スリッパが人気商品になっていました
「他にも……」
さらにカレスさんが言うには、ランジ村に来る前やティルラちゃんがラーレとスラムにいた時など、フェンリルが街に入った事もあり、一目見ようという人もいるとかなんとか。
フェンリルが可愛いから見たい……とかではなく、森の奥に棲んでいるフェンリルが人前に出る事なんてこれまでなかったためで、しかも街の人を襲うでもなくむしろ人懐っこい感じから、危険なく見られるからとからしい。
まぁ森に入るような事もなければ、フェンリル達がいるような奥まで行く機会なんてないような人が大半だろうからな。
一生見る事ができないのが普通のフェンリルが、安全に見られるのなら見物したいと思うのが好奇心というものなのかもしれない。
「それだけなく、少々きな臭い話ではあるのですが……」
「まだ何かあるんですか?」
「公爵様が兵を集めていると。そのため、何かあるのではないかという噂も流れていまして……」
そういうカレスさんは、もしかしたらさっきエッケンハルトさんに挨拶をと言っていたけど、その噂を確かめるのもあるのかもしれない。
きな臭い噂とかそういう事に、商人というのは敏感ってイメージがあるから。
ともあれ、エッケンハルトさんが兵士さんを集めているというのは、本当の事だ……というか、この屋敷に向かってもう出発しているだろうし。
噂はどうあれ、大勢が動くにはそれだけ物資が必要で、お金がかかる。
いい意味かはともかくとして、活気付く、経済を回すという部分では一役買っているという事だろうな。
……とりあえずエッケンハルトさんはまだみたいだし、誤解を解いておこう。
「えーっと、それに関してはちょっとした理由がありまして。何か……は起こっているんですけど、なんというか大変な事があるわけでもなくて……」
ニックは話を聞いているだけだが、そちらにも向けてカレスさんと一緒に説明。
さすがに詳細はカナンビスの事も含めて、俺が話すのではなくエッケンハルトさんが話すかどうかの判断をした方がいいだろうから、そこはぼかして伝えたけど。
「ふむ……この村近くの森で、怪しい人物が何かを企んでいると。その調査のため、ですか……」
「はい。もしかしたら危険が広がる可能性もあるので、森を調べるために人を集めているんです。まだ怪しい人物が何人かとか、どれだけの規模か、というのすらわかっていないので」
上手く俺から伝えられない事を誤魔化せた、ようで多分カレスさんは怪しんでいる。
こういうの苦手だからなぁ……。
カナンビスの事を話さなければ、多くの人を集めてわざわざエッケンハルトさんが主導してまで、森を調査するのは大袈裟すぎる、というのは俺でも考えられる事だし。
長年商人をしているカレスさんなら、その辺りを気付くのは当然だろう。
「そ、そういえば、ハルトンさんの仕立て屋はどうなっているかわかりますか?」
とりあえず肝心かなめのカナンビスの話をせずに、話しを続けても怪しませてしまうだけだと考え、強引に話題を変える。
誤解を解くどころか、誤解を深めてしまってはいけないからな……手遅れかもしれないが。
まぁハルトンさんの仕立て屋がどうなっているのか、気になっているのは確かだしな。
スリッパの販売も開始して、売れ行きがどうなっているのかとか……屋敷では好意的に受け入れられて、皆に使ってもらっているけど、俺が提案した物でハルトンさんに損をさせるのは悪いし。
「ハルトンですか? そうですね、直接のやり取りはそうある事ではありませんが……店を構えている場所も離れていますし。ですが、最近は笑いが止まらない様子なのを見かけましたな」
「笑いが止まらない……?」
「はい。スリッパが飛ぶように売れているようです。また、耳が付いた帽子も同じくです」
耳が付いた帽子って、ラクトスでは随分流行っていたようだけどさらに売れているのか。
元々、リーザの獣人の耳を隠すための物だったんだけど……まぁ、売れる商品ができたのなら何よりだ。
売れれば売れる程赤字になるような物でもないし。
「スリッパなら、俺も使わせてもらっていますぜアニキ!」
「ニックもか?」
「実は私もです。一部の者は、足の問題が少しだけ良くなったという評判もありますな」
「カレスさんもですか。そう言えば、屋敷に来た時もすんなりスリッパに履き替えていましたね……でも、足の問題って……あ~」
屋敷の玄関で迎え入れた時、特に説明をする事なくカレスさんがスリッパに履き替えていたのを思い出した。
ニックは知っているし、以前屋敷に連れて来た時に履いていたから特に違和感はなかったんだけど、今考えればカレスさんが何も疑問に思わずスリッパを使うのは、知っているからで、使った事があるからだったんだろうな。
それはともかく、足の問題と聞いてよくわからなかったが、考えてみれば思い当たる事がいくつか。
ブーツとか、密閉された靴が多いから蒸れるわけで、そうなるとまぁ色々な事があるよなと。
あるかわからないけど水虫とか、それでなくてもかゆくなったり、蒸れて臭いがとか、単純にむくんだり、サイズが合わない靴であれば靴擦れとかもあるだろうし。
そういったのが、スリッパを履いている間は多少楽になるから、評判になってもおかしくないのか。
そこまで考えていなくて、単純に屋敷内の清掃が楽になるとか部屋の中では靴を履いていたくない、という考えだったんだけど……これは思わぬ効果かもしれない。
「さらに街では、時折外にまで履いて歩いている方も見かけますな。さすがに今のところ見かけたのは、男性のみですが……」
「まぁ、女性の多くは足元にも気を遣いますからね」
見栄を張るとかではなく、靴もファッションアイテムの一つだからな。
日本とどれだけ意識が違うかまではわからないけど、さすがに外にスリッパを履いて出る女性は少ないだろう。
この屋敷にいる女性達も、スリッパを履いて素足でいる事に抵抗があって、靴下くらいは最低限履いているという人もいるくらいだ。
まぁ今のところ、多少の抵抗感はあっても嫌悪感まで持っている人はいないみたいだし、そういう人もスリッパを履き慣れていくにつれて、足が楽になったと喜んでいたりもするから屋敷内ではスリッパを履く事が継続中。
あと、掃除も楽になったと喜ばれてもいるらしい、そこは狙い通りだな――。
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