新馬車の耐久テストを終えて屋敷に戻りました
「ふ、ふはは! なんだそんな事か。まぁ集めた人員は一部共に食事をさせるくらいでいいだろう。屋敷に滞在しない者も多くいるから、基本はそちらで食事をさせるつもりだ」
「……前にもこういう事がありましたが、タクミさんらしいですね」
「あれは確か、薬草の販売契約をした時ですかな。タクミ様が、住む場所の心配をしておられました」
俺の心配に、表情を綻ばせて笑うエッケンハルトさん達。
そんな事だとは思わなかったんだろうけど、俺にとっては大事な事……だと思うんだけどなぁ。
皆で一緒に食事をする事で、エッケンハルトさん達と顔を合わせる事すら畏れ多い、みたいな従業員さんとか、フェンリルにまだ忌避感と言う程ではないけど、ちょっと恐怖感を持っていた人なども、今では仲良く話ができるくらいになったし。
いや、フェンリル達と直接会話ができる人は限られているけど、簡単な意思疎通ができる気がするくらいには仲良くなったって事だ。
「タクミ君って、少しズレているような気がするのは僕だけかな? まぁだからこそ、穏やかな雰囲気のままレオちゃんやフェンリル達が一緒にいて心地いいのかもしれないけどねー」
「いやだって、俺がそうすると決めた事ですし……おかげで、エッケンハルトさんも従業員さん達とよく談笑しているじゃないですか?――あと、ズレているとかはユートさんには言われたくない」
これまで黙って俺達の話を聞いていた……というより、カナンビスについて考えていたユートさんが、急にそんな事を言うもんだから、心外だとちょっと口を尖らせてしまった。
ユートさんと比べたら、俺はズレてなんていないはずだからな、多分。
「えー、それはひどくない、タクミ君?」
「む、まぁな。私が公爵家当主であるためか、中々話しかけられる事はないのだが、屋敷やランジ村にいる者達とは親しくなれた自信がある」
「お父様が話しかける機会が少ないのは、別の意味もあると思いますが……」
「ははは、そうだね。クレアの言う通りだ」
「んむ? どういう事だ……?」
不満気なユートさんはともかく、エッケンハルトさんの言葉に顔を見合わせてクスクスと笑う俺とクレア。
今は、リーザに怖がられないように大分前に髭を剃って以来、ちゃんと綺麗に剃るようになっているからマシだけど、以前は大柄なのもあって迫力がマシマシだったからなぁ。
初対面の時なんて、いきなりレオに土下座をしたりするまでは、山賊のような荒っぽい印象があったくらいだ。
……豪快で荒っぽい感じなのは、今も大きく変わらないか。
トロイトについての話し合いからそんな話に移り変わりつつ、新馬車の点検が終わるのを待って、屋敷に向かって再出発をした。
レオやフェリー達に再びハーネスを付けて、馬車を曳いてもらう準備をしながら、セバスチャンさんからは屋敷滞在などに関する費用の相談を受けたりもしたけど。
まぁ相談というか滞在費は公爵家が持つわけだけど、そのまとめなどをどうするかとかだな。
内容としては軽くであって、詳細は屋敷に戻ってアルフレットさんやキースさんを交えて、になるけど。
予算的な部分や試算、実際にかかった費用などを算出して請求など、公爵家が支払うと言っても色々とやる事があるんだなぁ。
……まぁそうだよなぁ、また仕事が増えそうだ――。
――屋敷に戻ってからは、もう一度新馬車の点検。
結論から言うと、今のところ新馬車に損傷個所などは一切なく、丈夫でフェンリル達が曳いても問題ないという事だ。
帰りは、行きよりもさらに速度を出しての耐久テストをしたうえでだ。
経年劣化など、これから使い続けてどうなるかはまだ未知数だが、一応の成功と言えるだろう。
とりあえず、これからは毎日フェンリル達のお散歩に新馬車を曳く、が加わった……継続的に耐久テストをするためだな。
それだけでなく、レオが今回の新馬車試験を気に入ったらしく、時折レオが曳いて俺やリーザがその馬車に乗る、一風変わったお散歩もする事に。
レオにとっては、誰かを背中に乗せる事も好きだけど負荷をかけて走るのも、運動になって好きらしい……結構、訓練とか好きなのかもしれないな。
馬車の方は、とりあえず改良の必要はなさそうなので、これから先の耐久テストなどで問題が出ない限りはこのまま量産する手配をするみたいだ。
それはともかく、俺は俺としてアルフレットさんやキースさんを呼んで、エッケンハルトさん達が集めた兵士さん達を受け入れるための話……後で払われるとしても、差し当たって必要な予算とかの相談。
それと一緒に、ライラさん達には部屋などの準備を進めてもらう。
慌ただしいし、できればもっと早くエッケンハルトさんには言って欲しかったけど、他の事もしていたから仕方ないか。
「えーと、明日はユートさんに頼んでたあれが届くらしいから……それと、薬草畑にも薬草を増やしていかないといけないし……」
夕食後の素振りや風呂を済ませて部屋に戻り、既にベッドでスヤスヤと気持ち良さそうに寝ているリーザを見て朗らかな気持ちになりつつ、明日の予定を確認する。
少しだけ、アルフレットさん達と話していて遅くなったから、眠気に耐えられずにベッドへ倒れ込んだんだろう。
寝ているリーザに毛布を掛けて風邪を引かないようにしておく。
「しかし、こうして考えると別邸にいた頃よりやる事が増えたなぁ。当然っちゃ当然だけど。今日は新しい馬車の耐久テストもあったわけだし……トロイトに関しては、予定にはなかった事だが」
ユートさんに頼んでいた事など、俺からやり始めた事もあるうえに薬草畑の本格始動直前なので、そのための準備に忙しいのは当然だろう。
それでも、日本にいた頃より忙しくないというか、余裕を持って休む時間やレオとかリーザとゆっくりする時間があるのは、嬉しい事だ。
「ワフ。キューンクゥーン……」
「ん、どうしたレオ?」
考え込んでいる俺に、レオが甘えるような鳴き声を出しながら、体を寄せてきた。
というより、こすりつけるような感じだな。
「ワウー。クゥーン?」
「なんだ、甘えたくなったのか? よしよし……」
元気がないとかではなく、ただ単に甘えたいだけみたいだ。
とりあえず体を撫でておく。
馬車を曳いた経験が、ハーネスや手綱もあって散歩みたいな気分だったから、以前の事を思い出して甘えたくなったのかもしれない。
マルチーズだった頃は、俺がいる時はよく抱いていたり膝の上に乗っていたからなぁ。
……風呂の時だけは尻尾を垂らして、距離を取っていたけども――。
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