レオが建物を発見しました
「前は、落ち着いてと言っても構えば構う程興奮してしまう事もあったのになぁ」
なんて、声をかけてすぐ落ち着いてくれたレオが、速度を落とすのを感じつつ呟く。
マルチーズだった頃は一度興奮したら落ち着かせるのに苦労した事もあった。
場合によっては、遊びに夢中になり過ぎて疲れて寝るまで夜遅くまで落ち着かない、なんて事もあったかな……さすがにレオがまだ子犬だった頃の話だけども。
というか、レオの激しく動く尻尾は馬車を曳いている時に少し問題かもしれないな……結構強い風や砂埃を巻き上げてもろに御者台に座る俺達にかかっている。
フェンリル達が曳く方も同じだろうし、もう少しだけ馬車とレオとの距離を話した方がいいのかな? まぁ、これからの課題ってところかな。
そんな風に、雑談を交えながらさらに少しだけ南下し、そろそろ引き返そうと考え始めた頃……。
「ワウ?」
「ん、どうしたレオ? もしかして、魔物がいたりしたのか?」
「ワフ、ワウワフ」
走りながらも器用に首を傾げ、不思議そうに鳴くレオ。
魔物が近くにいるのを察知でもしたのか、と思って聞いてみると違うと言うように鳴いた。
「ワッフワフガウ、ワウー」
「建物があるって言ってるみたいだよ、パパ」
「うん、そうみたいだなぁ。んー……エルケリッヒさん、クレア。この近くに何かの建物ってあるんですか?」
木々が邪魔しているのか俺の目では建物は見えないが、レオが言っているのだから確かにあるんだろう。
休憩などをする場所として、街道近くに人がいたりする可能性はあるんだろうけど、建物があるとは聞いていなかった。
「この辺りは……どうだったか」
「あぁ、この辺りの街道付近に、駅馬のための建物が作られているはずです。レオ様が気付いたのはそれではないですかタクミさん?」
こちらからは見えないが、声の様子から首を傾げているだろうエルケリッヒさんに代わり、クレアが教えてくれた。
駅馬に関してはクレアが主導しているのもあって、引退した身であるエルケリッヒさんはあまり詳しくはないんだろう……ある程度の話は聞いているとは思うけど。
「駅馬……成る程」
野営や休憩する人の多い場所だからこそ、宿も兼用する駅馬の設置に適しているのだろう。
井戸を掘って水の確保もできれば、先程エルケリッヒさんの言っていた難点も解消されて、便利になるしな。
「それはどのくらいできているんだろう?」
「ラクトス周辺がやはり早く作業は進んでいますが、こちらでももう建物自体はできているはずです。そのような報告もありましたから。ただ、まだ人や馬、フェンリルを連れて来て稼働させるには準備不足のようですけど」
「ふむふむ。見に行っても大丈夫かな?」
「構わないでしょう。おそらく準備を進めている者がいるでしょうが、私達やタクミさん、レオ様を歓迎しない理由はありません。特にタクミさんは発案者ですからね」
「まぁ、ちょっとした思い付きだったんだけどね……」
あれば便利なのかな? と思ったのと、フェンリル達が協力してくれるおかげだ。
フェンリル達の協力がなければ、様々な理由で実現はもっと遠くなっていただろうからな。
ともあれ、どうなっているかという進捗を見るだけでなく、個人的な興味もあるのでそちらを目指してみるのもいいか。
「よし、レオ。その建物の方へ行ってくれるか? 今日の散歩はそこを目的地にしよう!」
「ワッフ!」
俺の言葉を聞いたレオが、走りつつ頷いて少しずつ方向転換。
車のようにハンドル操作でステアリングシャフト……だったかな? などが動いてタイヤが角度を変えたりする仕組みはないため、曲がる際にはちょっと注意が必要だ。
急角度を付けて曲がろうとすると、馬車が横転してしまうだろうからな。
新しくても従来の物でも、馬車は急にまがれない……その辺りの仕組みに詳しい人がいれば、何か作れるかもしれないけど。
俺もそうだけど、ユートさんも車関係には詳しくないからなぁ。
せいぜいが、なんとなく部品の名前を聞いた事があるかも? というくらいで、タイヤ関係だとステアリングシャフトと……あとタイロッドとかいう名前を知っているくらいだ。
伯父さんが、こういう事に詳しかったなぁ、そういえば。
今思い出しても、いる世界が違うから話す事もできないが。
「確かに、建物が立っているなぁ。他に背の高い木があるくらいだから目立つなぁ」
方向を少し変え、街道に近付くように少しだけ走ると遠目に見える建物が二つ。
ぐんぐんと近付いて行くそれは、おそらく二階建てくらいで大きさもそれなり。
片方は駅馬としての機能と、それに関わる人のため。
もう片方は立ち寄った人の休憩所兼宿屋のために……かな?
周囲には建物より少し背の高い数メートルの木があるが、それで完全に目隠しにはなっておらず、遠くからでも見つけやすい。
旅をする人にとっては目印になるかもしれないけど、それ以外にも……。
「場所が場所だけに、仕方がないでしょうね。ここに村や街をというわけでもありませんし……人だけでなく魔物にも目印として興味が引かれて、近付いてくる可能性もあるでしょう。ただ、今はいませんが後々はフェンリルがいますから」
「運搬だけでなく、警備もお任せできるってわけだ」
「はい」
フェンリルの戦闘力は言わずもがな、近付いてくる魔物に対しての察知能力も人間よりよっぽど優れているし、警備する人間を増やすより活躍してくれるだろう。
さすがにまだ警備する人間を完全にゼロにして、全てフェンリル任せというわけにはいかないが、これも駅馬の実現が早まった理由の一つだな。
「よーしレオ、あの建物に少しずつ走る速度を落としつつ近付いてくれー」
「ワフー」
返事の鳴き声と共に、速度を緩めたレオが馬車を曳いて建物へと近づく。
二、三分程度で、駅馬の建物すぐ近くまで到達……速度を緩めても、十分速いなぁ。
「クレア様、エルケリッヒ様」
「ありがとう、ライラ」
「うむ」
「俺達も降りようか、リーザ」
「うん!」
「ワフ!」
人の身長よりも少し高めの柵に囲まれた建物、その入り口と思われる門の前に停止し、ライラさんがクレアやエルケリッヒさんが下りるのを手伝う。
俺もリーザを抱えたまま、御者台から降りるが……元気よく一緒に返事をしたレオには悪いが、レオは降りるどころか何も上に乗っていないからな?
まぁ、気分的に鳴いて答えただけだろうけど――。
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