っていると勘違いしたのか、クズィーリさんが謝る。
無理や無茶をして欲しいわけじゃなく、むしろそれで納得する方向で考えようとしていただけなのになぁ。
クズィーリさんの前では、あんまり考え込まない方がいいかもしれない。
それか、俺が深刻そうな表情を気付かぬうちにしてしまっていたのかも。
「あぁ、クズィーリさんが謝る事ではないので気にしないで下さい。でも、以前はもっと早く作れたんですね。それは、今材料を集めるのが難しくなっているって事ですか?」
「はい。この公爵領だけでなく、様々な場所に行って香料になる物を探し、集めていたのですが……それらを一か所に集め、さらに定期的に仕入れるよう計らってくれていたお店が、なくなってしまったんです。ですので、今は自分でそれらもやらないといけなくて……」
「行商をして各地を旅しながらだと、それは大変ですね……」
まぁそのお店以外にも、クズィーリさんの拠点みたいなものはあるんだろうけど。
でも、全てを一人でやるとなると……むしろ行商をしながらやれている事に驚くくらいだ。
「タクミ様やクレア様であれば優先的に商品を作り、お売りしたいとは思いますが……今はまだ二か月が限界なのです」
俺はともかく、クレアを前にして公爵家との商談に近いから、優先してくれているのか。
それで二か月は……少し無理をしているんじゃないかな?
「ですので、今回ラクトスの街へ行く目的には、商売以外にもそういった事を引き受けてくれるお店がないか、探すつもりでもあるんです。まぁ、以前頼りにしていたお店がなくなってからは、大きな街によるたびに探してはいるんですけど」
「ラクトスで、という事はこれまで頼れるお店は見つかっていないわけですね……」
「はい。香料を食べ物に、というのは塩などと違ってあまり一般的ではありません。ですが、それなりに利益の出る商売になって来ています。ですので、取引をして下さるお店には、損は出ないようにするつもりではあるのですが……」
まぁ損は出なくても、各地を転々として連絡が付きにくい人と取引をして、新しく商品を加えたり、その人のために仕入れをするというのは、簡単に受けてくれるお店がないだろうというのはわかる。
そもそも香料を扱っているお店自体が少ないし、種類もクズィーリさんの持っている物より少ないだろうし。
場合によっては、お店が完全に専門外の商品を取り扱う事になってしまうわけだからなぁ。
「損は出ないという事はお店の利益になるのでしょうけど……以前のお店はどうしてなくなったんですか?」
お店だから、クズィーリさんと関係なく別の何かで利益がマイナスになり、続けられなくなった、という可能性もあるにはあるけど。
ただクズィーリさんの話を聞いていると、赤字続きで経営難だったお店のような印象は受けない。
ただの俺の印象ではあるけど、どちらかというといきなりお店がなくなった、と言っているように感じた。
「それが、私にもよくわからないのです」
「わからない?」
香料を仕入れてくれてもいたわけだし、結構強い繋がりがあったと思えるのに、クズィーリさんにもお店がなくなった理由がわからないというのはどういう事だろう?
「ある日突然、そのお世話になっていたそのお店と連絡が取れなくなりまして。それで、直接赴いても見たのですが……お店があった形跡すらなくなる程、綺麗さっぱりなくなっていたんです。それこそ、元々そこには何もなかったように……」
クズィーリさんが言うには、突然連絡がなくなったのを怪しんだクズィーリさんが、お店があった場所に行ってみると、何も痕跡がなくただの更地になっていたらしい。
以前まであったはずの建物すらなく、しばらく放置されている土地のような状態だったとか。
周辺にいる人、暮らしている人、または付近のお店などで聞いてみたら、随分前にお店を畳んで店主はどこかに行った、というのが知れただけだったらしい。
クズィーリさん自身は、そのお店に何度か行った事はあるらしいけど、香料の販売と探索を各地を自身で回っている関係上、頻繁には赴いてはいなかったとの事だ。
連絡が途絶えてから尋ねたのよりも前は、もう一年以上前になると言っていた。
周辺の人達からの情報と、クズィーリさんからの話を合わせると……。
「随分前からお店はなくなっていたのに、隠してどこかから取引を続けていた、という事になりませんか?」
「おそらく、タクミ様の言う通りなのだと思います。ですが、こちらからはそのお店のある場所と連絡を取っているつもりだったので……向こうからの連絡が途絶えた以上、こちらから連絡をする事はできません」
「そう、ですよね……」
どこか別の場所からとしても、クズィーリさんと連絡を取っていた相手がどこにいたのかわからない以上、足跡は追えない。
クズィーリさんはお店に対して連絡などを差し向けていたのだから、以前は近くにいたのかもしれないが……今は周辺の人達がどこかへ行った、という情報しかないのだから探しようもない。
連絡が途絶えて日数も経っているため、どこか遠くへ行っている可能性だってあるからな。
「一応聞いてみますけど、そのお店はクズィーリさんの香料を専門に扱っていたお店、というわけではないんですよね?」
「はい。私に協力してくれる前もその後も、香料だけではなく幅広い商品を揃えていました。珍しい物、新しい物を色々と集めて売るのが趣味、と店主の方は言っていましたが、そのおかげで私の香料も集めて売り出してもくれるようになったんです」
「成る程……」
利益が出ないわけじゃない、けどそれだけでなく香料という他ではあまり見ない物、特にクズィーリさんが発見したであろう、出回っていない物もあったから、興味も含めて協力したってところだろうな――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。