お互いの紹介を済ませました
「であれば、直接調査に加わるのは二百名ちょうどか」
「はっ!」
「先に森の調査をしている者もおり、フェンリルにも協力してもらっている。詳細や合流は後で行う」
「了解しました!」
「では……そうだな、顔を上げろ。せっかくここに来てもらっているのだから、紹介をしておこう」
「はっ!」
そう言って、数人……四人の兵士さんがそれぞれ顔を上げるのを見届けた後、エッケンハルトさんが俺へと体を向ける。
「知っている者もいると思うが、こちらがタクミ殿だ。今回の調査、その総指揮を執る。私やクレアもタクミ殿の指揮下にある、と考えるのだ」
「えーと、よろしくお願いします」
「はっ……は……?」
「なんだ、何か言いたそうだが……申してみよ」
「いえ、タクミ様の事はラクトスでも見かけた事があり、レオ様の事も存じております。ですが、調査の指揮は公爵閣下ではないのですか?」
まぁ兵士さんの疑問ももっともだろう。
ラクトス方面はクレアが担当とはいえ、公爵家の命で招集されたのだからその指揮をするのは、エッケンハルトさんであるべきだと俺も思うし。
エッケンハルトさんじゃなくても、クレアとか……公爵家の人がやるのが当然だろう。
というかこの兵士さんだけでなく、こちらに来た兵士さん四人は、俺やレオの事も見知っているようだな。
となれば、ラクトスの街で衛兵とかをしていた人だろうか?
人の顔と名前を覚えるのは得意な方じゃないが、見覚えがないと思うので多分直接話した事はないと思うけど。
「あくまでタクミ殿は、総指揮という立場だ。お前達の直接的な指揮は私やクレアが執る。まぁ、その辺りの話も後で伝えよう」
「はっ!」
疑問を呈した兵士さんの方は、特に俺が総指揮というのに何か思うところがあったわけではなく、単純に不思議に思っただけなんだろう。
エッケンハルトさんの言葉にすぐに頷いた。
……もう少し、俺が総指揮というのを疑ってくれてもいいんだけどなぁ。
俺自身、不相応な立場だと思っているし……こんな大勢の兵士さん達の指揮なんて、できる気がしないのに。
「既に進めている調査は、タクミ殿を中心として行われている。レオ様にもそうだが、タクミ殿にも失礼のないようにな」
「はっ! 承知いたしました!」
総指揮だからって事なんだろうが、俺にはあまり気を遣わなくていいんだけどなぁ。
まぁ皆の手前エッケンハルトさんとしてはそう言うしかないか。
なんて考えていると、エッケンハルトさんから視線で促されたので、一度クレアやレオを見てから兵士さんに向き直った。
「えっと、ご紹介に与りました、タクミです。エッケンハルトさん……じゃない、公爵様から」
「タクミ殿、いつもと同じで構わんぞ。一応それらしく振舞っていたが、タクミ殿は気にしなくてもいい」
「あ、はい。それじゃあ……エッケンハルトさんからも伝えられたように、一応総指揮という形で調査隊を預かっています。未熟で至らない部分もあるとは思いますが、よろしくお願いします」
気にしなくてもいい、とエッケンハルトさんから言われたけど、なんとなく堅苦しい挨拶になってしまった。
向こうは俺の事を知っているようだけど、ほぼ初対面なのでこんなものだろうとは思う。
ちょっとだけ、日本の事を思い出したけどまぁ気にしないでおこう。
「はっ! 私は今回、ラクトス周辺より集められた者達を任せられている筆頭百人隊長のプレルスと申します」
そう言って、プレルスさんは一緒に来た他の三名も紹介。
百人隊長というのは、言葉通り百人の部隊を任された隊長さんなんだろうけど、筆頭が付いているのはプレルスさんがその隊長さん達も含めてのまとめ役って事だろう。
ラクトスからランジ村に来た兵士さん達のトップってところか。
百人隊長……あまり聞きなれない言葉だけど、まぁ小隊よりも人数が多く、中隊ほどの規模ではないって考えておけばいいかな。
ちなみに、百人隊長が四人いるからには四百人いないといけないんだけど、今回は調査のためであったり通常とは少し違う招集となったから、一部隊の人数は少なくなって合計で二百三十人という事らしい。
とりあえず、ラクトスの隊長さん達、プレルスさんは筆頭隊長さんと覚えておけばいいだろうか。
「平時はラクトスにて衛兵を指揮しておりますが、今回の招集にあたって筆頭百人隊長として任ぜられました。タクミ様には、レオ様と共にラクトスで部下にお力添えいただけた事、感謝しております」
「お力添え? えーっと……」
「タクミさん、おそらくディームやデウルゴの事だと思います」
衛兵さんへの力添えなんてやったっけ? と首を傾げていると、クレアがコッソリ耳打ちしてくれた。
そうか、ディームやデウルゴを相手にした時は、衛兵さんとも色々話したりもしたなぁ。
なんとなく、馴染みと言えるかは微妙だけど、何度も顔を合わせて話をした事のある衛兵さんの顔が思い浮かんだ……確かあの人も、まとめ役というか隊長格みたいな感じだったか……。
というかむしろ、力添えをしてもらって助けられたのはプレルスさん達の方ではなく、俺の方だとは思うけどな。
「こちらこそ、ラクトスでは色々とお世話になっています」
とりあえず、無難にそう返しておく。
ここでこちらの方がとか問答をする意味はあまりないからな。
ともあれプレルスさん、お世話になった衛兵さんが部下というからには、ラクトスの衛兵さんの中では上の方の人なんだろう。
役職が上の人が、まとめ役として筆頭百人隊長に任命されたって事か……もしくは、元々百人隊長とかをやっていて、今回もそのままって事かもしれないが、まぁどちらでもいいかな。
「それじゃあ、次はレオ達の紹介を……」
「ワフ!」
「グルゥ」
「はーい」
簡単な自己紹介と挨拶を終えて、遠くにいた馬車などがさらに近付くのを見つつ、今度はレオ達の紹介。
プレルスさん達はレオの事を何度も見知っていたからか、エッケンハルトさんを相手にする時と同じように畏まってはいたけど、特に大きく反応はしなかった。
怖がられなくてよかったなぁレオ。
リーザもそれはほぼ同じ……というか、獣人に対する偏見などはなく、単純に俺が面倒を見ている女の子という認識だろうか――。
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