カレスさんが大きく興味を惹かれたようでした
遅くなってしまった夕食の料理は、少し冷めてしまっている物も多く、作ってくれた料理人さんにも少し申し訳ない事をしたなぁ……いつも、できあがりの温かいうちに食べられるよう、用意してくれているのに。
心の中で感謝と謝罪をしつつ、冷めかけでも美味しい料理をご飯と一緒に頬張っていく。
もちろんレオや、椿油の匂いを楽しんでいたフェンリル達、それからリーザにも、待っていてくれたご褒美にお肉系の料理を追加で増やしてもらったりもした。
食べ過ぎない程度に、だけど。
そうこうしているうちに、椿油を使うために食卓に着いていなかった女性達が、一斉に戻って来た。
「クレアお嬢様、どうでしょうか? 見違えるようになったと自負してしまいそうになるのですが」
「えぇ。エルミーネも、そして他の皆もちゃんと綺麗になっているわよ」
「これらを見ると、さらに椿油の効果の素晴らしさがわかるわね……」
皆椿油を髪に馴染ませ、手や肌に使ったようで明りに照らされて輝いているようにも見える。
実際クレアも含め、明るい髪色をした人達は輝いていると言っても過言ではないか。
自慢するように髪を見せるエルミーネさんに、食事を終わらせたクレアやマリエッタさんが、感心しながらその髪に触れている。
ちなみにフェンリル達は、食べている途中だったんだけど多少お腹が満たされた事で、食事よりも椿の匂いの方が優先度が高くなったらしく、戻って来た女性達の近くをウロウロしている。
チタさんなど、お世話係なのもあってフェンリルと特に親しい女性は、髪の匂いを嗅がせたりして、それはそれで楽しそうにしているな。
逆に男性達は、俺も含めて楽しそうにする女性達を見ながら、静かに食事を進めていたりする。
やっぱり、興味というか普段馴染みがない化粧品だとかの事になると、肩身が狭いというかおとなしくなってしまうものなのかもしれない、一部を除いて。
フィリップさんとかは、戻って来た女性達を褒めたり髪に触れたりと、相変わらず軽薄そうに見える行動をしていたりする。
……フィリップさんが参考にした、女性への声かけの本だったっけ? あれは適当に書かれた物で正しくない……とユートさんに聞いてわかったはずなのに、すぐに変わるわけではないみたいだな。
まぁ屋敷にいる人達は、そんなフィリップさんの事を知って慣れているから、適当にあしらったり、とりあえず話を合わせたりするくらいで、困っている人はいないようだけど。
そんな中、俺達のように黙々と食事をするわけでもなく、フィリップさんのように女性へ軽薄な言葉をかけるのでもないが、あちらこちらと話しかけては感想をなどを聞いている男性がいた。
「タ、タクミ様……!」
「ど、どうしたんですか、カレスさん?」
俺へと突撃するような勢いのカレスさんが、その男性だ。
カレスさんは興奮した様子、というより目を夜でもわかるくらいキラキラさせていて、ちょっと珍しい感じに見える。
「先程の話や、クレア様方のご様子を見ていて、確かに椿油は素晴らしい物なのだろう、と思っていましたが……」
「は、はい……」
「これだけの女性の髪を輝かせ、しかも髪だけでなく手などの肌にも使えると言うではありませんか!」
「そ、そうですね……」
カレスさんの勢いに、食事を進める手を止めて戸惑いながらも頷く。
そういえば、カレスさんには椿油の事を詳しく話していなかったなぁ、なんて頭の片隅で考えながら。
「これは間違いなく売れますよ! 街の女性は髪油をよくお求めになります。ですがそれだけではなく、手荒れなどにも効くとなると……」
熱弁するカレスさんが言うには、水仕事……家事などの事だけど、それらをする人に確実な需要が見込めるだろうとの事。
ちなみにその家事をする人に関しては、女性だけでなく男性も含まれる。
専業主婦とか主夫というのが、基本的に少ないらしく、大体の家事は一家の持ち回りだったりするらしい。
水仕事での手荒れなどは、男女関係なく起こる事だろうし、化粧品というのはこの際関係ないんだろう。
「さっき、作る数をどうするかって言う話をしていたんだけどなぁ……」
「でも多分、『国境を持たない美の探究者』も、これと似たような感じだったんだと想像がつくでしょ?」
「まぁ、ね……」
どれだけ売れるか、どれだけ求められるかを熱弁するカレスさんに苦笑しつつ、ユートさんからの言葉に納得する。
カレスさんはどちらかというと商人という立場で、売れる事間違いなしな椿油の効果を見て興奮しているんだろうし、考える方向性は違うかもしれないけど。
でも『国境を持たない美の探究者』からも、こんな感じで来られたら困っていただろうなぁ。
うん、ユートさんにできる限りの丸投げをして正解だった……。
「タクミ様、椿油を販売する予定はございますでしょうか!? もし販売をするのであれば、是非私にお任せいただきたく……!」
「えーと、最初は販売するまでは考えていなかったんですけど、効果も見込めてここまで皆が求めるのであればと少し考えています」
「おぉ、おぉ……!」
ますます圧が強くなるカレスさん。
絶対に売れる! という確信から商人の血が騒ぐのかもしれない。
俺も話しを聞いたり皆の反応を見たりしていて、そうなるだろうとは思うけど……。
「ですけど、先程も話していたように数がすぐに用意できません。まだどこで作るかもこれからの話ですし、今すぐに販売開始というわけにも……」
「そんな……」
俺の言葉に、がっくりと肩を落として意気消沈するカレスさん。
仕方ない事なんだけど、なんだか悪い事をしている気分になるなぁ。
「それに、今皆が使っているのはあくまで試作品ですし、ちゃんとした販売できる物ができあがるかどうかもまだわかっていませんから」
まぁ、『国境を持たない美の探究者』の意気込みを考えれば、製造を任せたらすぐにでも製品として完成させてくれるとは思うけど。
試作品でも、ちゃんと効果が見込めてほぼ製品と言える物だし、そのままで売れるだろうし。
「これから次第ですけど、もし販売できるのならカレスさんにお任せします。お世話になっていますしね」
とりあえず、売る場合にはまずは既に薬草販売してくれていて、信頼できるカレスさんに任せる事を約束した――。
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