できるだけユートさんに丸投げする事になりました
「つまり、お互いに妥協点を探るって事だよね?」
「そう。向こうが求める椿の原料を用意する事は難しい。逆にこちらも、椿油を大量に作るのは難しい。だったら、どちらとも妥協して擦り合わせをしないといけないと思うんだ」
仕事でも、取引先とお互いがお互いの理想通りになるなんて事はないからな。
その辺りは話し合いなどで擦り合わせをして、妥協点を探り合って契約して行かないといけない。
まぁ、それで話し合いが上手く進む事自体は、そんなに多くないんだけども。
「僕を窓口にするっていうのは?」
「それはだって、ユートさんしか直接連絡を取れないし……俺が連絡を取り合うのは、なんだか不味い気もするし……」
連絡先を知らないというのはまぁ、ユートさんに聞いて手紙なりを送ればいいんだろうけど。
ただ、エッケンハルトさん達の反応を見るに、あまり直接関わってはいけないような気がするから、ユートさんに丸投げというのもあったりする。
あと一応、椿がどこでどうやって作られたのかというか、群生地などに関しては詳しく伝えていないようだから、俺よりもユートさんに任せてしまった方がいいだろうというのもある。
俺が直接関わると、それだけで椿と関係していると知られるだろうし、ランジ村からというのもわかってしまうだろうから……そこまで、厳密に詳細を知らせない意味があるかどうかは別として。
「あと、そうすればエッケンハルトさん達も直接関わりを持たなくていいだろうし……なにより、ユートさんは早く情報や物の行き来をさせられるようだから」
椿油は、もっと先の事だと考えていたからなぁ。
それこそ、通常であれば今頃ユートさんのお願いが届き始めているくらいだろうし。
ただそのやり取りの方法とかは、もしかしたら聞けば教えてくれるかもしれないが、積極的に話さないという事は知らなくてもいいし、言っちゃいけない部外秘みたいなものの可能性もあるからな。
できる人がやる、でいいと思うんだ。
「まぁ、他の方々と同じように、できる事ならば関わらない方がいいと私も考えているがな」
「……僕も、あんまり関わり合いになりたいと思う相手じゃないんだけどね。ってまぁ、僕がお願いしていてなんだけど。タクミ君からは報酬をもらう事になったし、形だけじゃなくてちゃんと仕事をしているという意味でも仕方ないかな」
そうして、『国境を持たない美の探究者』という集まり……じゃなくて組織なのかな? そことの連絡は引き続きユートさんに全て任せる事になった。
こちらでも相談は必要だろうけど、ユートさんが俺達の不利になるような事はしないというくらいには、一応信頼しているので大丈夫だろう。
俺が頼んだことが発端だけど、妥協点を探ってお互いが納得する形で決着が付けばいいなぁ。
「あ、でも……」
「ん?」
話は終わり、と思っていたら何かを思い出したというか、思いついたかな? そんな感じでユートさんが呟いた。
「もしかしたら、向こうの誰かとはタクミ君が会う必要くらいはあるかもしれない。それだけ、僕が窓口で納得させるのは難しいかもって事なんだけど」
「……結局、直接関わらないといけない可能性はゼロじゃないって事かぁ。まぁでも、それくらいはやらないといけないかな?」
「そうだね。もちろん、その場合にはタクミ君の事なども含めて、口止めは僕の方でやっておくよ」
「あまり過激な事はして欲しくないけど、まぁあんまり広まっても困る事の方が増えるだろうから、そこはよろしくお願い」
俺の『雑草栽培』が広まったら、色々と問題がおきそうだから知る人はできるだけ限定的にしたい。
もちろん必要で、信頼できる人には話すけど……さっきの意気込みを聞いていたら、『国境を持たない美の探究者』の人達は、美のためなら過激な事もいとわないというイメージがあるので、ユートさんの保証は心強い。
あくまで、皆の反応や話を聞いてのイメージだけども。
「ねぇねぇ、パパ」
「うん? どうしたんだリーザ?」
とりあえず話がまとまった、と安心して俺だけでなくエッケンハルトさん達も大きく息を吐いていると、俺の服の袖を引っ張るリーザ。
「ママがね、お腹空いたからいい加減食べようって」
「ワッフ」
「あぁ、ごめんごめん、そうだったな。我慢して待っててくれたんだな、よしよし……」
「ワフワウ! ハッハッハッハ!」
リーザに言われて目を向けてみると、レオが少し拗ねたような雰囲気を出しながら、テーブルに並んだ料理をチラチラと見ていた。
話に夢中で、そういえば夕食を食べる前だったのを思い出し、隣にいるレオに謝りながら撫でると、そうだ! というように鳴いた後、パンティング。
いつもなら気持ち良さそうにするのに、今は食べる方が重要らしい。
涎が垂れかけているようだけど……それだけお腹が空いているって事だろう。
嗅覚が俺達より鋭く、美味しい匂いがする中で真面目な話をしていた俺達を待っていてくれたんだろうな。
以前覚えさせた、待ての効果もあったのかもしれないが……ともあれ、本当ならもう食べ始めていてもおかしくない頃だし、我慢していてくれた事は褒めないとな。
「あまり食べ過ぎも良くないけど、今日は少し多めに用意してもらおうな、レオ」
「ワフ!? ワウーワフー!」
「ふふふ、レオ様がお腹を空かしていらっしゃいますし、食べましょうか」
「そうだな。レオ様をこれ以上待たせるわけにもいかんからな。では……」
ご褒美として、量を少し多くすると聞いて嬉しそうに尻尾をブンブンと振るレオ。
それを見て微笑みながら、皆で食べ始めるように促すクレアとエッケンハルトさん。
食卓に着いている他の人達も、俺達の話が終わるのを待ってくれていたんだろう……なが話をしてしまって、申し訳ない。
そう思いつつ、並んでいる料理を前に手を合わせた。
「はい。頂きます」
「僕も……頂きますっと……タクミ君がやっているのを見て、ちょっと懐かしく感じたよ」
日本人のマナーの一つではあるけど、習慣にある人とない人もいるからな。
ユートさんの場合は、元々手を合わせる習慣がなかったのか、それともこちらの世界で長く生きてきて忘れていたのかはわからないが。
ともかく、俺に合わせて他にクレア達も手を合わせてから、料理に手を付け始めた――。
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