読み聞かせから演劇になりそうでした
「ふわっ!? タ、タ、タ、タクミ様!? い、いつからそこに!?」
子供達とフェンリル達がじゃれ始めた頃、ヴォルターさんが俺達に気付き、珍しいというか今まで見た事のない反応をした。
「いつからと言われると、『何故こんな所に!?』のあたりからですかね? ただちょっと、裏声は無理があったので……誰か女性の協力者を募った方がいいかもしれませんね」
「くっ、そこを聞かれていたとは……!」
特に意地悪をするつもりはなかったんだけど、冷静に言った俺の言葉に膝を屈してしまうヴォルターさん。
結構様になっていたとはいえ、どちらかというと低めの男らしい声のヴォルターさんには、無理して裏声で女性の口調をしない方が……と思ったんだけど、余計な事だったかもしれない。
「というか、読み聞かせってこう……本の内容を読んで聞かせるだけで、身振りとかはいらないと思うんですけど。俺はそういうのを想像して話を持ち掛けたのもあります」
声の質とか読み方とか、人によって聞きやすいなどの違いはあるだろうけど、誰でもできるのが読み聞かせだ。
元々の物語……俺がイメージしていたのは絵本だけど、それがあればなので、ヴォルターさんに適当な物語を作るようお願いして、本人も乗り気だったんだけども。
内容はともかく、本を読むというより一人でやる芝居を見せている感じで……どちらかというと今回のは読み聞かせではなく、劇と言った方がいいだろう。
「どうせなら、と思いまして。自分で考えたのでほとんど覚えていますし、子供達もその方がよさそうだったので」
「まぁ、動きとかも多少ある方が、見ている方は楽しいのかもしれませんね……」
ヴォルターさんが嫌でなければ、今回と同様のやり方でいいとは思う。
けど……。
「それだとやっぱり、一人より二人……できれば数人いた方がやりやすいんじゃないですか?」
「やはりそう思いますか……私も、女性の口調と声音を真似るのは無理があり過ぎると思ったんです。でも、意外とこれが子供達に受けが良さそうなんですよ」
「そうなんですか? まぁ、普段と全く違う声で、少し奇妙に聞こえるからかもしれませんね。あ、奇妙というのは言い過ぎでした」
「い、いえ……私自身、無理をしているなぁとは感じているので……」
俺が奇妙と失言した瞬間、ヴォルターさんが目に見えて肩を落としたので、慌てて弁明する。
ただヴォルターさん自身にも自覚はあったようで、溜め息混じりだ。
「他の使用人さん……はいつも忙しそうですし、巻き込めないかもしれませんけど。そうですね、こちらに興味を持っている村の人を巻き込んでみるのも面白いかもしれません」
「村の人ですか……確かに、子供たち以外にもこちらを見ている方がいるようです。ですが、これが先程の私の女性声の真似のせいでない事を願いますが」
「そんな、自虐的にならなくても……」
遠巻きに、というか邪魔しないようにだろう。
村の人達の中で、主に年配の女性が複数人こちらを窺っている様子だ。
俺がヴォルターさんや子供達に気付いて、近くに来るよりも前からいたようだから、最初から一人芝居を見ていたんだろう。
興味深そうな様子も窺えるから、巻き込めばもしかしたら一緒にやってくれる可能性もある……巻き込む、というのは少し人聞きが悪いかもしれないが。
「ただ複数の人を巻き込むと、もう読み聞かせじゃなくて劇になるなぁ。まぁさっきのは最初から読み聞かせと言っていいのか疑問だけど……」
「劇、ですか。そういえば、演劇という物があると聞いた事がありますし、書物にもありますが……先程のようなものなのでしょうか?」
「そうとも言えますし、違うとも言えますね……」
一人芝居だって、ちゃんと準備して臨めば立派な劇と言えるだろう。
さっきのヴォルターさんが、劇と言えるかどうかはわからないが……。
ちなみに、この世界というかこの国にも一応演劇が行われたりする事はあるらしく、一部の大きな街で定期的に興行されていると後で聞いた。
公爵領ではないらしいけど。
天井のない、多目的な広場に簡易的なステージで行われるくらいで、格式高い興行とまではなっていないようだが。
「まぁその辺りは追々ですかね」
いきなり劇をやる、人を集めるとなると大変だからな……最初は参加者もボランティアになってしまいそうだし。
「劇……その形。先程の私が、タクミ様から見たら劇をしているようにも見えたのでしょう。少々調べて考えてみます」
「そうですね。でもあまり根を詰め過ぎないように気を付けて下さいね? 香りについてセバスチャンさんと調べた時みたいにはならないように」
「気を付けます」
あの時は、徹夜で調べ続けていて疲労困憊の様子だったからな。
説明好きなセバスチャンさんが、主に調べた内容を教えてくれたけど……それでも、いつものような生き生きしている雰囲気が全くなかったくらいだ。
どうしてもの場合はあったとしても、できるだけ避けて気を付けた方がいいだろう。
日本での自分の事を思い出すうえに、体に悪いからな。
「とりあえず、今回の読み聞かせ……劇とまでは言わなくても、もうお芝居と言った方が良さそうですけど。それは成功だったって事で」
俺達がこうして話している間に、もうフェンリル達とじゃれ合う方へ移行しているけど、子供達の様子を見れば楽しかったのは伝わってくるからな。
幼稚園くらいの年齢の子も混ざっている中で、ほとんど集中が途切れる事なく、ヴォルターさんのお芝居を見続けられたというのも、楽しめた証拠と言えるだろう。
「そう、ですね。色々と無理をして思い出すと恥ずかしさも込み上げて来ますが……まずまずの成果で一安心で……タクミ様、リーザ様はどうなされたのですか?」
「え?」
ホッと息を吐くヴォルターさんだけど、途中で言葉を切って俺の後ろにいるリーザ……というかレオの背中に乗っているから、ほぼレオだけど。
そちらを見て不思議そうな表情と声を出す。
どうしたんだろう、と思って振り返ってみると……。
「リーザ? むくれてどうしたんだ?」
「むぅ……」
「ワフ?」
そこには、レオの背中に抱き着きながら頬を大きく膨らませて、拗ねている様子のリーザがいた――。
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