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1798/1996

リーザも最初からお芝居を見たいようでした



 拗ねてむくれているリーザは、まるでクレアがからかわれた時みたいだ……ちょっとふっくらしたほっぺをつつきたい、という衝動に駆られるのは、今行動に移さない方がいいだろう、さらに拗ねてしまいそうだし。

 レオは自分の背中に乗っていたからだろう、リーザの様子がわからず顔をキョロキョロと動かしている。

 さすがにレオでも、自分の背中に乗っている人の表情までは見る事ができないか……体の構造的に当然と言えば当然だが。


「一体どうして拗ねているんだ、リーザ? 何かあったのか? 俺とヴォルターさんだけ話していたからとか?」

「んむー……違うの、お話がしたかったんじゃないの」

「だったら、どうしたんだい?」


 むくれているリーザに、できるだけ気分を損なわないよう優しく聞く。

 俺やヴォルターさんの会話に混ざりたかった、とかではないみたいだけど……。


「皆だけズルいの。私も、ものがたり? を聞きたかったの」

「あー、成る程……そういう事か……」


 リーザの視線は、フェンリルとじゃれ合う子供達の方へ。

 なんとなく羨ましそうな様子が見て取れる事から、ヴォルターさんのお芝居をリーザも見たかったんだろう。

 気付いて近付いた頃には、ほとんど終わり際だったからなぁ。

 フェンリル達とじゃれ合っている事は、レオと一緒にいるから多分違うだろうし……ちょっとだけ、仲間外れになったような感覚なのかもしれない。


 そう言えば、ラクトスの孤児院でヴォルターさんが本当に初めて、子供達の前で即興でお話を披露した時には、リーザも混じって夢中で聞いていたからな。

 あの時の事を思い出しているっていうのもあるかも。


「そうかぁ、リーザもヴォルターさんのお芝居を最初から最後まで聞きたかった……見たかったのかぁ」


 リーザには悪いけど、少しだけこうしてむくれているのを見て嬉しくなってしまった。

 年齢に見合わず、これまでの経験からか周囲を窺ったり、遠慮する事の多かったリーザだからな。

 我が儘という程ではないが、こうしてむくれての意思表示は今までなかった事だ。

 ある意味年相応になって来たと言えるのかもしれない……こうやって、娘を持った父親は少しずつ表情豊かに、感情表現が多くなっていくのに成長を感じるものなのかもしれない……多分だが。


 っと、喜んでいる場合じゃないな。

 ご機嫌斜めなリーザにはどうしたらいいか……そうだ。


「うんうん、そうだな。俺も最初から皆と一緒に、ヴォルターさんのお芝居を見てみたかったよ。できれば、ヴォルターさんにはもう一度最初から熱演して欲しいよなぁ……」

「うにゅ……」


 なんて、伏せをしてくれたレオの背中にいるリーザの頭に手を伸ばしてポンポンとしつつ、慰めるように言いながらヴォルターさんの方をチラチラ。

 リーザは、喋らない時はずっと頬をリスみたいに膨らませているからか、妙な声が漏れていたが。


「それはつまり、もう一度私にやれと仰っているのですよね……はぁ。ですが、さすがに今は……」


 かなり白々しい俺に、ジト目を向けながら答えるヴォルターさん。

 深いため息もついている。


「もちろん、今すぐとは言いません。ヴォルターさんだって疲れているでしょうから」


 この場で今からだと、子供達がまだいるからなぁ……さすがに、連続で同じ話をとなると子供達の集中力は続かないだろうし。


「明日や明後日など、またやる時にリーザも混ぜてくれれば……」

「うんとね、リーザね、ティルラお姉ちゃんと一緒がいい」

「ん、ティルラちゃんと?」

「うん……ティルラお姉ちゃんも、きっと楽しんでくれると思うの」

「成る程なぁ。リーザは優しい子だなぁ」


 リーザ自身が、ティルラちゃんと一緒にお芝居を見るのが楽しい、と思っているのもあるんだろうけど。

 とにかく、リーザの希望はティルラちゃんと一緒にかぁ……ティルラちゃんも子供達に混ざるのは、よくある事だし遊んでいるのを見かけるから無理じゃない。

 だったら……。


「ヴォルターさん、今日かどうかは相談次第ですけど……屋敷で皆の前で一度やってみる事はできませんか?」

「み、皆の前というと……公爵家の方々がいる前で、ですか?」


 さすがにさっきと同じ事を、エッケンハルトさん達の前でもと考えて戸惑うヴォルターさん。

 ほぼ子供達とフェンリルだけという状況だったから良かっただろうけど、それがエッケンハルトさんや大人たちの前でとなると、ものすごく恥ずかしいのかもしれない。

 というか、想像して俺が少し恥ずかしくなった……俺がやるわけじゃないんだけどな。


「いやまぁ、ヴォルターさんが何を想像しているのかわかって、俺も勧めにくいんですけど……ティルラちゃんが一緒にとなると、エッケンハルトさん達にも話さないといけないですよね? そうなると、絶対見たがると思うんですよ」

「それは……確かに。あの方達の事ですから、自分達もと……そして、最前で目を輝かせて見る光景が簡単に思い浮かびます」


 面白そうなことが大好きだからな、エッケンハルトさん。

 エルケリッヒさん達やクレアはそうではない……わけもなく、血筋だなぁと思う部分も多々あってこういう時に控えめながらも興味を示す人達だ。

 さすがに、自重してかエッケンハルトさんみたいに面白い事へ参加や行うなんて事は積極的にはしないようだけど。


「どうせそうなるのなら、最初から参加する物として、皆の前で披露するのも悪くないんじゃないかって」

「先に覚悟を決めておけ、という事ですね。成る程……」


 覚悟という程じゃないけど……いや、披露するヴォルターさんにとってはそれくらいの事なのかもしれないか。


「どうしても嫌なら、他の方法を考えますし……リーザも我慢できるとは思いますけど」

「うん……リーザ我慢する……」

「く……それは卑怯ですよ、タクミ様。リーザ様も……」


 確かにちょっとどころではなく、かなり卑怯だったかもしれない。

 俺の言葉に小さく頷きながら、潤んだ目でヴォルターさんを見るリーザに、嫌だからと断るなんてできそうにないからなぁ。

 ちょっとやり過ぎだったかな?

 ちなみにレオも、話の流れからか首を傾げつつヴォルターさんを窺うように見ている。


 だがレオ、少しずつ慣れてきているから忘れそうになるが、ヴォルターさんはレオを始めとしたフェンリルにはまだ恐怖心がある人だ。

 あまり効果はないと思うし、一番はやっぱりリーザだと思うぞ。

 援護のつもりかもしれないし、ありがたいけど……レオ自身が見たいと思っているだけかもしれないが――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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