クレアは気になる事があるようでした
プレルスさんの話から魔物との意思疎通と考えて、言語というか人語が使えるかどうかはまた別の話だなとも思った。
ただこれまで見たオークとは、意思疎通ができる気がしなかったしなぁ……。
従魔にできればもしかしたら何か変わるかもしれないが、そもそもオークって従魔にできるのか?
確か一応だけど、理性のような物があるかどうかも魔物によって違う、とセバスチャンさんに以前聞いたから、それがなさそうなオークとは従魔契約できないと考えて良さそうではあるけども。
ともかく、ウルフやフェンリル、そしてレオのように意思疎通できない相手であるオーク、少なくともそこらのオークとは、意思を交わす前に襲い掛かってくるようだったし、ちょっとした様子の違いがあっても確かめる方法はないに等しい。
ましてや、偶然遭遇しただけのプレルスさん達が、それを確かめるなんて考える前に、戦闘で打ち倒したんだろうしなぁ。
「周囲を気にしていた……か。気にはなるが、確かとも言えないから私もよくわからんな」
「偶然、オークが気にする何かがあったか。それとも、プレルスさんも言っているように、見た人の勘違いかのどちらか、かもしれませんね」
「うむ……」
「少し、待って下さいタクミさん、お父様」
「んむ? どうしたクレア?」
気にはなる、けどわからないし理由のない事や、勘違いかもしれない、と結論付けようとした時、考え込むようにしていたクレアが何やら顔を上げて、発言した。
これまでの話で、気になる事や気付いたことがあるのだろうか?
「プレルス、そのオーク達が周囲を気にしていた時、鼻を動かしていなかった? こう、言葉にすると難しいのだけれど、ヒクヒクさせていたとか……」
「……そこまでは、さすがにわかりません。周囲を気にしていたため、むしろこちら側としては好機として挑みかかったので」
「そう……」
まぁこちらに気が向いていない相手だから、基本的に襲い掛かって来るばかりのオークと相対した状態なら、先制攻撃を仕掛けるチャンスとも言えるか。
それでそのまま、特に怪我もなくスムーズに倒せたのなら、周囲を気にしていたオークというのは勘違いではなく本当にそうだったと言えなくもない、かな。
「鼻に何かあるの、クレア?」
「いえその……なんとなく気になっただけなのですけど。レオ様やフェンリル達、それからシェリーもヴォルグラウも、よく鼻を使うんです」
「まぁ、確かに」
匂いを嗅ぐ、というのは犬……じゃないな、狼の魔物か。
ともかく、動物にとっては大事な事であり、人間以上に嗅覚に頼るのはよく知っている。
特に狼も犬も匂いを嗅ぐという行為は、単純に好きな匂いか嫌いな臭いかを判別するだけなく、様々な情報を得るために必要な事だ。
レオで言うと、この屋敷に来たばかりの時に部屋のあちこちを嗅いでいたりとかだな。
「それで、特にレオ様がなのですけど、タクミさんがいない時に時折、地面に鼻を近づけたり、空を仰いで鼻を動かすんです」
「それがヒクヒクと?」
「はい。そう表現するのが一番わかりやすいと思うんですけど……」
まぁ鼻を動かすと、クレアの言っている通りヒクヒクさせているようにも見えるな。
高い位置や低い位置で匂いを嗅ぎ、多くの情報を得るために地面や空に鼻先を向けるのもよくある事だ。
地面の場合は、その場所に気になる匂いがあったり探る場合が多いと思うけど……空を仰ぐようにして匂いを嗅ぐときは、好きな匂いとかが漂ってきている時が多い気がするな。
「そうしてレオ様やフェンリル達などが鼻を使うと、大抵その後にタクミさんが来るんです。だから、気になる匂いというか、好きな匂いが近付いてきているのがわかってそうしているのかなって」
「そんな事をしていたんだ……って、フェンリル達も?」
レオだけならまだしも、フェンリル達もそうなのは驚きだ。
「はい。フェンリル達は、よくタクミさんの動向を気にしていますよ? 悪い意味ではなくて、近くにいる事がわかると喜んでいるようでした。尻尾を高い位置に上げて、大きく左右に振っているのを見ますから。それが、喜んでいる証なんですよね?」
「そうだけど……そうだったのか……」
尻尾を振って喜んでいる、というのは犬などでよく見られるが、その中でも特に高い位置に上げて左右に大きく振るのは、嬉しいとかの喜びもあるけど、親愛を示しているんだったか。
懐かれているという意味でもあるだろうから、嬉しくはあるかな。
フェンリル達もレオと同じくそこまで気にされているとは思っていなかったんだが。
とはいえ、尻尾の振り方で結構細かく感情が別れるから、絶対に親愛とか喜びを示しているわけじゃないかもしれないが。
機会があれば、コッソリ見て調べてみるのも面白いかも?
いや、匂いで察知されているんだから、コッソリ見ようとしても見つかってしまう可能性の方が高いか。
というか俺、変な臭いを出していたりはしないよな……? と頭の中で余計な事を考えながらちょっぴり不安になった。
「ですので、もしオークに同じような様子が見られたのなら、周囲を気にしている理由は匂いという事になるのではないか、と考えたんです」
「匂いを気にしているとなると、もしかすると今調査を進めている事に繋がる可能性がある、か……」
「そうです、お父様。オークも嗅覚は人間より優れていると思いますから……でも、それがわからないとなると、確証は得られませんね。どちらにしろ、だからそうだという確証にはならないかもしれませんが」
オークは見た目も、二足歩行の生き物に対してこう言うのもなんだが味なども、豚に酷似している。
……二足歩行という部分は違うが、それはともかく。
豚って実は結構嗅覚が鋭いらしいし、それでなくても野生の動物……いや、この場合は魔物か。
野生に生きる生物は、視覚や聴覚だけでなく、嗅覚が発達して鋭くてもおかしくはない。
だからオークもその可能性が高いし、周囲を気にしていた理由が匂いによるものだったら……カナンビスと関係がある可能性が高いとクレアは考えたんだろう。
一度でも嗅いだ事があれば、ユートさんの言う依存性だとかでそれを探すようになってもおかしくはない。
カナンビスの薬の匂いを知らなければ、周囲を気にせず真っ直ぐ兵士さん達へと突進して来ていたはずだろうしなぁ――。
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