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1806/1996

エッケンハルトさんがソワソワしていました



「なんというか、憧れや羨望……に近いのかもしれんな。だが、そのままというのは畏れ多いと少ないのだ。クレアは少々事情が異なり、短い名な事もあってかそのままというのもよくあるようだが。まぁ、私は特に関与しないし取り締まる気もないがな」

「まぁ、名前を自由に付けられず取り締まられるのは、息が詰まりそうではありますね」

「ですから、私と同じ名前と言う人は公爵領に結構いるんです」


 領主貴族の一族から、か……。

 そのままというのはほとんどいないようではあるけど、クレアの方はあまり珍しくないらしい。

 だとしたら、ラクトスのように大きく人の多い街で、クレアを大きな声で呼ぶと他の誰かも振り返ったりするんだろうか?

 実際にはやるのは恥ずかしいし、目立つのはレオで十分なのでやらないが。


「と、話が逸れたな。では、本人の希望通りこれまでと同じくタクミ殿、とするか」

「私からは、タクミ様とお呼びさせていただきます」

「私はタクミさんですね」

「さんはともかく、殿とか様っていうのもなんとなく慣れないですけど……大袈裟な役職名とかよりはいいですかね……」


 なにはともあれ、無事にこれまで通り名前で呼ばれる事になってホッとした。

 多分、総司令官殿! とか呼ばれても一瞬誰を呼んだのかわからなくなりそうな気がするし、名前の方が楽だよな。

 規律に厳しい場ってわけでもないんだし。


「では、そろそろ……準備ができている頃か?」


 何やら急にソワソワし始めるエッケンハルトさん。

 どうしたんだろうとちょっとだけ不思議に思ったけど、そういえばヴォルターさんの物語というかお芝居を見る、という話があったんだった。

 そちらが気になって仕方ないんだろう……屋敷に戻ってから、この執務室に集まる前にヴォルターさんには本日中に見せるようにと決まってたからなぁ。


 リーザはティルラちゃんや皆と見られると、喜んではいたけど。

 ちょっとだけ、心の準備をする間も休む暇もないヴォルターさんに同情する……半分くらい俺のせいな気がしなくもないが。

 ちなみに準備というのは、夕食の前後となっているから、ヴォルターさんの事だけでなく食事の準備も含まれていると思われる。

 夕食が始まるって事はつまり、ヴォルターさんのお芝居がもうすぐ見られるという事でもあるからな。


「娯楽に飢えていたんですね、エッケンハルトさん……」

「いや、殊更飢えているという程ではないのだがな? 最近は、タクミ殿とクレアを見ているのが楽しいからな。特にクレアが、これまでした事ないような表情だったり、幼い頃はよくしていた表情などが見られてなぁ……そうだプレルス。それから他の者達も。これからこの屋敷にいる時は、クレアとタクミ殿の動向に目を向けていると、楽しめるぞ?」

「勝手に俺達で楽しまないで下さいよ。そんな事言われても、プレルスさん達も困るでしょうし……でも確かに、コロコロと変わるクレアの表情とかは、見ていて楽しいですけど」


 最近は大っぴらにクレアとの仲を見せるのは、少し……ほんの少しだけ控えているんだけど、いつの間にか娯楽になっていたのか。

 セバスチャンさんとかエルミーネさんとか、よく楽しそうな雰囲気でこちらを見ている事があるし、娯楽とまでは言わずとも、楽しみの一つになっているんだろうなぁとは思っていたけども。

 ただまぁ、俺の言葉に一喜一憂しているなというのがよくわかるように、クレアの変わる表情は見ていて楽しく、なんとなく愛おしいという気持ちが湧くくらいだから同意だ。


「もう、お父様ったら……タクミさんまで……」


 恥ずかしそうに頬を両手で抑えながら俯くクレア。

 そうして、反応をしてくれるからついつい何か言いたくなると言うかなんというか……。


「だがまぁ、演劇というのは一度だけ見た事があると言ったが、あれは楽しい体験だったのが記憶に焼き付いている。だから、楽しみになるのも仕方ないだろう?」

「……まぁ、それはそうなんでしょうけど、あまり期待しない方がいいかもしれませんよ? 過度な期待はヴォルターさんも困るでしょうし」


 ヴォルターさんの場合は、一人芝居だったからなぁ。

 演技についてどうこう言う程詳しくはないし、むしろヴォルターさんはよくやっていたと思うくらいだ。

 だが、さすがに人前での公演に慣れている演劇を生業にしている人、つまりプロと比べるとかわいそうだ。

 お芝居だって、今日初めてやったみたいだしな。


 あまり期待しすぎると、期待外れだった時にがっかりするだろうし、何よりヴォルターさんの胃が心配になってしまう。

 ……胃薬とかも、作っておいた方がいいだろうか?


「あと、とりあえず今日の話は終わりとしても、まだ全部が済んだわけではありませんからね?」

「む……何かあったか?」

「森に行っている、調査隊やフェンリル達がまだでしょう? そろそろルグリアさんが報告に来てくれると思いますけど……夕食や演劇。というかヴォルターさんのお芝居は、それが終わってからです」


 ソワソワしているエッケンハルトさんには悪いけど、今すぐ夕食またはヴォルターさんのお芝居をというわけにはいかない。

 ルグレッタさん達、これまで森の調査をしてくれていた人達は毎日夕食前には必ず、報告に来てくれていたからな。

 俺が執務室にいない場合もあるので、その時はまた別の場所でだし、調査に何も進展がなくても律儀に報告に来てくれる。


 その報告を俺が聞いていて、最初は必要なのか疑問に思う事も多少あったけど、今は労える時間としてないがしろにはできないと思っているからな。

 プレルスさん達との話はそこまで長引かなかった……というか、エッケンハルトさんが長引かせなかった節があるけど、それとこれとはまた別だ。

 

「お父様、さすがに今現在頑張ってくれている人達を忘れるのはどうかと……」

「い、いや違うのだぞ? 忘れていたわけではないのだ。それは、私ではなくタクミ殿が報告を受けるものだからな、私がいなくてもいい事ではあるし……」


 クレアに注意されて、言い訳はしているけどタジタジになるエッケンハルトさん。

 まぁそれだけ、お芝居を見るのを楽しみだったって事なんだろうけど。

 あと、報告を受けるのは基本的に俺でエッケンハルトさんがいなくても、というのはその通りな事が多いので、忘れるのも無理はない……とも言えないかな?

 重要な報告や相談、調査の進展などは俺からエッケンハルトさん達に話せばいいんだけど、一応一緒にいるならエッケンハルトさんも報告を聞いておいた方がいいだろう――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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