旅の護衛にもフェンリルは役立ちそうでした
「出発前、タクミ様との打ち合わせでもし魔物がいた場合の話はしましたが、ここまでスムーズとは思いませんでした」
「まぁ、森で狩りをやりましたからね。その経験が生きているんだと思います」
フェンリルへ指示を出して狩りをするのは、これが初めてじゃないからな。
今回は移動しながらだったため、上手くいくか少し不安だったけど、俺が考えている以上にフェンリル達がしっかり行動してくれたおかげだ。
「人を乗せている場合は降ろして、馬車を曳いている時は魔法で……さすがに大量の魔物とか危険度の高い魔物なら話は別ですが、もう少し慣れたらフェンリル単体でも対処できるようになるんじゃないかと」
今回は集団で挑んでもらったけど、駅馬が始まるとフェンリルが単独で動く事も多くなる。
その場合でも、ある程度の対処はできるように慣れていってもらうつもりだ。
もちろん、フェンリル達が嫌がらない範囲でだが。
フェンリル達は賢いから、すぐに覚えて慣れてくれると思う。
「そうですね……フェンリルで対処できないような魔物、というのもほとんどいませんが……旅の安全はかなり高まるのではないかと思います」
ラーレとフェンリルはどちらが強いのかまではわからないけど、レオも含めて強力過ぎる魔物と一緒にいるから、俺はちょっと感覚がマヒしているかもしれない。
クレアの言う通り、フェンリルが避けなくてはいけないような魔物との遭遇は、大きな事件になりそうだからそうそうないだろう。
……って考えたら、逆にもしかしてという不安にかられてしまうが……これがフラグという奴だろうか?
いやいや、さすがにそんな事はないはずだ、と頭の中に浮かんだ考えを振り払う。
「護衛を付けなくて良くなる、というのは人や物の移動に際して大きな強みになるだろうな」
「大体は聞いていますし、なんとなく理解していますけど……普段はやっぱり護衛を? エッケンハルトさんとか、重要人物の護衛は当然として」
「ふむ、そうだな……それなりに大きな商隊などであれば、腕に覚えのある者や兵を雇って護衛とする事が多いな。まぁ旅で危険なのは何も魔物だけでなく、人もそうなのだが……」
盗賊とかそういった類もいるって話だし、人も危険と言うのは当然か。
地球でだって、そういう事はある。
「護衛を雇うのは、それなりに費用が掛かりますよね?」
「あぁ、そうだな。だから、少人数で旅をする場合には護衛などは望めない事もある。だから、基本的に人の移動は商隊などが多いな。護衛のいる商隊に同行させてもらえば、ある程度の安全は確保できる。もちろん、多少の金銭は発生するが」
危険が予想される旅の場合、お金を払って商隊に同行するという選択もあるってわけか。
もちろん、目的地が同じか近い場所、途中で別れるにしても方角としては同じとかそういう場合のみだろうが。
商隊の方もお金を払って護衛を雇っているんだから、そのおこぼれにあずかろうとするなら金銭が発生するのもわからなくもないし、むしろ当然ともいえるか。
「この公爵領は比較的安全だからね。少人数でも危険が少なくて、旅がしやすいと他領でも評判だよ。でも、それにしたって絶対安全ってわけじゃない」
国内を色々と旅して多くを見ているユートさんらしい意見だ。
日本のように、公共交通機関なり自家用車なりを使って、一人でも一日で数県の移動が安全に簡単にできるわけじゃない以上、危険は比べるべくもないか。
「馬がある場合は、魔物がいても触れず迂回するかさっさと走り去ってしまうに限る。だが、荷物が多いとそうもいかない」
「その場合は?」
「まずは大きく迂回する。魔物が襲ってきて逃げられそうにないなら、荷物を捨てるなどだな。だが、フェンリルがいてくれればそのような事はしなくても良くなりそうだ」
つまり、身軽になって速く走れるようになった馬で逃げるって事か。
なんにせよ、比較的街道沿いは魔物が少ないとしても、遭遇する可能性がある以上警戒して、いざとなれば逃げだす用意はしておかないといけないってところだな。
「損なわれる荷物、人、馬などが減少し、移動が活発になればそれだけ公爵領が発展する可能性も高いというわけですな」
「いいなぁ。他の貴族領というか、国内全域でやって欲しいくらいだよ」
「それはさすがに……フェンリルの数が足りないんじゃないかな? あと、フェンリルを恐れて乗りたくないって人もいるだろうし」
本当に羨ましそうにそう言うユートさんに、苦笑しながら答える。
シルバーフェンリルの言い伝えなどもあり、レオも実際にいる事で公爵領の特にラクトス周辺では、受け入れられそうな素地がある。
けど他の場所だと忌避される可能性の方が多い気がする……というか、フェンリルを敵視する人だって多くなりそうだ。
そもそも、公爵領内だけでもフェンリルの数が足りるかわからないのに、国内全域となるとどれくらいの数が必要になるのか。
そんなにフェンリルがいるわけじゃないだろうしなぁ。
「ま、今はその恩恵に与れるここにいるわけだから、いいんだけどね」
なんて、つい今しがた羨ましそうにしていたのはただのポーズだったのか、にししと笑うユートさん。
「駅馬の話は、屋敷に戻ってからでもいいでしょう、お父様。それよりも、先程のタクミさんです。凛々しくフェンリル達を指揮して……以前も見ましたが、見事にフェンリル達に一糸乱れぬ動きをさせて見せました」
「おぉ、そうだな。あれは見事だったぞタクミ殿。他の者ではそうもいかん。タクミ殿は、そう言った経験があるのか?」
「いえいえ……そんな経験ありませんし、見事に見えたのはフェンリル達がそれぞれで判断して動いてくれたおかげですから」
俺が言った事なんて、特に褒められるほど大した内容じゃなかったからな。
褒められると面映ゆい。
誰かを指揮したりとか、そう言った経験なんて皆無だし……本当なら、指揮とか指示なんて言うよりもお願いしたという感覚に近い。
学生の頃なんて学業は程々に、バイトとレオの世話に明け暮れていたし、就職してからは出世するどころか下っ端でしかなかったのだから。
そんな指揮をするような経験なんて……それこそ、ゲームでやったくらいだし、そういう日本人は多いだろう。
ゲームはあくまでゲームで、かなりリアル寄りな物でも実際とは違うからな――。
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