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1809/1996

お芝居の準備が整いました



「ではこれより、ヴォルターを始めとした有志によるお芝居を始めます」


 プレルスさん達の混乱や、皆への説明をしつつの夕食が終わり、準備を整えて始まるヴォルターさん達のお芝居。

 司会進行、でいいのかな? はセバスチャンさんだ。

 説明する時のように生き生きとしている。

 ちなみに、観覧を希望する人はお芝居を見るために夕食後も庭に残る事、としたら夕食を共にした全員、さらに手が空いた使用人さん達も屋敷から出て来た。


 多くの人が食事をするための、かなり大きなテーブルが手早く片付けられ、ずらりと椅子が並んで着席。

 一方を見るように並べられた椅子の向く先には、ステージなんて物はないけれど、簡単な枠のような物が地面に描かれており、見やすいように各所へ明りも設置されて簡易的なステージのできあがりだ。

 ちなみに地面に描かれた枠、というか単純な線だけなんだけど、それは演じる側のヴォルターさん達がやった事で、ステージというよりはお芝居をするうえでここから出ないように、みたいな指示のためみたいだ。

 わかってやったわけじゃなくとも、それでステージっぽくなっているから少し面白い。


 もちろん、上等なちゃんとしたステージではないけど、それでも椅子が並んでその先に演じる人達が並ぶのは、立派な一つの舞台と言えるだろう。


「楽しみだねー、ティルラお姉ちゃん!」

「そうですね、リーザちゃん!」


 並んで座っているリーザとティルラちゃんは、二人で楽しそうに開幕を待っているようだ。

 他にもその周辺には、従業員さんの子供や児童館の子供達、それに一部は村の子供達もいてひとかたまりになっている。

 さらに村にいる犬やシェリーも一緒にいて、皆楽しそうだ……村の子供達は昼に一度ヴォルターさんが一人でやったのを見た子もいるけど、もう一度見られると楽しみにしているようだ。

 俺やクレア、エッケンハルトさん達は少し離れた場所で集まり、他の場所ではそれぞれ仲がいい人などでかたまっているな。


 席は基本的に自由だから、思い思いに座ってセバスチャンさんの司会に耳を澄ませ、開幕を待っている状態だ。

 ちなみにレオは、前にいるとステージが見えなくなってしまうので、周囲を囲むフェンリル達と一緒にいる。

 あぁ、ラーレもそうだな……コッカー達はほぼ定位置になっているラーレの肩に乗って、ある意味特等席だ。

 フェヤリネッテの姿が見えないけど、小さいからなぁ……多分、フェンリルかレオと一緒にいるんだと思う。


「さてはて、どんなものを見せてもらえるのか……楽しみだ」

「私もです、お父様。タクミさんが関わっているので、少しも見逃さないようにしないと」

「いやまぁ、確かに関わってはいますけど、内容を考えたのはヴォルターさんだからね?」


 物語としては、俺が話した日本の物語……特に日本昔話や、絵本の内容に影響を受けていると感じる部分がそこかしこにあるけど、劇にまでなったらもう完全に別物だと思う。

 完全にヴォルターさんが考えてできあがったものと考えていいだろうな。


「それでは皆様、準備はよろしいでしょうか? あちらの準備は整ったようです。リーザ様、ティルラお嬢様、よろしいですかな?」


 パフォーマンスなのか、セバスチャンさんがリーザとティルラちゃんに声をかけ、確認。

 期待感を煽るような演出……というかセバスチャンさんのアドリブだろうな。

 もしかしたら司会者とか向いているのかもしれない、どういう人が向いているのかよく知らないけど。


「はい!」

「よ、よろしいです!」

「キャウ!」


 勢い良く頷くティルラちゃんに、皆の注目が集まってちょっと緊張気味に答えるリーザ。

 対照的ではあるけど、二人共お芝居を見る心構えは十分……というか暗い夜でもわかるくらい、明りに照らされて目がキラキラしている。

 何故かシェリーも一緒に返事をしていたけど、隣にぴったりくっついて同じ椅子の上に乗っている、マルチーズの子が少し驚いていた。


 相変わらず、あのマルチーズの子はシェリーが大好きなようだなぁ。

 ともあれ、そんなリーザ達を大人たちが微笑ましく見つつ、セバスチャンさんが少しだけ力を溜めるように身を縮ませ……。


「……それでは! 優しいフェンリルと国の行く末! 開幕いたします!」


 ババッと両手を上げたセバスチャンさんが、さらに大仰な身振りと共に宣言。

 パチパチパチ、と大人達から子供達に拍手が広がり、その音に応えるように明りが少なく、暗がりになっていた場所からヴォルターさん達が登場。

 何故か、チタさんとアルフェスさんがそれぞれ別のフェンリルに乗っているのは、演出上の何かだろうか?


「というか、タイトルはそうなったんだ……」


 物語のタイトルとかは、特にヴォルターさんから聞いていなかったけど……なんとなく村の広場でやっていたのを最後の方だけ聞いた感じでは、フェンリルは優しいというのを強調したかったのかなと思う。

 国の行く末にまでかかわるのは、話しを大きくしたかったのだろうか。

 ステージに出て来た皆は、フェンリル達とヴォルターさん以外皆、紙の束を持っているのはご愛敬と言ったとこかな。

 一度の打ち合せだけで、全てのセリフを覚えたりはしないだろうし、仕方がない。


 まぁ手作り感もあって、畏まった劇ではないのは親しみを持てると思う。

 そもそも、皆素人だしな。

 練習らしい練習なんかもできていないだろうし、少しくらい失敗しても、誰も文句は言わないだろう。


「昔々、ある森の中で静かに暮らすフェンリルの群れがありました。その近くでは、フェンリルを恐れながらも日々懸命に生きる者達の村があり……」


 朗々とステージ横から響く声は、ウラさんのものだった。

 物語の始まり、劇の始まりを告げる語り手であるウラさんの声は、普段の明るい声ではなくトーンを落とした静かな雰囲気で、夜である事も相俟って見る者を没入させる。

 しばらくの間、ウラさんの語りで物語が進み、何の変哲もない、ただ近くにフェンリルの群れが棲みついている森がある、という一点以外は平凡な村の暮らしがステージに立つ人たちによって演じられていく。

 ちなみに、最初に登場したチタさんとアルフェスさんを乗せていたフェンリル二体は、二人を降ろした後すぐにステージ横にはけた……顔見せ的な意味合いがあったのかもしれない――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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