ランジ村への移動していた時の話を聞きました
「賊の事は関係ないとして、だ……」
クレアが気にしているからか、強制的に話しを変えるエッケンハルトさん。
報告もされているし、賊自体は捕まえているわけで、もう済んだ話ではあるからこれ以上ここで話していてもなんにもならないから、というのもあるんだろう。
とりあえず、そっとクレアの肩に手を置いて元気づけるように笑いかける。
「ありがとうございます、タクミさん」
「うん。気にしないでと言うのは簡単だし、無責任かもしれないけど、これから気を付ければいいんだと思うよ」
「はい、そうですね……差し当っては、森で起こっている異変です!」
「そうそう、その意気だよ」
俺なんかが、領主貴族の娘としてクレアがどれだけ考えているかなど、少し察するくらいしかできないけど、なんとか気を持ち直してくれたようだ。
少し頬を紅潮させ、ムンと胸のあたりで両手を握って気合を入れるクレアは可愛い……と思うのは余計か。
「……そろそろいいか?」
「す、すみません……話を止めてしまって」
「申し訳ありません……」
こちらを窺いつつ少しニヤけている表情を隠そうともしないエッケンハルトさんに、恥ずかしくなりながらクレアと一緒に謝る。
元気づけるためとはいえ、ちょっと場の空気を読まなさ過ぎたな……。
「んん! 仲が良いのは私としては嬉しい限りだが、話しを続けるぞ?」
「はい……お願いします」
少し緩みかけた部屋の空気を、引き締めるように咳払いしたエッケンハルトさん。
視線を動かせば、プレルスさん達が何やら微笑ましく俺達を見てもいた……。
なんというか、エッケンハルトさんとはまた違った意味で、保護者目線に近いんだが……まぁそれだけ、クレアが親しまれているという事なんだろうと思っておく。
「ラクトス周辺で怪しい人の動きなどがないのはわかったが、魔物の方はどうだ? 特に、こちらへの移動の際に魔物と遭遇したりはしなかったか?」
「ラクトス周辺で、魔物のおかしな動きなどはこれと言って報告がありません。こちらへの移動中に、二度程魔物とは遭遇しましたが……おかしな点などは特になかったと」
ラクトス周辺で異変はなさそうだけど、移動中に魔物と二回遭遇したのか……。
それが多いのか少ないのか、経験の少ない俺にはわからない。
俺もランジ村へ行く途中に魔物と遭遇したことくらいはあるからな。
大移動というか別邸からの引っ越し中には、一度もなかったけど……それは、ラーレが森の魔物にレオの事などを伝えていたからってのもあるけど、時折フェンリル達が森の方で狩りをしていたから、そもそもに魔物が森から出て来れなかった、というのもあるだろう。
魔物除けどころか、出る事を許さないフェンリル……旅には同行者として最適かもしれないな。
なんていうのは、今考える事じゃなかった。
「魔物とは遭遇したのか。それはどのようなものだった?」
「はっ、オークやトロルドが数体でした。それぞれ別々で、魔物の数に対してこちらの数が多く、特に問題もなく討伐処理し、移動を再開させました」
「ふむ、そうか。――どう見る、タクミ殿?」
プレルスさんの報告を聞いて、俺を窺うエッケンハルトさん。
そこで俺に聞かれても……というか、情報が少なすぎてどう判断する事もできない。
オークとトロルドなんて、それこそ他の場所でも見た事があるし、何度も遭遇していると珍しいとも思えないし……。
「情報が少なすぎてなんとも……トロイトみたいに、ほぼ可能性がないだろうと言うところにいたわけではないようですし。そうですね……その魔物、オークやトロルドは、妙に興奮していた様子などはありましたか?」
もしカナンビスに関係しているのなら、トロイトのように本来いるべき場所とはかけ離れているか、カナンビスの薬による影響で、興奮状態だったりするかのどちらか、だと現時点では考えている。
オークやトロルドは、理由のあるなしに関わらず森から出る事がないとは言えないし、実際に屋敷の近くで両方の魔物を見つけた事だってあるくらいだから、いるべき場所とかけ離れているとは言えない。
だとしたら、興奮状態かどうかが関係している可能性として考えられる。
「興奮、ですか……オークやトロルドは、我々の人数も顧みず、人間など他者を見れば獲物と興奮するので……妙な、という雰囲気は特に感じませんでした」
「そうですか……絶対関係ない、とは断言できませんけど……」
「可能性は低い、のだろうな」
オークの興奮状態は何度も見た事がある。
あれは森の中で、フィリップさん達が挑発しておびき寄せたからってのはあるけど……でも遭遇した時は大体興奮していたからな。
トロルドに関しては、レオやフェンリル達などがすぐに対処して、相対した事がないため興奮状態というのがどれほどかはわからないが、プレルスさんから見てそう思うのなら、特に何も関係している可能性は低いか。
「ただ、少々気になる事はありました」
「む?」
「それは?」
少し考え込むように、その時の事を思い出している様子のプレルスさん。
「実際にオークの対処の当たった者の話なのですが、頻繁に周囲を気にしていたと。目の前に武器を構えている我々がいるのに……との事でした」
「オークが周囲を気にしていた? ふむ……」
「これまで何度もオークを見て来ましたけど、目の前の何者かに対して興奮したりする事はあっても、周囲を気にする素振りを見せた事はありませんね……」
それこそ、レオやフェンリルが威圧などをすれば別なんだろうけど……って、その場合は気にすると言うよりは、怯えてしまうか。
基本的にオークは、猪突猛進という言葉通り目の前の事に対して集中する。
悪く言えば視野が狭く、周囲の事を気にするなんて事はほぼないはずなんだが……。
「確かに気になりますが、それだけではなんとも言えませんね……」
「はい。我々の方でも、見た者の勘違いという線もあると考えています。何分、魔物の事ですので……先程タクミ様がフェンリル達と話していたのを見ましたが、そのように意思疎通をするのは稀ですし、オークと同じようにできるわけでもありませんから」
「ですよね……」
ヴォルグラウのようなウルフもそうだけど、ある程度以上の意思疎通ができるのは魔物の中でも限られていると見ていいだろうからな――。
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