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ヴォルターさんの上演が決定しました



「わ、わかりました……仕方ありません。なんにせよ、公爵様やタクミ様には一度見てもらわなければならないと思っていましたし、リーザ様を拗ねさせる……残念がらせたままではいけませんけらね。これからも子供達を相手にする者として」


 俯きながら首を振って、溜め息混じりに承諾するヴォルターさん。

 読み聞かせならぬ、お芝居は想定として子供達が相手だから、リーザやティルラちゃんも楽しませないと、という義務感に近い感覚が生まれているのかなと思う。

 あと、面白そうという事以外にも、元々公爵家の使用人で、今は屋敷住まいで俺が参考になるかわからない意見を出したりしているためか、俺やエッケンハルトさんにも見せないといけないと考えているのかもな。


「すみません、お願いします。あとありがとうございます。――ほら、リーザも」

「ありがとう、ヴォルターおじちゃん!」


 俺が促すと、満面の笑みになったリーザが元気良くお礼を言う。

 膨れていた頬は元通りになり、レオの背中に抱き着いてすっかり上機嫌になったようだ。


「リーザ、そこはお兄さんと言っておくべきだぞ?」

「そうなの? それじゃあ、ヴォルターお兄さん!」


 ちょっとだけ、お世辞というかおべっかというか……なんだか悪い事を教えてしまっている気がしないでもないな、これ。

 まぁいいか。

 年齢的には、俺の倍近くなのでリーザから見れば立派なおじさんだが、本人はちょっと嬉しそうだし。


「そ、そんなあからさまなご機嫌取りを目の前でされても、あまり嬉しくありませんよ?」

「あはは、そうですね。すみません」


 笑いをこらえつつ、表面的には苦笑しながら謝る。

 だがヴォルターさん、言葉とは裏腹に表情というか口元が結構緩んでしまっているのを、俺は見逃さない……だから笑いをこらえる必要があったんだけど。

 見た目的には、セバスチャンさんをそのまま若くしたような、ナイスミドルと言えるヴォルターさんだけど、やっぱりというかなんというか、お兄さんと呼ばれるのはそれなりに嬉しいみたいだな。


 まぁ俺も、おじさんと呼ばれるよりはお兄さんと呼ばれた方がいいから、それと同じようなものだろう。

 ……絶対的な年齢が違うのはともかくとして。


「では、私はもう少し子供達を見てから、屋敷に戻ります。何もなければそうですね……さすがに多少の心の準備は必要ですので、夕食後にでも披露させていただきますよ」

「はい、わかりました。まぁ今日はラクトスから調査隊が到着したので、そちらの話が長引けば明日以降になるかもしれませんが……エッケンハルトさん次第ってところですかね?」


 輸送隊はフェンリル達と一緒に送り出したけど、調査隊に関してはこれから活動する。

 人選はプレルスさんに任せてあるけど、一部は屋敷にて交代で寝泊まりしたりもするので、それに関しての話をする可能性もあるからな。

 まぁ大体は俺の執務室でとなるだろうけど……それによって、夕食が遅くなってしまったり、夕食中または夕食後も話しを続けているなんて事もあるかもしれないし。


 その場合は、ヴォルターさんのお芝居を見るのはまたになるだろう。

 リーザには少し我慢してもらう事になるが、俺やエッケンハルトさんに見せるという名目もあるのなら、仕方ないか。


「……私がお芝居でしたか? をやるとわかれば、早々に話を済ませて見たいと言い出しそうですね、それ」

「ははは、確かにそうかもしれませんね」


 エッケンハルトさんならやりかねない……というか、むしろそうする未来が簡単に想像できる。

 無理矢理話を切り上げる事になりそうなら、エッケンハルトさんには直前までお芝居の事を話さないでおく事も必要かもしれないな。

 と考えたところで、それは無理だろうというのが確定した。


「タクミ殿、こちらにいたのか。む、子供達やフェンリル達が集まっているが、何かしていたのか?」

「エッケンハルトさん……なんというタイミングの良さ……」

「タクミさん、どうされたのですか?」


 ちょうどよすぎて、狙っていたのではないか? と疑ってしまいそうになるタイミングで、プレルスさんを伴ってこちらへと歩いてくるエッケンハルトさん。

 クレアも一緒だし、ハンネスさんとの話を終えたんだろう。

 思わず、ここに残ると言ったヴォルターさんを見ながら少しだけ息を吐くのを、クレアが不思議そうにしていた。

 ハンネスさん宅で話していたはずだから、広場に寄らずに屋敷へと戻れるはずだけど、村の様子を見て回っているとかかもしれない。


「まぁ、もう逃れられないのを覚悟していますよ……どうせやる事は決めたんですから」

「そうですね。ほぼ今日中にやる事が決定しましたね」

「む、む? なんだなんだ、タクミ殿もヴォルターも。私がどうかしたのか?」


 溜め息混じりのヴォルターさんと俺の会話に、自分の事を言われているのを少しでも察したのか、エッケンハルトさんが訝し気になる。

 隣にいるクレアは、キョトンとしているようだけど。


「えーっとですね、先程ここでヴォルターさんが……」


 本人からよりも、俺から話した方が少しはヴォルターさんが楽かもしれない、と思いエッケンハルトさんに話を切り出して、クレアにも一緒に説明。

 さすがに、裏声で女性のセリフをとかまでは話さなかった。

 ……改善する方法がなければ、目の前でお芝居をやった時にわかってしまう事だけども。


「ほぉ! それは面白そうだな! 劇というのは、昔一度だけ見た事があるぞ。なんとも華やかで楽しかった記憶だ!」

「お芝居に劇、ですか……どういうものなのか、見てみないとよくわかりませんね……」

「ここまで両極端な反応になるのは、ある意味予想通り、なのかな?」


 説明を終えて、予想通り興奮気味に面白そうだと言うエッケンハルトさんに対し、クレアは劇やお芝居というものを見た事がないらしく、首をかしげていた。

 ある意味予想通りで、ある意味予想外というのが正しいのかもしれない。

 クレアが劇やお芝居を知らないのは、考えていなかったなぁ……。


「……あまり、期待しないで欲しいのですが」


 エッケンハルトさんの様子に、ヴォルターさんがおずおずとそう言う。

 まだ始めたばかりだし、お芝居としてやっていたわけではないので、大きな期待はむしろ不安要素なんだろうな――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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