お高い買い物になりそうでした
「もしかしなくても、こちらの香料を使えば一つの強い味と香りの物になるんじゃないですか!?」
「え!? あ、はい! そ、そうです。こちらの香料……まだ最近作ったばかりなので名前などは決めていませんが、使えば刺激的で癖になる味や香りにできる魔法の香料です!」
俺の圧に押されて、多少たじたじになりながらもそこはクズィーリさん、香料に対する……特に俺が興味を持っている香料に対する思いが強いのか、鼻息荒くそう言い切った。
魔法の香料か……。
本当に魔法がかかっているわけではないけど、そう言いたい気持ちもわかる。
さっきから話している香料が、俺の考えている料理を作る事ができる物であるならば、つまりカレー粉とも言える物であるならだけど。
煮込み料理、肉じゃがとかを作っていて失敗しかけたから、カレー粉を入れてカレーにするなんて話もあるくらいのものだからなぁ。
……俺も、何度か経験したし。
クズィーリさんが作った物がカレー粉と同様の物なら、確かにどんな物でもはさすがに言い過ぎでも、多くの料理がカレーの味になって、失敗した物でも美味しく食べられるようになるはずだ。
「クズィーリさん、これを多く作る事ってできますか?」
「少々難しくはありますが、できなくはありません。ただ……」
「ただ?」
何か言いよどむクズィーリさん。
難しくても作る事ができる以外に、懸念点でもあるのだろうか?
「複数の香料を使っているため、それらを入手する必要がありまして。クレア様やタクミ様との商談であれば、こちらもできるだけお安くさせていただきたい……とは思うのですが……」
「つまり、値が張ってしまうんですね」
「はい……」
ちらちらとクレアを窺うクズィーリさん。
値切りというか、クレアが相手だからあまり高く売りつけられないと考えているのかもしれない。
公爵家にお金があるかどうかではなく、公爵家相手に利益を求める商売をしていいのか、と迷っている感じだな。
「大丈夫です、多少値引きしてくれるとありがたくはありますけど……損はさせません。これは、必ず売れる物ですよ。それどころか、食べ物に革命を起こす可能性すら秘めています!」
「か、革命ですか……?」
熱く語る俺に、目をくるくると回して戸惑うクズィーリさん。
隣のクレアやリーザも、本当かどうか少し疑わしいといった様子だ……まぁカレーを知らないと、そうなるのも当然だよな。
ユートさんがこの場にいれば、即断で「買った!!」と叫びそうだけど。
「ははは、少し大袈裟かもしれませんが……俺はそれくらいの物だと思っています。それで、いくらくらいになりますか? もちろん、値引きとかは考えず街などで売る際の値段で」
もうほぼ俺の中で、買う事は間違いないと決定してはいるけど、値段はちゃんと聞いておかないとな。
俺自身が使えるお金に余裕があっても、ちゃんと考えて買い物をしないとキースさんに怒られるからなぁ……。
金銭感覚は日本にいる時から大きく変わっていないと思うけど、何も考えずに使おうとする事に、キースさんは厳しいから。
書類確認で、予算の話などをしていて何度かキースさんに怒られた経験もあるし。
「今ここにあるだけで、金貨一枚で販売しようと考えていました」
「き、金貨一枚ですか……」
香料、香辛料の地球での歴史を考えれば、物によって高価になるのは仕方ないと考えていたけど……まさか金貨一枚だとはさすがに思っていなかった。
大体日本円に換算すると、十万円って事だからな。
「本来、料理などの味や香りを変えるため、一振りする程度で使用するので……。一人分で考えますと、ここにあるだけで数か月、毎回の食事で使えるくらいですから。売り出す時は、もっと小分けして販売しています。あまり、売れませんけど」
「まぁ、小分けにしても高く感じる人も多いでしょうからね……」
一振り程度ならまだしも、今目の前にある物をカレーを作るために使うなら、多分良くて二食分くらいだろうか。
食べる人数にもよるだろうけど。
「も、もちろん、クレア様やタクミ様が買って下さるのなら、利益は度外視してもっと値引きさせていただきます!」
「あぁいえ、そこは気を遣わなくても大丈夫なんですけど……うーん」
予想以上に高価だったから、ちょっと戸惑っただけだ。
それをクズィーリさんは、高すぎると俺が考えていると思ったんだろう……ちゃんとした商売であるなら、利益も乗せた正規の値段を言うのは特に問題はないはずだけどな。
ただなぁ……。
「すみません、予想より高くて……あぁ、買う買わないとか失礼だとかそう言う事はないので安心してください。ただ、さっき食べ物に革命が起きるとまで言ったのはさすがに大袈裟だったかもしれません」
「は、はぁ……」
高くて一般の人が気軽に手を出すのは難しいからな。
多少良い物を買えるくらいの余裕がある人なら、少量を買って試すくらいはできるだろうけど……カレーを作れる程の量は手が出ないだろうし。
一部で好評を得られても、一般的に広く買って使われなければ革命なんて起きるもんじゃないだろうし。
多くの人に食べてもらえば、その味の衝撃や癖になる事から、革命と俺が言ったのは多分外れてはいないと思うけども。
「とりあえず、ここにあるのだけでも買わせてください。あーえっと、全部買い取っても大丈夫ですか? その、ラクトスに行っても商売をするんですよね?」
「あ、はい。問題ありません。少し気を遣った調合になりますが、原料は残っているので。今ここにある物をお売りしても、ラクトスではまた新しく調合して販売できます」
「それは良かった」
カレー粉のような香料一つが商品というわけじゃないだろうけど、俺が買い占めてラクトスで売り出す商品が減るのはなんとなく申し訳ないからな。
「それじゃ……あーっと、少し待っていてもらえますか?」
「あ、はい」
「すみません。――ちょっとライラさんの所に行ってくるよ、クレア」
「はい。リーザちゃんやレオ様と一緒に、クズィーリさんとお話しておきますね」
「うん」
クレアに断って少しだけこの場を任せ、一人でライラさんのいる方へ駆け出す俺。
カレー粉と言える物があり、入手できるとわかったせいなのか、思った以上に逸る気持ちが前面に出ているのかもしれない。
すぐ近くではあるけど走って来た俺を見て、エルケリッヒさん達と和やかに過ごしているライラさんを少し驚かせてしまったみたいだ。
ティルラちゃんもびっくりしていた――。
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