トロイトがいたのは不自然のようでした
トロイトはオークより強い……か。
だから、セバスチャンさんははっきり進化とは言わず、考え方によって違うと言ったんだろう……二足歩行で手が使える便利さというのもあるから。
完全に上位で全てが強くなるとかだったら、確かにそれは間違いなく進化と言えるのかも。
ただ、トロイトがオークになるかは本当にそうなのか判明していないし、そうではないか? と言われているだけの話で実際は全然違うって事だってあるわけだ。
あと、ポルクスと姿形が似ているが、体内に毒があるらしくそれで外敵を攻撃する事はないが、人や獣が食べる事もできないのだとか。
致死性のある毒ではないみたいだけど、酷い腹痛に襲われるとかで、人によれば危険な事もあるくらいらしい……食中毒みたいなものかもしれないな。
なので、フェンリル達すら食べる事なくそのまま地面に埋めたってわけだ。
ちなみに、トロイトから進化したオークは、さらに環境などに適応するためニグレオスオークのような別のバリエーションみたいな種族に変化するとも言われていると教えてくれた。
進化というよりも、環境に適応するために変化するという方が信憑性はあるが、それがトロイトからとなっている以上、眉唾に近い気がする。
「なんにせよ、先程旦那様もおっしゃいましたように、オークと同じく森に棲み、オークよりも森の奥深くを好んでいるようです。発見報告に森の奥以外はこれまでないと言える程ですから」
「僕が見つける時も、森の奥ばかりだったね。それ以外では……ましてや、こんな周囲に何もない場所にいるなんてのは初めてだ」
今いるのは、ランジ村の南東辺りで周囲は見渡す限り何もない。
いやまぁ、時折木があったり、荒野ではないんだから草が生えていたりはするけど。
とにかく、森のように樹木が生い茂っているような場所じゃないのは間違いない。
長年生きて、さらにいろんな所を旅するだけでなく、時には路銀を稼ぐために森の奥で魔物を狩る事もあるユートさんですら、初めて見る状況と言うのはただ事じゃない。
「しかも、そのトロイトが複数……普段は多くても十に満たない数の群れのようだが、それが少なくとも二十以上いたというのだから、事の重大さが目立っているな」
「はい。本来なら森の外に出る事のない魔物が出てきており、しかも数が異常に多い。何かの前触れとも考えられますが……」
「この辺りなら、もし出て来るとしたら北の森だよね。というか、そこくらいしかないし」
「……うーん、レオやフェンリル達がランジ村に来たから、その気配に恐れた魔物が移動してトロイトを森から追い出した……とかは考えられませんか?」
以前、ランジ村に行く道中に森の近くを通ったらトロルドが複数、森から出てきている事があった。
ラーレ曰く、あれはレオの気配を恐れた森の魔物が棲み処を変えたりなど、色々あって森から出てきたらしいけど。
ランジ村の北側はまだしも、ラクトスに近い方面ではラーレが直接赴いて同じ事が起きないように対処したらしいけども。
……その時に、コッカーとトリースを誘拐してきたんだったなぁ……言葉は物騒だけど、二体とも今は楽しそうに過ごしているけどまさしくあれは誘拐だった。
ともかく、それと同じような事が起こったのでは? という推測だ。
「ない、とは言えないな。だが、それならもっと他の魔物も森から出てきてもおかしくないのではないか?」
「……それは、確かにそうですね」
森には色んな魔物がいるわけだし、奥の方に棲むトロイトが追いやられるよりも先に、もっと森の外に近い魔物の方が追い出されてきている方が自然だ。
オークよりもトロイトの方が強いというならなおさら、ニグレオスオークなどが森の外に出て来るだろう。
ちなみに、トロイトの突進はオークよりも早いどころか、瞬間的には馬の全力襲歩よりも早いらしく、近くからだと避けるのは困難らしい。
さらに口から外に突き出ている牙を、突進の勢いのまま当たってしまうと骨が折れるどころでは済まないのだとか。
突進の勢いはあるけど、基本的に鈍重感があるオークと比べれば、確かにトロイトの方が勝っている気がするし、森を追いやられるのも本来はオークになるだろうとも考えられる。
「他の可能性の方がありそうですね……」
「うむ。だが、タクミ殿の意見ももっともだ。断定できない以上、様々な可能性を考えるのは悪くないな」
エッケンハルトさんはそうフォローしてくれるが、絶対にないとは言えなくとも、レオやフェンリル達の気配などが原因というのは可能性が低そうだ。
なぜこんな所に、いるはずのないトロイトがいるのか……。
森でのカナンビスの薬が使われた調査など、まだ判明していないのに新しい謎が出てくるのは、俺の許容範囲を越えているぞ、ほんとに。
いやまぁ、禁止植物であるカナンビスが出てきた時点で、既に越えている気がするけど。
「グルゥ、グルルゥ」
「お、フェリー。片づけは終わったみたいだな」
「グルゥ」
皆でトロイトがいた理由などに頭を悩ませていると、倒したトロイトの残骸を埋め終え、片付けが終わったフェリーが一体のフェンリルを連れてきた。
連れているフェンリルは、俺が指示をしてトロイトを倒したうちの一体だな。
多分、終了の報告みたいなものだろう。
フェリーもそうだけど、トロイトの片付けの間はレオやフェン、リルルもハーネスを外して馬車から離れて自由にしてもらっている。
いくらレオ達があまり気にしないとしても、ずっと馬車と繋がれて不自由なのは疲れてしまうから休憩も兼ねてだな。
「よーしよし。よくやったぞー、トロイトがこの辺りにいたら、誰かが通りかかった時に危険だったからなぁ」
「ガァゥ。ガフガフ!」
褒める言葉と共に、レオにもそうするように体を撫でてやる。
尻尾をぶんぶん振って喜んでいるから、ご褒美代わりになっているようだ……おやつくらいはあげたいが、さすがに持ってきていないからな。
「しかしフェンリルによる護衛、というより魔物の狩りか。より、タクミ殿の考える駅馬とやらの安全性が、保証されたようなものだな」
「まぁ、フェンリルを皆が信用してくれればですが。フェンリルの方も、ちゃんと言う事を聞いてくれるのも、大きいですけど」
感心するのは、言葉にしたエッケンハルトさんだけでなくクレアやセバスチャンさん達も同じくだ。
俺と同じように、クレアもフェンリルを撫でて褒めているし。
フェンリルの強さというのは、何度か目の当たりにしていたけど……今回のようにお願いすれば、駅馬の利用者が魔物と遭遇しても危険がかなり少ないというのが、印象付けられたと思う――。
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