熱意ある飼育員さんがいました
フェンリル達の森での住環境は雑魚寝というか、地面に横たわるくらいだろうから、厩舎で藁を使った簡易的なベッドが快適というのは納得だ。
森の中では、あっても葉っぱなどを使うかどうか程度だろうし、その通りみたいだから。
ちなみに剥き出しの藁が気に入ったフェンリルは、度々積まれた藁に顔から突っ込んでお尻を出している姿を目撃されているとか。
かくれんぼしているわけではないだろうが、まさに頭隠して尻隠さずだな。
「ほぉほぉ、成る程。このふんわりとした毛があるおかげで、固めの藁に直接触れても問題ないのですな?」
「ワフ」
年配の管理人さんは、レオの体に触れながら感心している様子。
フェンリルを迎える事は最初からわかっていたからか、レオに対しても順応が早い。
さっき厩舎に案内されて紹介してもらった時は、レオの大きさに驚いていたけど。
「レオとフェンリルでは、少し毛質が違っているんですけどね」
「そうなのですか? それはどのような……」
「えーっと、実際に触ってみるとわかるんですけど、フェンリルの方が太めの毛で……説明するのは難しいんですけどモコッとしている感じと言いますか……」
興味津々といった様子の管理人さんに、レオとフェンリルの毛質の違いを話す。
言葉にするのは難しいんだけど、見た目も触り心地も違うんだよなぁ。
俺の語彙力じゃ、レオの方が細い毛がサラサラとしていて、フェンリル達は太めの毛がモコッとしているとしか言いようがないんだけど。
元がそうだからっていうのが関係しているのかはわからないが、レオはマルチーズやシーズーに近く、フェンリル達はプードルに近い気がする。
まだ子犬……じゃない、子狼のシェリーはレオに近いサラッと細めの毛質だから、成長に伴って変わっていくんだろうとは思う。
ちなみに手で撫でたり全身で抱き着いたりすると、優しく受け止めてくれるのは毛が細めのはずのレオの方で、少し不思議だったりする。
俺はあまり使わない言葉だけど、ユートさんがボソッと「レオちゃんはモフ度が高い」なんて言っていたっけ。
「管理人さんは、フェンリルをここに迎えるのは平気そうですか? レオにはすぐに慣れたようなので、大丈夫そうではありますけど」
「そうですねぇ……私は、元来生き物の世話をするのが好きでしてな。これまでは馬を中心に面倒を見てきたのですが、今回新たにフェンリルの協力が得られると聞きましたので、是非にと」
「自分から希望したんですね」
「はい。何かのお世話ができる。お世話した生き物が穏やかに過ごしてくれるのが、私にとって一番の喜びなんです」
「成る程……」
「もちろん、フェンリルと聞いて恐れる気持ちがなかったと言えば嘘になりますが……」
話を聞くのは楽しいからいいんだけど、ちょっとした質問から管理人さんのスイッチが入ったらしく、生き物に対する熱い思いを語るモードに入られてしまったようだ。
しばらくの間お爺さんと言う程ではないが、オジサンというより少し上な、初老の管理人さんの話を聞く。
生き物のお世話を生き甲斐にしていて、実際に仕事としているのもあってか、俺の中では管理人さんというより動物園の飼育員さんという感じだ。
名前はジョーセスさんと言うらしいけど、飼育員さんと呼ぶ方がしっくりくるし、頭の中で定着した。
「すみません、お待たせしました」
「ワフ」
飼育員さんの語りを聞いて、少し遅くなってしまったがレオと一緒に外に出て、クレアと合流。
いつの間にか、テーブルとイスが用意されていてそこでくつろいでいたようだ。
多分、宿の備品か何かだろう……どこに持っていたのかわからないが、ライラさんがいるのでお茶もばっちりな様子。
もしかして、新馬車に最初から積まれていたのかもしれない、さすがにカップなどはこの駅馬の物だろうけど。
「いえ、大丈夫ですよ」
そう答えるクレアの視線は、エルケリッヒさんと共にティルラちゃんやリーザの方。
俺が厩舎を案内してもらっている間に、クレア達はラーレに乗って来たティルラちゃんや、マリエッタさんを迎えてくれていた。
マリエッタさんもエルケリッヒさんも、クレアと一緒に椅子に座ってお茶を飲みつつ、走り回っているリーザとティルラちゃんを優しい目で見守っている。
ティルラちゃんは元々そうだけど、すっかりリーザも二人の孫みたいになっているなぁ。
というか、二人とも走り回っていて元気だ……。
「……ワフゥ?」
「ん、どうしたレオ?」
リーザ達を眺めつつ、そろそろ屋敷にと考えていたらレオが鼻を高い位置に上げつつ、不思議そうな鳴き声を出す。
また何か見つけたんだろうか?
「ワッフワフワフ。ガウーワフ」
「不思議な香りがする……? 混じっている変な香り、だって?」
「香り……ですか?」
「む」
レオは近くから何かはわからないが、これまでなかったような香りを嗅ぎ取ったようだ。
香り、と聞いて俺だけでなくクレアやエルケリッヒさん、マリエッタさんの雰囲気が硬くなり、少しだけ周囲の空気がピリッとした。
「その香りって、フェンリル達が体調を崩したものとは、別のもの……だよな?」
「ワッフ」
「はぁ……」
「さすがに、ここではないか」
「ほっ……」
俺の問いかけに頷くレオを見て、胸を撫でおろすクレア達。
香りと聞いて、皆頭にカナンビスの事が思い浮かんだんだろうけど、違うみたいで安心した。
レオが危険を伝えないうえ、香りという風に伝えて来たから多分違うのだろうと確認して良かったな。
以前、森でカナンビスの薬の残り香と思われる臭いを嗅いだ時のレオは、嫌な臭いがするって言っていたからな。
「なんか、美味しそうな匂いがするよ、パパ!」
「うぉっと! そうなのか、レオ?」
ティルラちゃんと遊んでいたはずのリーザが、突然俺のお腹に抱き着いてきながらそう言った。
美味しそう、という事は食べ物の匂いかな? リーザもレオ程じゃなくても結構嗅覚が鋭いみたいだから、俺にはわからなくても嗅ぎ取ったんだろうけど。
「ワフゥ? ワウゥ」
「レオにとっては、美味しそうではないんだな。とにかく、何かしらの匂いがするのは間違いないのか」
とりあえずレオに聞くと、美味しくなさそうという風に鳴いて首を振った。
リーザにとって美味しそうでも、レオにとってはそうじゃないって事かな。
そういえばレオは、混じっているとも言っていたな……食べられるかはともかく、調理に使ういくつかの香草などの香りが漂っているとかだろうか?
食事のための調理を始めるには、少し早い時間だけど――。
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