お金の話は気になる性分でした
「あはは、大丈夫大丈夫。そういうのは僕がやっておくからさ。ハルト達は気にしないでいいよ」
「気にしないでと言われても、気になって仕方がない相手なのですよ。はぁ……」
再び深いため息を吐くマリエッタさん。
触れる事はできないとしても、向こうがどう考えるかなど、悩みの種が振り撒かれている状態なんだろう。
とはいえ俺にできる事はないし、とりあえず穏便に済ませられるようユートさんに改めて頼むくらいしかないか。
俺が発端とも言えるけど、俺も同じく何もできないしなぁ……まさか、直接挨拶しに行くわけにもいかない。
「とりあえず断る方でお願いしたいんだけど、先方が怒ったり、印象が悪くならないようできるだけ穏便にお願いできない、かな?」
「まぁそれは大丈夫だよ、気にしなくても。似たような事はこれまでにもあったし、口外しないようにという口止め料も含めて、送っているからね。僕でもさすがに、無償で無責任にただお願い、なんてするつもりはないし」
「それは、良かったというべきなのかな。えーっと、どれくらいのお金を? 金額次第だけど、できるなら俺も払うから。ユートさんに頼んだのは俺なんだし」
タダでやってもらっている、とまでは思っていなかったけど、口外しないようにというのもあるのなら、結構な金額が発生していそうだ。
頼んだのは俺なんだから、そこまでユートさん任せというのもいけないだろう。
薬草畑の利益などはまだなので、今散財するのは厳しいかもしれないけど……これまでで使い道がなかったお金が溜まっているから、いくらかなら払えるはずだ。
今あるお金で足りるならいいけど……。
「タクミ君、僕はこう見えても実は結構財産を持っているんだよ? 使い道もないうえに、放っておいても増えるもんだから……むしろ少しでも使う機会があって良かったと思うくらいだよ。それでも目減りしないくらいだし、ここは任せて」
「でも、さすがにそこまで全て任せっきりっていうのは、ちょっと気後れするというか……」
「相変わらず、タクミ殿は律儀だな。私やクレアなど、公爵家を相手でもそうだった」
「ラクトスでの買い物や、ランジ村のワインでもそうでしたな」
「そうね、セバスチャン。こちらに任せて下さらないんですもの……」
渋る俺に、エッケンハルトさんやセバスチャンさん、クレアまでが顔を見合わせて苦笑している。
そういうつもりはなかったけど、さっきまでエッケンハルトさん達に圧し掛かっていた重い空気のようなものは、少しだけ払拭されたようだ。
「いやぁ、なんとなくこういうのってちゃんとしないと落ち着かないというか……」
金の切れ目が縁の切れ目、というわけじゃないし自分でも細かいとは思うけど、なんとなくお金に関してはきっちりしておきたいというのがある。
小さい頃から、伯父さん達にそう教育されたからかもしれない。
いや、生来の性分なのかもな……引き取ってくれた伯父さんの家を出て、一人暮らしをしてからも仕送りには頼らず溜めておいて、いつか返そうと思っていたくらいだし。
「うーん、じゃあこういうのはどうかな? この件は僕が責任を持って最後まで受け持つ。その代わりの報酬として、少しだけお金をもらうって事で」
「それは別の話になるんじゃ……」
「いいんだよそれで。だって、個人で払える金額でもないしね。まぁ、お願いしたところはお金が入る、僕はお金が使えるし、お金が払いたいタクミ君は僕に仕事を依頼する形で、僕も報酬を受け取るという意味が出て来る。ほら、誰も悲しまない」
「元々悲しむ人はいないと思うけど……うーん、それでいいなら。わかった」
これ以上俺が頑固にお金を払うと言っても、平行線というか話が進まないので、ユートさんの提案に乗るのが良さそうだと思い、頷く。
とりあえず、穏便に済ませるというか直接関わったら厄介な問題になってしまう可能性のある、エッケンハルトさん達とは違い、ユートさんが責任を持ってくれるのなら安心だし、頼んだ事でもあるからな。
少しだけ納得いかない部分もあるけど、そこは仕方ないと思っておこう。
「うん、それじゃあそういう事で。話を戻すけど……『国境を持たない美の探究者』だね」
「製造方法を買うのが一番、波風立たないかな?」
「だと思う。だから僕も最初にそう提案したんだけどね。向こうが満足するほどの原料――椿を用意できない以上、こちらが製造方法を買い取って作った方が手っ取り早いと思うよ」
「うーん、でもそうなるとこちらで作るための人手もいるからなぁ」
いやまぁ、雇おうと思えば雇えるとは思うけど、今は薬草畑で手一杯だし……。
「椿を作る事自体は問題ないけど、さすがに椿油を一定以上作るのは手が回らないかもしれない。薬草畑が始まって、落ち着いてからならやれるかもしれないけど」
「そうだよねぇ、こっちはこっちですぐにできるわけじゃないよねぇ。少なくとも、こちらで製造方法を買い取った場合は、広めるとか大量に販売するのは別として、一定数出荷できる用意をする必要があるし」
「……『国境を持たない美の探究者』に?」
「うん。口外しない事が前提のお願いだったとしても、向こうは知っちゃったからね。椿油という物を。僕は詳しくないし、効果が本当に凄いのか実感とかはないけど……さっきのマリエッタちゃんや、他の人の様子。さらに、向こうから試作品が届いた時の手紙――あ、さっき伝えた言葉ね。それを考えるに、ただ製造方法を買い取って終わりじゃなくて、椿油をどうしても欲しがるだろうから」
「それは、結局かなりの数を作らなきゃいけないって事になるなぁ……」
その『国境を持たない美の探究者』に所属している人数や、今回の椿油を試作するのにどれだけの人が関わったかなどまではわからないけど……話を聞いている限り相当数がいるのは想像に難くない。
数人、数十人くらいじゃ、国境も関係なく色々とできないだろうし、そもそも戦争を止めたなんて噂が出る程の規模にもならないだろうから。
「相当数を作る用意がこちらにない、けど向こうの人達が使う分は用意しなきゃいけない……となると、交渉次第かなぁ? というか、事情を話してある程度納得してもらうしかないと思うんだけど」
すぐに解決する方法がない以上、妥協点を探るためにも話し合いは必要かもしれない。
なんとなく、刺激したり直接関わってはいけないような気がしないでもないけど、こうなったら仕方ないと思う部分もある。
まぁ任せる事にした以上、窓口はユートさんになるだろうし、俺は気楽な立場で……いられないだろうなぁ……と、提案しながらコッソリ溜め息を吐いた――。
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