フェンリルから話を聞きました
「もう私も結構な年になったのだが、そろそろ孫が見たいと考えてもおかしくないと思わないか、タクミ殿……?」
「エ、エッケンハルトさんまで……!!」
おそらくクレアに聞かれたら怒られるかも、と思ったのかもしれないがユートさん以上に声を潜めて耳打ちするエッケンハルトさんの言葉は、さらに俺を追い詰める。
さすがに、好きな女性の父親から直接そういうことを言われるのは、刺激が強すぎると言うかなんというか……。
いや、反対されるよりは全然いいのかもしれないけど……!
なんて、フェンリルから話を聞くはずがいきなり別方向に話がそれてしまい、数分程度からかわれて過ごす事になった。
ちなみに、シェリーがクレアに話していたのは、リルルがフェンに対して説教をしていた内容だったらしい。
シェリーは直接関係ないけど、娘への教育のためにフェンと一緒に聞かせていたという事だとか。
内容としては、新馬車を曳く時にフェンとリルルは二体で一つの馬車を曳いていたんだけど、シェリーが背中に乗っていたのもあってかフェンが張り切り過ぎて、リルルの方が合わせるのに大変だったとかそういう事らしい。
足並みを揃えろって事らしいな。
しょんぼりして落ち込んだ様子のフェンには、後でシェリーを連れてフォローでもしておいた方がいいのかもしれない。
まぁ、ある程度並走する事は慣れているし、フェンとリルルは夫婦として過ごしているけど、さすがに初めての事だしいきなり二体で上手く馬車を曳くのは難しいよな――。
「えぇと、少し話が逸れてしまいましたが……とりあえずフェンリルから話を聞きましょう。――シェリー、いいか?」
「キャゥ!」
ちょっとした、というか主に俺の混乱があったけど、何とか落ち着いた後平静を装ってそう宣言する。
シェリーは任せて! と言うようにクレアに抱かれたまま、元気よく頷いた。
セバスチャンさんやエッケンハルトさん、ユートさんはまだからかい足りないらしく、ちょっと物足りなさそうにしているけど、そちらは無視でいいだろう。
「じゃあ、えっと……まずは魔物を見た時の様子とか……」
「ガゥ」
「キャゥキャゥ!」
気を取り直して、トロイトを発見した時から倒すまでの詳細な様子を、俺やエッケンハルトさん達から質問形式でフェンリルに聞いて行く。
質問して、フェンリルが答え、シェリーが通訳したのをクレアが俺達に伝えるという、少し迂遠な方法になってしまうがそれは仕方ない。
ティルラちゃんのギフトでも通訳はできるだろうし、リーザが入ってもクレアが皆に伝えるという部分が省けるくらいで、手間に関してはあまり大きく変わらないし。
「ふぅむ、興奮していたように見えた……か」
「以前森で、カウフスティアを見つけた時と似たような状況なのかもしれませんね……」
フェンリル曰く、トロイト達は何処か落ち着きなくおそらく興奮していたのではないか、という事みたいだ。
森で狩りを行った時、カウフスティアが興奮状態を示す目が赤くなっているのと、何か重なる。
レオやフェンリル達が近付く気配を感じたから、と思って改めて聞いてみたが、フェンリル達がかなり近付くまでトロイト側は気付かなかったらしい。
まぁ突進の速さはトロイトも相当な物らしいけど、フェンリルの方がもっと早いからなぁ……しかも、察知能力は鋭い嗅覚と聴覚も含めて、かなり遠くまで知る事ができるようだし。
という事はつまり、トロイトは何か別の刺激によって興奮状態になっていたと。
周囲にはレオやフェンリル達も調べてもらったけど、俺たち以外に人はおらず、他の魔物もいない。
その状況でトロイトが興奮する理由はないはずなんだけど……。
「興奮状態のトロイトは、何かを発見したらそちらに突進を仕掛けてもおかしくない。フェンリル達がやってくれて助かったと見るべきだろうな。他の者、それこそ旅の者などが発見したら、危険だっただろう」
「数が多いですし、真っ直ぐ走るのなら馬よりも早いようですからね……」
エッケンハルトさんとクレアは、施政者的な考えでホッとして話しているようだ。
確かに誰か他の人が発見する、もしくはトロイトに発見されていたら危険な目に遭っていたのは想像に難くない。
それにしても馬より早いのか……あくまで、直線を走る速度はという事なんだろうけど。
オークより強いらしいし、多少腕に覚えがあるくらいじゃ大量のトロイトに襲われて、逃げられずに……という事だってあり得たわけだ。
「興奮状態のトロイト……カウフスティアと同じような状況と考えると、もしかして……?」
「タクミ君もそう考えるよね? 僕もだけど、状況を照らし合わせるとその可能性は否定できないね」
「また……はっきり言っていないのに、考えている事を読まないで欲しいけど。でも、一度そう考えたらもうそれしか思い当たらなくなるけど。やっぱり、カナンビスの薬の影響の可能性が高いとみるべきかな」
「証拠とかないし、香りを嗅がせるという性質上残りづらいから仕方ないけど、あり得ないはずの状況だからね……」
カウフスティアが本当にカナンビスの影響下にあったか、というのはわかっていないけど、レオが言っていた嫌な臭いだとか、興奮状態になっていた事。
またあの時はリーザが気分悪くなったり、フェンリル達の様子も少し落ち着かない感じになったりで、それではないかと判断するための材料は一応ある。
それに、カナンビスの薬はフェンリルに対しては戻したりなどの魔力不順による体調不良だったけど、興奮作用のある香りらしいからな。
それらを合わせると、トロイトもカナンビスの薬によって興奮状態になっていた、と考える方が自然だろう。
「前後不覚まではなっていないと思うけど、興奮状態で正常に判断が……というか本能が働いていなかったとするなら、森から出てきてこんな所にいた理由になる、かな?」
「かもね。むしろ、そうじゃないとここにあれだけの数がいた理由に説明が付かない。もちろん、他の可能性があるのも否定できないけど……もしあるとしたら、他にどんな理由があるんだい? って問いかけたいくらい、状況が揃っている気がするよ」
「むぅ、ここでもカナンビスか……」
「森でとなると、フェンリル達と同じように気付いたら香りを嗅いでしまって、影響を受けてしまった。と考えられますからね」
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