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1825/1997

香料を扱う行商人さんのようでした



「料理が……それは確かに、嬉しく思いますね」

「美味しい物なら、楽しくなるー!」

「ワフ!」


 美味しい物が食べられるかも、と考えて顔を綻ばせるのは俺だけでなくクレアやリーザ、レオもだった。

 俺だけ食いしん坊ってわけじゃなかったな、美味しい物は大事だ、うん。

 ただレオは……香辛料はコショウもそうだけど刺激や香りが強いので、以前は好まなかったしあまり食べさせられなかったからなぁ。

 今はシルバーフェンリルになっているから、どうなのかわからないけど……まぁ人間でも結構味が濃いと思えるような料理も美味しく食べているし、体に害はないらしいから大丈夫かもしれない。


 そういえば、匂いをかぎ取った時のリーザは美味しそうと言っていたけど、レオは美味しそうだとは感じなかったようだったなぁ。

 ……期待しているようだし、レオも美味しく食べられるような何かがあればいいんだけど。

 そんな事を考えている間に、最初に迎えてくれた男女の男性の方が宿から出て来て俺達に一礼。

 その後、手早くテーブルと椅子を整えてテラス席のように座れるようにして勧めてくれた。


 レオはさすがにテラス内には入れないため、一段下でお座りしてもらったけど、俺達はせっかく用意してくれたんだからと、一緒に座って待つ事にする。

 ただの気分なんだろうけど、珍しくリーザが椅子や俺の膝の上ではなく、クレアの膝の上に乗ったのは少し寂しかったけど。

 ぐぬぬ……。


「お待たせいたしました。こちらが商人のクズィーリさんです」

「お、お初にお目にかかります! ク、クズィーリと申す者です! ク、ク、クレア様、ご機嫌麗しく……!」


 戻って来た女性が連れていたのは、二十代中盤から後半くらいのショートカットの女性だった。

 ガチガチに緊張していて、噛みながらもクレアに深く頭を下げる。

 というか、女性だったのか……まぁ性別は聞いていなかったけど。


 香辛料を扱ううえで、匂いというのは大事だし、女性の方が男性より匂いに敏感だという話も聞いた事があるようなないようなだから、おかしな事ではないのかな。

 というか、女性の一人旅か……この世界では珍しい事ではないのかもしれないが、危険は当然あるからこそ、この場所から放り出さずに泊めてもらえて良かった。



「そんなに緊張しなくていいですよ。ただちょっと、話が聞きたいだけですからね」

「い、いえそんな! クレア様の前で粗相はできませんから! そ、それでそのう……お話というのは……はっ! もしかして、嫌いな匂いでも私出していましたか!? も、申し訳ありません!」

「嫌いな匂いで気分を害した、などではありませんから。気にしないで」


 緊張しっぱなしのクズィーリさん……結構早とちりというか、気にしすぎるタイプなのかもしれない。

 ともあれ、このままでは落ち着いて話ができないので、連れて来てくれた女性にも手伝ってもらって、落ち着かせて座ってもらう。

 俺やクレアの前に座る時、また緊張したようだけど。

 とりあえず、話はできるだろうと簡単に俺の自己紹介も済ませた。


 公爵家であるクレアの事は知っていても、俺やリーザ、それにレオの事は言っておかないと混乱しそうだったからな。

 クレアの前に出るとあって余裕がなかったからだろう、椅子に座った後でテラスの外でお座りしているレオに気付き、大きく驚いていたからな。

 危うく、椅子から転げ落ちそうにもなっていたし。


「そ、そ、それで、私にお話しというのは一体……?」

「クズィーリさんが、食べられる香りのある物を扱っている商人だというのを聞きまして」


 ようやく本題に入るが、クズィーリさんが座って近くに来たからだろう、ほんのりと何かの匂いが周囲に広がった。

 おそらくクズィーリさん本人の匂いとかではなく、今まで香辛料を扱っていたから体や服に染みついていた匂いとかなんだろう。

 嫌な臭いとかではないが、少しだけ刺激を感じるような匂いだ……一応リーザとレオを確認したけど、刺激の方は大丈夫みたいだな。


「は、はい……私は香料と呼んでおりますが、様々な場所で入手した香料を売り歩いております。また、新しい場所では新しい香料を発見できる事もあり、それを使って調合し新しい香料を作ったりもしています」

「成る程成る程……」


 クズィーリさんの話を、何度も頷きながら聞く。

 香辛料……クズィーリさんの言い方なら香料か。

 その香料がスパイスだとするなら、植物からだろうし、場所によって植生が違うからこれまでなかった物を発見する事もあると思う。

 だからこそ、売り歩いている行商人をしているのかもしれないな。


「その香料は、どんなものがありますか? というか、ここで販売する事は可能でしょうか?」

「も、もちろんです! ただその、まだ調合中の物もありますので、私の持っている商品全てが今すぐ売れるわけではないのですが……」


 クズィーリさん曰く、本来はラクトスに到着してから集めた香料を調合し、商品にする予定だったとか。

 だから単体では扱いづらい物もあって、今すぐ販売できるものとしては不十分なものもあるらしい。

 調合というのは薬みたいだけど……要は香辛料をかけあわせて別物、または欲しい香りや味にするための準備というところだろう。

 俺としては、香辛料に詳しくはないけど知っている物と比べるためにも、調合前の物が多いのはありがたいかもしれない。


「ここでゆっくりできるとは思ってもいませんでしたから、つい長居して商品の準備をしてしまっていました。公爵様が準備している場所というのは聞いていたのですが……も、申し訳ありません!」

「いえ、気にしないでいいですよ。一人で旅をしているという事もそうでしょうけど、比較的安全な場所で過ごせるようにするのも、領主貴族としての役目ですから。もっとも、ここに関してはお父様ではなくタクミさんが主導しているのですけど」

「そ、そうなのですか!?」

「はい。タクミさんが発案し、主導して下さっているおかげで、こうしてあなたも他の領民も、安心して過ごせる場所が作られようとしています」


 驚いて俺を見るクズィーリさんに、少し嬉しそうな様子で話すクレア。

 何故か、クレアの膝に乗っているリーザや、お座りしているレオも誇らしげな気がするけど……皆してほめ過ぎじゃないかな?

 そもそも、安心して過ごせる場所をというよりは移動や輸送を良くできれば、というだけの発想だし。

 元々はフェンリル達が協力してくれたら……という考えからだ。


 宿はついでで、旅人などが安心して過ごせる場所の提供とまでは考えていなかった。

 採算が取りやすくなれば程度だからなぁ……まぁそれはともかくだ――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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