ニックがカレスさんを連れて来ました
「まぁそうだよね。僕もそうだけど、こちらの世界に来た人達はほとんどがタクミ君みたいに、ありあまる程のお金が欲しいっていう人はいないから。ともあれ、タクミ君のギフトでやる事やれる事は大体把握できたよ、教えてくれてありがとう。まぁそれでも、興味は尽きないんだけどねぇ」
「う……いや、あまり強い興味関心は持ってほしくないんだけど……」
ずっと俺に付いて回るのはさすがにどうかと思うし、ルグレッタさんが困るばかりなので、少しくらいは興味が薄れて欲しいところだ。
「……って、ん? 俺やユートさん以外の人も、金銭欲が薄い……って事?」
「さて、今日の薬草作りは終わったみたいだし、そろそろルグレッタが顔を赤くして僕を連れ戻しに来そうだから、早々に退散しておこうかなこれ以上ここにいても、タクミ君はギフトを使ってくれなさそうでもあるからね」
「予定分は終わったし、余裕はあるけど他にやる事があるし……あ、行っちゃった」
どれだけの人が別の世界からこちらに来たのかは知らないが、ほとんどの人が多くのお金を欲しがらない、というのは何かあるような気がして、小さく呟いていたんだけど……ユートさんには聞こえなかったのか、はたまたスルーされたのか、気にしない様子で屋敷の方へと走っていった。
いつもなら、ルグレッタさんが呼びに来るまで自分から戻らないのに……。
とはいえ様子がおかしかったとかでもないから、考えすぎか。
「タクミさん、どうかされましたか?」
「いや、うん……なんでもないよ」
「そうですか?」
俺が首を傾げているのをクレアが気にしたようだけど、大した疑問でもないと思い直し、首を振って振り払った。
気にはなるけど、不自然と言う程じゃないだろうからな。
そんなこんなで、薬草作りを終えてリーザやレオを呼んでクレアと談笑しながら、ペータさん達に作った薬草を確認してもらってから、俺達も屋敷へと戻った。
……というかユートさん、届いたあれの事を忘れているんじゃないかな?
まぁ、物があるんだから後でもいいか、今日はこれから他にやる事もあるからな――。
「アニキ、お久しぶりです!!」
「久しぶりって程じゃない気もするけど……とにかくお疲れ様、ニック」
屋敷に戻って少し、昼食前にニックが到着。
細かな時間はともかく、大体昼前には来ると報せが来ていたので、前もって準備をしてニックを迎え入れる……予定していたやる事というのはこれだな。
準備というのは、先程作ったのも含めてラクトスへ卸す薬草の事だな。
まぁ渡すのはニックが帰る頃になるが……さすがに、数時間で往復できる別邸にいた頃とは違い、休みも含めて二、三日滞在予定だし、今渡す必要もないから。
「それと、カレスさんも。わざわざこちらまでお越し頂いて……」
「いえいえ……こちらに、公爵様もおられるとお聞きしましたのでな。一度ご挨拶に伺わねばと。お屋敷の方やタクミ様のご様子なども、見ておきたかったので」
ニックと一緒に、笑顔で横にいるのはラクトスで薬草などの販売をしてくれているお店の責任者……店長? のカレスさんにも挨拶をしておく。
公爵家が持つラクトスでの商店だから、エッケンハルトさんにも挨拶をと一緒に来たんだろう。
まぁ、ちらちらとニックを見ているのもあるから、心配だったのかもしれない。
ニックに関しては、俺が結構強引に雇ってカレスさんに投げた形なのに、ちゃんと見てくれているというのは頼もしいしありがたい。
「それじゃ、ひとまず客間の方に……エッケンハルトさんは今……」
「伝えて参ります」
「すみません、お願いします」
カレスさんとニックを客間に通すよう促す俺に、エッケンハルトさんに伝えるのを承ってくれるゲルダさん。
多かったドジは、フェヤリネッテのせいだった事が判明して最近は減っているけど、慌てるとまだやらかしてしまったりもする。
けど最近は、新人らしさが強かった初対面の時とは違い、少しは落ち着きを備え始めている気がする……ドジをしないよう注意しているからってのもあるだろうけど、いい傾向だと思う。
「相変わらずですなぁ、タクミ様は」
「え?」
客間へと向かう途中、カレスさんが笑顔でそう言うのに対し、どういう事かと聞き返す。
今までのやり取りで、笑顔になるような事ってあったかな? いや、カレスさんは客商売だからか基本的ににこやかな人ではあるけど。
「いえ、使用人を雇い、これほど大きな屋敷を構える人の中には、タクミ様のような方は少ないのですよ。私共を出迎えて下さったのもそうです。多くは、使用人が迎え入れて主人は奥の部屋で待つ事が多いですな。それに、使用人に用を頼む時にも丁寧です」
「そうなんですか? まぁなんとなく想像はできますけど……雇ってやってるとか、自分が上の立場っていうのはあまり考えない質なので。なんというか、お互い丁寧に接して気分よく過ごせればそれが一番かなって」
人間関係に関して、これといった哲学みたいなものがあるわけじゃないけど……誰かの上に立つと考えるよりは、対等に見て接する方が俺としては気分が楽だからな。
お世話とかは、やってもらっている感が強いし。
偉ぶる事で優越感を満たしている人を否定するわけじゃないし、行き過ぎなければ絶対的に悪いとまでは思わないけど、こちらの方が俺らしい。
処世術なんて大層な物じゃないけど、とりあえず丁寧に接していた方がよく見られるだろうというのもあるかな。
あと、親しき中にも礼儀ありとか……大体は、日本にいた時に学んだ事だ。
できるだけ丁寧な言葉を心掛けているのは、さすがにこちらの世界に来てからだけど、右も左もわからない場所で自然とそうするようになっていた。
日本では、目上の人や取引先、お客様とか仕事関係くらいだったけども。
あと、お店に客として入った時とかかな?
「そういうところが、公爵家……そしてクレア様とも相性が良かったのでしょうな。もちろん私としましても、好人物と見ておりますから」
「ははは……ありがとうございます」
偉ぶらない、という意味では公爵家とは相性が良かったのかもしれない。
もしクレアやエッケンハルトさん達が、物語でも良くあるような悪いイメージのお貴族様だったら……今のように笑い合って過ごしたり、色々な事に協力したりはしなかっただろうしな。
というかその場合は、レオと一緒に利用されていた可能性もあるのか。
改めて、森で初めて出会ったのが今のクレアで良かったと思った――。
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