フェンリル輸送について話を持ちかけました
「というか獣って、火を嫌がったり怖がったりすると思っていたんだけど……まぁフェンリルがそれに当てはまらないだけか」
とりあえず、焚き火の傍でのんびりとくつろいでいるフェンリル達を見て呟いた。
魔物だしな……この世界と地球では野生の本能とかも、違いはあるのかもしれない。
というかそういえば、実際には火に興味を持って近付いてくるなんて話も聞いた事があるし、必ずしも火を怖がるってわけでもないのかもな。
「すみません、プレルスさん。フェンリル達はとりあえずあのままで。案内を続けてもらえますか?」
「了解しました。こちらです」
邪魔にならないのならと、プレルスさんに言ってここまでフェンリル達を連れて来た本来の目的に立ち戻る。
物資を運んできた人達が、ラクトスへ向かう前に話しておきたかったからな。
早い話が、テント群の近くに整列せている各種の馬車を、フェンリル達に曳かせてみませんか? という話だ。
馬車が壊れない速度で、フェンリルと兵士さんが了承するなら試験的にという意味も込めて、エッケンハルトさんとクレアからは許可をもらっている。
まぁフェンリル達の方は特に問題なく気軽に了承してくれたけど、兵士さん達がフェンリルを恐れないか、という部分で了承が得られるかどうかだろうなぁ。
「お呼びとの事で! どうされましたか、プレルス隊長! それから、タクミ様方も……?」
輸送する人達を指揮する人なんだろう、プレルスさんが呼んだその人は俺達の前に駆けて来て、ピシッと敬礼した。
俺やレオ達が一緒にいる事に、少し驚きというか戸惑っている様子でもある。
後ろにフェンリル達が数体控えているせいもあるかもしれないけど、そんなに驚く事じゃありませんからねー。
ランジ村の周辺では現在、こういう事はある事ですからー。
なんて、心の中で呟くだけだから、結局本人には届いていないだろうけど……気軽に言える状況というか雰囲気でもないからな。
「タクミ様の方から、物資輸送に関してお話があるそうだ。輸送の管理は隊長のお前だからな」
「タクミ様から、ですか……?」
プレルスさんの言葉で、さらに戸惑う輸送隊長さん……でいいのかな?
とりあえず、フェンリルを輸送に使う事に関して話すため、一歩前に出た。
「えっとですね、物資輸送はラクトスとこことの往復になりますよね?」
「はい。ラクトスの方で物資を集め、それをこちらに届けるのが我々の役目になります」
「往復で、大体どのくらいかかりますか?」
「そうですね……馬を休ませる必要もあるため、大体七日から八日でしょうか。もちろんラクトスでは、替えの馬を用意しておりまして、到着次第物資の積み込みと馬の替えを行うように予定しています」
「七日から八日ですか……」
俺が考えていたよりも、少し日数がかかるようだ。
ランジ村では村の人が使うために馬もいるにはいるけど、大人数の物資を輸送するための馬というのはいないし、数も少ないからな。
「ラクトスへ向けて出発した際には、荷物などが少なくはなりますが馬の疲れもありますから。多少なりと魔物と遭遇する可能性も考えるとそれくらいでしょうね」
「成る程……」
馬が替えられない以上、馬車の中身が軽くなっても馬その物に疲れがあるから、速度は出せないって事だろう。
ずっと走っていられるわけじゃないから、それも当然か。
「街道整備の方もかなり進んでいますし、見回りの兵士も増員されていますから、魔物と遭遇する可能性はかなり低くはありますけど」
それでも、絶対遭遇しないわけじゃないか。
街道は森に沿って作られているわけじゃないけど、草原とか平原にもいる魔物って言うのもいるわけだから仕方ないだろう。
ブレイユ村で、デリアさんがお掃除していたサーペントとかな。
あと、街道ではなかったけどトロイトのように、何かしらの理由で森から離れた場所に行く魔物だっているかもしれないし。
「あくまで一案なんですけど……フェンリルを使ってみませんか?」
「フェンリルを、ですか? ですが、使うとはいったいどういう……?」
チラッと後ろのフェンリル達に視線をやりながらそう言うと、輸送隊長さんはむしろ焚き火の傍でくつろいでいるフェンリル達の方を見た。
どちらかというと、そちらの方が気になるのも当然か。
「ほぼそのままの意味です。今回は馬に馬車を曳かせているので、馬も一緒となりますけど……フェンリル達であれば、馬よりも早く、さらに休みも少なく済みます。もちろん、物資を運ぶ皆さんも休憩は必要ですので、全く休まないというわけにはいかないでしょうけど」
長距離を走っても疲れ知らずとはいえ、フェンリル達も生き物ではあるから当然休みは必要だし、食事も必要だけどな。
「フェンリルに馬車を……」
「駅馬の話があっただろう? それの延長みたいなものだ。まずは今回の輸送で試してみようという試みらしい。公爵閣下の許可なども出ている。後は、お前たちがどう判断するかだ」
「我々が、ですか」
もちろんながら、エッケンハルトさんがこうしろと言えば公爵領の兵士でもある輸送隊の人達、さらにプレルスさん旗下の人達も同様に、従わなければならないだろう。
けどエッケンハルトさん達は、必要であればそうするんだろうけど、今回は事情が事情で絶対ではないため、命令というよりは許可を出して後は兵士さん達の判断に任せるとの事だからな。
ちょっと輸送隊長さん、プレルスさんもだけど戸惑いはあるみたいだけど……こういう時、絶対的な命令が下されるのと、自由に判断を任せられるのではどちらがいいのかは、俺にはわからないが。
「ちょっと怖いかもしれませんけど、フェンリル達は絶対に何もないのに人を襲ったりはしません。それに、接してみると可愛いものですよ? まぁよく食べますけど……」
そう言って苦笑して見せる。
後ろから、フェンリル達から抗議するような鳴き声が上がったが、それはスルーさせてもらおう。
レオも静かにな。
飼葉で済む馬と違って、野菜や肉など調理された物を好むフェンリル達はよく食べるからなぁ。
食費という意味では、馬よりお金がかかると言えるだろう……その分、馬よりも速く走れてスタミナも多くあり、魔物も蹴散らしてくれて頼りになる存在だけど。
それに、パプティストさんもそうだったけど一部の人にとっては癒しになる可能性も……。
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