一部の人にからかう材料を与えてしまいました
「ま、まぁ俺の事はいいんです。それよりも、片付けも終わってフェンリル達も落ち着いたようですし、トロイトの事を聞いた方が……」
「おっと、そうだったな」
褒められて照れてしまった俺は、とりあえず話を別のものにすり替える事にした。
まぁ本題に戻したようなものだけど。
トロイトと戦ったフェンリル達は、戦闘後のためか少し興奮していて話ができないとか、そういう事は一切ないんだけど、とりあえず落ち着いてもらってから話をしようとなっていた。
その落ち着くためにやったのが、倒したトロイトの片付けというのもどうなんだ? と思わなくもないけど。
ただ、戦うのと違って後片付けと考えたら、ちょうどいいとフェリーが保証してくれた。
事実、俺へと報告に来てくれたフェリーが連れているフェンリルは、俺やクレアが撫でて尻尾を振ったり喜んだりはしていても、興奮はしておらず落ち着いているようだし。
「それじゃ、レオかリーザ……は楽しそうだなぁ。邪魔するのは悪い気がするけど……」
なんとなく、声の調子とかでフェンリル達の言っている事が少しはわかる気がするけど、さすがにそれは飼っている犬が訴えている事が、多少わかるかなという程度。
マルチーズだった頃と違って、今のレオからならよくわかるけど、フェンリル達はまた別だ。
細かな話とかはできないので、通訳としてレオなりリーザなりを呼ぼうと思ってそちらを見てみると、子供達を背中に乗せたり体に貼り付けせて、のっそり動いて遊んでいた。
レオの動きがゆっくりで、体の大きさからのっそりしているように見えるけど、背中はともかく体に張り付いた子供達を落とさないようにするためだろう……子供好きのレオらしい気遣いだ。
小型犬のマルチーズだった時は、全力で走り回っていたけど。
マリエッタさんやエルケリッヒさんも、他のフェンリル達と一緒にそれを眺めている。
特にマリエッタさんは最初の出会いで腰を抜かしてしまったのもあってか、少しフェンリルと距離を取っていたのに、子供達を見るためなのか珍しく距離が近いから、あのままにしておきたかったりもするんだけど。
ともかく、リーザも混じって楽しそうにはしゃいでいるのを邪魔するのは申し訳ないけど、呼ぶしかないか。
「タクミさん、レオ様達が遊んでいるのなら、シェリーを呼びましょう」
「あぁ、シェリーならクレアがわかるからそれでもいいかもね……えっと、シェリーはっと……珍しくレオ達には混ざっていないんだな」
クレアの提案で、代わりにシェリーを呼ぶため視線を巡らせる。
いつもなら、子供達やレオと一緒に遊んでいる事が多いけど、今は違うようで別の場所にいた。
「あっちはあっちで、何か教育が行われている気がするけど……いいのかな?」
お座りしたフェンの横に、シェリーも同じくちょこんとお座りし、その向かいにリルルが立ったまま何かを言っている様子に見える。
説教をされているような構図だけど、だからシェリーがレオ達に混じっていなかったのか。
あれはあれで、教育的指導? とすれば邪魔するのはいけない気がするが……。
「ちょうど終わるところのようですね。リルルに何か言われていたのでしょうけど……シェリー!」
「キャゥ? キュゥ!!」
俺達が見ているのに気付いたわけではなさそうだけど、話が終わったらしく、リルルはフェンの横に移動してお座り……ではなく伏せをして毛づくろいのようなしぐさを始めた。
割と、と言う程色々あるわけではないけど、やっぱり仲がいいんだよなフェンとリルルって……まぁフェンは落ち込んでいるようにしょんぼりしているけど。
ともあれ終わったと見てクレアが呼び掛けると、こちらに顔を向けたシェリーが喜ぶような鳴き声を発して、それと共にこちらへと駆け出した。
「キャゥ、キュウキュゥ!」
「あら、ふふふ、そんな事があったのね」
クレアに駆け寄ったシェリーは、せがむように後ろ足立ちをして前足をクイクイと動かす。
それを見て少し重そうながらも抱き上げたクレアが、何かを訴えるように鳴くシェリーに笑いかけた。
母親に駆け寄った子供が、出来事を話しているみたいだなぁ。
「なんというか、こうして見ているとリルルとシェリーよりも、クレアの方がシェリーの母親みたいだなぁ」
子犬ならぬ子フェンリルのシェリーが、なんとなく人の子供のように見えてそう呟いた。
頭の片隅で、もし子供ができたらこんな微笑ましい光景もよくみられるんだろうか、なんて浮かんでいるけど。
いやまぁ、妹のティルラちゃんとか、リーザ相手に時折近い様子を見たりもしているけど。
なんて考えている俺に、すっごい笑顔になったユートさんが近付いて来る……なんだか嫌な予感が。
「……ふーん。それはつまり、父親は俺だと言いたいんだね、タクミ君?」
「ち……!? へ、変な事言わないでくれるかな!?」
笑顔、というよりニヤニヤと言う表現がぴったりのユートさんに耳打ちされ、焦ってしまう。
さすがに父親が自分、みたいな事までは考えていなかったけど、心を見透かされた気がして一気に顔が熱くなった。
きっと今、俺の顔は真っ赤になっているんだろう。
「だって、タクミ君がそんな事を考えてそうだったからねぇ?」
「こ、心の中を読まないで欲しい……いくらどんな魔法を使えるとしても……」
「いやいや、さすがに心を読むような魔法なんてないよ。こういう時のタクミ君はわかりやすいからねぇ。それに僕、長年人を観察してるからなんとなくわかっちゃったんだ」
「くっ……!」
魔法ではなく長年の経験で、人の機微には鋭いらしいけど……それならルグレッタさんの気持ちにも気づいてあげて、などとはこの場ではさすがに言えない。
けどとにかく、ちょっとの悔しさと恥ずかしさや照れで、言葉が出なくなる。
クレアはキャウキャウ鳴いているシェリーに構っているため、聞こえていないようで助かったけど、俺とユートさんの話、特にユートさんの方の言葉は別の人にも聞こえていた様子。
ユートさんに負けず劣らず、すっごい笑顔でニコニコしているセバスチャンさんと、ユートさんと同じく口角を上げてニヤニヤとしているエッケンハルトさんが、視界の隅に見えた。
だけでなく、エッケンハルトさんはユートさんと同じくこちらに近付いて来た――。
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