ラクトス方面に怪しい動きはなさそうでした
「では、特にラクトスでは変わった事はないと?」
「はい。先程タクミ様にも話した通り、街全体が活気付いているというのはありますが……それくらいかと」
「ふむ……その辺りの情報は入っているが、人の出入りが激しくなった代わりに、小さな情報でも拾いにくくなっているのかもしれんな」
「それはあるかもしれません。さすがに、以前からも街全体の情報……と言うより噂話ですな。それらを得られているわけではありませんでしたが、最近ではさらに数が増えているようですし、私が至らないのもあるのか、取りこぼす情報が増えております」
「いや、カレスはよくやっている。気にするな」
カナンビスの話の後、ラクトスでの情報をカレスさんにも聞いたエッケンハルトさんだったけど、目ぼしい情報は特にないようだった。
まぁ一商人という視点や、街に溶け込んで噂話などを収集するにはいいかもしれないけど、さすがに全ては無理だしな。
本人も言っているように、人の出入りが増えれば取りこぼす情報だって増えるはず。
カレスさん自身が至らないとか、そういう部分は考えなくてもだ。
「だとしたら、他の方面なのかもしれんな……ラクトスは、人の出入りが激しいためそういった類の者も出入りする。微かな情報でもあるかと期待したが……」
「一番近い街は確かにラクトスですし、森で何かを企んでいる者も行動はしやすいのでしょうけど、必ずしもラクトスでなければならない、というわけでもないですからね」
「クレアの言う通りだな」
口に手を当てて考えるエッケンハルトさんに、クレアが答えてエルケリッヒさんやマリエッタさんが頷く。
こういう話になると、俺は結構蚊帳の外というか……俺だけじゃなくてニックもなんだけど。
何か情報のとっかかりとか、考える何かがあれば別だけど今は公爵領内から情報を集める段階の話だから、加わる必要もないか。
もちろん、話に参加しなくともちゃんと聞いて、俺なりに考えたりはするけど……特にこれと言った事が言えるわけでもないからな。
とりあえず、しばらくライラさんにお茶のおかわりを頼んで、静かに聞いておく事にした。
ただ、積極的に話に加わっていないのに、クレアとエッケンハルトさんに挟まれている状況は変わらないのがなんとも……。
嫌とかじゃないんだけど、ちょっと話しにくくないかな? と思っただけで。
そうしてしばらく、情報を集める方面をラクトスとは別の場所を重点的にしてみてもいいかも、などの話になり、カレスさんは引き続きラクトスに戻ったら、これまでと変わらない程度の噂話などを集めるよう言われていた。
あとは、ニックにも一応スラムが今どうなっているかという話などもしたな。
そちらは、主にマリエッタさんが前面に出て話を聞いていたけど……昔取った杵柄というか、スラムになっている場所を減らす活動をしていたから、ついつい前に出てしまったのかもしれない。
「アニキのおかげで、以前よりスラムにいる奴らはおとなしくなりました。むしろ、外……スラムから出ようとするのも多くなったようで。ただまぁ、それはあまり上手くいっていません。アッシがそうだったように、スラムで育った奴らは読み書きができないのも多くて、まともに働けないのすらいますから」
ニック自身、最初はスラムを出て真っ当に働こうとしていた経験があるからな。
それが上手くいかず、結局スラムに戻るにしてもなんにしても、食うに困る状況が続いて周囲に迷惑をかけるようになってしまったと。
挙句が、外から来たらしい悪人にそそのかされて利用され、俺が初めてラクトスに行った時に絡んできたという……。
似たような話は、もしかしたらそこらにゴロゴロとあるのかもしれないな。
「話は聞いているけど、本当にタクミさんのおかげで治安は改善しつつあるようね」
「俺は、あまりスラム全体の事は考えてはいませんでしたけどね……ははは」
マリエッタさんの言葉に、少しだけ苦笑い。
俺はただ、ディームがいたらリーザが楽しく過ごせない、ラクトスに行くたびに警戒しなきゃいけないとか、そういうのが嫌だっただけで、治安を良くしようとかまではほとんど考えていなかった。
なんの罪もないリーザをイジメるよう仕向けていた、ディームが許せなかったとかはあるけど。
いや、罪があればイジメていいわけでもないが。
「最近では、ニックがスラムとの窓口のようになっておりますね。一部、体調が優れない者にはニック自身が、店の薬草や薬、それに食べ物を買い与える事もあるようで」
「へぇ、そんな事をしていたのかニック」
「いやまぁ……奴らの気持ちはわからなくもないですから。それに、アニキの作った物の素晴らしさを知って欲しいですからね。アニキには、十分過ぎる程の給金をもらっていますし、それでできる範囲くらいですが……」
「それでも大したものだと思うぞ? 他人のために、そこまでできる人間はそうそういないだろう」
俺なんて、スラムでの問題を見聞きしているのに、表立って何かをしているわけでもないからな。
薬草畑の方が落ち着いて、安定して利益が出るようになったら、俺も何かできる事をしてもいいかもしれないなんて、ニックの話を聞いて思ったくらいだ。
これまでがどうあれ、今のニックは素直に尊敬できる。
それに、俺が見たスラムは想像していたよりは綺麗だったけど、衛生状況とか色々と気になるからな。
薬草や薬で、少しでも病気になる人を減らせば今後疫病が広まる可能性も潰せているとも言えるわけだし。
ちょっと大袈裟かもしれないけど。
でも、病が流行って多くの人が亡くなってしまうのは、大抵はあまり衛生的ではなく満足に食べ物も得られない人達だから……。
「ニックとタクミ殿の出会いは聞いたが……我々であれば、ただ捕まえて処罰するだけだったろうし、それしかできなかっただろうが……」
「それができるのも、タクミさんだからですよお父様。あの時、タクミさんが襲われて血の気が引く思いでしたけど、その相手を雇うと考えられるのはタクミさん以外にはできなかったでしょうからね」
そこまで褒められると、面映ゆいし少し顔が熱くなってしまうなぁ――。
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